[コラム,ブルワー]2021.7.24

【ビールエッセイ】嗚呼、愛しのクラフトビール! ~無口で雄弁な小豆島への案内人「SHODOSHIMA100」~

日本45都道府県といってしまうくらいにわたしは地理が苦手だ。

日本地図を思い浮かべようにも、様々な県はふわりふわりと所在なさげに漂ってしまう。その昔、先生に茨城県の大学を薦められた際「日本海側は雪が深いのでちょっと……」といって呆れられたのはいい思い出だ(結果住んだ茨城県はとても素敵な場所でした)。これは空間認識能力が著しく低いのが原因なのだとは思うのだが、とにかく地図上の「色のない世界」が覚えられないのだ。

そんな日本地図音痴なわたしだが、最近とある島の場所だけはちゃんと指さすことができるようになった。

「小豆島」

瀬戸内海に浮かぶオリーブ栽培の発祥とされる島だ。

小豆島

写真提供:photoAc


以前から小豆島のことは知っていた。まめまめびーるという島の恵みをたっぷりと使ったビールを造るブルワリーがあって、小豆島の柑橘をつかった「あかまめまめ」や、オリーブをつかった「i love olive」などといったビールを飲んだことがあったから。その味わいはストレートに身体の芯に響くようにおいしくて、「滋味」という単語がやけにしっくりとくるような味わいだった。

それでも今までは小豆島という島が正直どこにあるのか、あまりよくわかっていなかったように思う。「西日本らへんにあるクラフトビールの美味しい島」そんな漠然としたイメージでしかなかったのだ。

そんなわたしのマップにピンを打ち、グーグルマップの黄色い人よろしくびゅんと地図上に下りたたせたのは、まめまめびーるの「SHODOSHIMA100」という1本のビールだった。麦芽、ホップ、酵母、原材料すべてが小豆島産。まさに「まるごと小豆島」と言わんばかりのビールだ。

まめまめびーる shodoshima100 小豆島

写真提供:まめまめびーる


小豆島を背景に描かれた麦とオリーブの花。そしてすべて小豆島産を表す100の文字。こんなラベルを見せられたらどうしたってもわくわくしてしまう。逸る気持ちを抑えながらグラスに注ぐと、現れたのは澄んだ黄色の液体。口に含むとスッキリとしつつも、麦の香りや甘みをくっきり感じる味わいだった。

柔らかな苦み、ゆっくりと残るコク。そして根底に流れる美しき水の清らかさ。バランスがよく、とにかく美味しいビールだった。でも一番特筆すべきは、一拍おいた後のそのオリーブの花が花開くような香りだったように思う。

力強い自然の中で咲く、美しき白い花

もちろんラベルにそのイメージを引っ張られた可能性はある。でも舌先で確かにその映像を見たのだ。そしてその瞬間思った。「あぁこれは本当に小豆島を醸したものなのだ」と。

「SHODOSHIMA100」には原材料たちが地を踏み鳴らし、自己主張しているような力強きパワーがある。「どうだ!小豆島を感じたか?麦を、ホップを育てた土はうまかろう?オリーブ酵母たちの声を感じたか?水の冷たさに、清らかさに痺れるだろう?」わたしは目を閉じ、舌先に残った味わいを確かめながら何度もビールの声を聞いた。

「これが!小豆島だ!」そんなぐうっと引き込まれるような強い吸引力。引き込まれるようにして見上げた空は真っ青で、周囲を見渡せばオリーブの木々が美しく揺れていた。

オリーブ 小豆島 まめまめびーる

写真提供:まめまめびーる

小豆島を醸すための苦労

「SHODOSHIMA100」を飲んだわたしは居てもたってもいられなくなり、まめまめびーるのブルワー中田さんにコンタクトを取った。SNSやブログでこのビールについて一通り読んだものの、もっと詳しくこのビールの誕生秘話を聞きたくなってしまったのだ。

何度か画面越しにお会いしたことはあったものの、まめまめびーるの中田さんとサシでお話するのは初めてだった。中田さんは少しシュっとした、深くてあたたかいイメージの人。人の持つ優しい雰囲気はZoomの画面越しでも伝わるから不思議だ。

まめまめびーる 中田

写真提供:まめまめびーる


そんな中田さんにわたしは「SHODOSHIMA100」について質問をぶつけ続けた。「麦芽は?」「ホップは?」「酵母はどうやってみつけたのか?」「苦労したことはどんなことか?」正直好奇心が空回りしていたように思う。そんなわたしの矢継ぎ早な質問に対し、中田さんはにこにこと嫌な顔ひとつせずに回答してくれた。

麦は初年度から収穫することができたものの、発芽試験で思うように発芽せず麦芽にすることができなかったこと(麦芽にしてもらうためには発芽試験で95%が発芽しなければ製麦してもらえない。しかし中田さんの持ち込んだ麦はその基準を満たすことができなかった。原因は恐らく粒のばらつきと麦の水分量が多すぎたせい。それを解決するため多くの人にアドバイスをもらったり協力をしてもらった。他収穫時期を遅らせて麦を大きくしたり、天日干しをして15度で4か月置いておいたり。そして2.5ミリ以上の麦だけを選別することを実施したりした。……麦芽にするってなんて細かで大変な作業!)。

まめまめびーる

写真提供:まめまめびーる


ホップも試行錯誤しながら、どうにかこうにか地元の人々に協力してもらいながら育てあげたこと(ホップは涼しいところで栽培するものであり、小豆島で育てることができるのか最初はわからなかったそうだ。最初はあまり収穫できなかったものの、農家さんの土地に植えたところ一気に収穫量が増えたとのこと。……土って大事!)。
ホップ まめまめびーる

写真提供:まめまめびーる


そして中田さんが数年かけて探し続けていた「小豆島ならでは」の酵母。それが麦芽、ホップと原材料が揃ったタイミングで、小豆島で発見されたこと(小豆島の歴史ある会社、ヤマヒサ醤油が10年越しに探していた酵母がなんとこのタイミングで発見された。お酒を醸すことができる「オリーブ花酵母」……なんたるタイミング!まさに運命!)。
オリーブ花酵母 まめまめびーる

写真提供:photoAc


挑戦開始から丸3年。「ビールを生業にしようと決めた時から、いつかは全部地元のもので造ってみたいと思っていた」という中田さんの目標は「SHODOSHIMA100」として形になったのだ。

「なぜ地元のみの原材料でビールを造ろうと思ったのか」最後にぶつけたわたしの疑問に対して、中田さんはこう答えてくれた。

「自分は『地ビール』という概念が好きなんです。地元の人々みんなで一緒に造り上げた、という感じがするじゃないですか。『その土地の皆でビールを造る』これが自分がビール造りをやろうと思ったきっかけでもあり、これからもやりたいことなんです」と。

まだ見ぬ土地を「色付き」で見ることができる、ビールにはそんな力がある

「土地」を大事にしたビールは、口にした瞬間に自分とその土地を結び付けるような力をもっている。ふっと風が吹くような、まだ見たことのない土地を色付きで見せてくれるような。そんな不思議な力があることを、わたしはまめまめびーるの「SHODOSHIMA100」に教えてもらった。

行ったことも、どこにあるのかもよくわからなかった小豆島の美しき自然は、いまわたしの身体の中にある。舌で感じる、目で見るそれとは違う色鮮やかな世界。1本のビールで遠く離れた場所がこんなにも身近な場所になるとは思ってもみなかった。

写真提供:まめまめびーる

「SHODOSHIMA100」はホップ収穫高により100L程とごくごく少量での醸造。すでに売り切れてしまっている。しかし今季収穫の小豆島産ホップがどんどんと届いているため、現在追加の醸造も検討しているという。

すべてその土地のものでビールを醸す。ひょっとしたらそれは、その土地の持つ記憶も人々の想いをもすべて入れ込むことになるのかもしれない。

……っとまあそんな大げさなことでなかったとしても。
わたしにとっての「SHODOSHIMA100」は確実に小豆島へのガイドであったことは確かだ。もの静かでありながらも、実に雄弁な。そして最高に情熱的な案内人。

これから先もずっと自分の地図に刻まれたこの地のことを忘れることはないだろう。

まめまめびーるエッセイクラフトビールビールルッぱらかなえ小豆島
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この記事を書いたひと

ルッぱらかなえ(小林加苗)

ビアジャーナリスト

お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター(ただの転勤族)。
『クラフトビールは骨まで愛する』をモットーに活動中。
造り手の想いやビールが生まれた土壌をとことん調べ尽くし、存分に味わい、そして飲み終わった後はラベルや王冠をアクセサリーにしてコレクションしています。
記事執筆の他、クラフトビール関連の小説執筆、企業SNS運用(twitter中の人)も行っています。
居酒屋店長の経験を活かし、子供と楽しむおうち居酒屋も提案中!

■執筆歴■
日本文化の入口マガジン和樂web
https://intojapanwaraku.com/author/beer-berry-kanae/

クラフトビール定期便 オトモニ
―MAGAZINE B3
―ニンカシの横顔(短編小説)
https://note.com/otomoni/m/m06a7e5075948

―ひとんちのおうちのみ(インタビュー記事)
https://note.com/otomoni/m/m690a4305b94b

お酒の失敗談をまとめたエッセイ
https://note.com/papikoro/m/mf45db53b0fd1

■メディア出演■
日刊ゲンダイ

過去執筆まとめ
https://beerbelly-kanae.com

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