[コラム,ブルワー]2021.8.30

「SHIRIBESHI」(後志)が熱い! 国際的観光地に広がろうとしている北海道のブルワリーホットスポット

北海道の中心都市札幌の西側、小樽からニセコをまたぐエリアである後志(しりべし)地方にブルワリー創業ラッシュが訪れようとしています。既存のブルワリーは6つ、そこからなんと3つものブルワリーが具体的に創業準備をしていて、来年にも9つのブルワリーになります。北海道は全国でも3番目の醸造所数を持ち(26か所)、そのうちの三分の一近くが後志に集まることになります。九州や四国の各県単位での醸造所数に匹敵するほどの数です。

この記事では、前半で新しい4つのブルワリーの横顔を紹介し、後半ではこの後志地域がなぜブルワリーの「ホットスポット」となりつつあるのかの分析を試みます。そしてそれは、後志という一地方だけの話に留まらないことで、クラフトビールには「ローカル」が大切であることと、創業ブルワーの熱意が継続に繋がっていくことを見ていきます。

■SHIRIBESHI(後志)のビール

後ろに志すと書いて「しりべし」と読みます。広い北海道はいくつかの市町村をまとめる「振興局」という単位があり(かつては「支庁」と言っていました)、今回取り上げるエリア「後志総合振興局」には1市13町6村で20万人の人口があります。

後志のブルワリーをまとめると以下のようになります。

ブランド名
会社名
所在地
創業
アレフ
小樽市
1995年
北海道ワイン
小樽市
1997年
北海道麦酒醸造
小樽市
2004年
ニセコビール
ニセコ町
2014年
ルピシア
ニセコ町
2019年
余市ビール
余市町(現在の醸造地は積丹町)
2021年1月
Hokkaido700
倶知安町
2021年9月(予定)
ジャパーナプランニング
仁木町
2021年(予定)
(未定)
岩内町
2022年(予定)

※他にも創業の「噂」を現地で聞きましたが、現時点で裏づけを取れているところのみを載せています

後志の最大都市である小樽では、1995年に北海道で2番目の「小樽ビール」が誕生したのを皮切りに、有名観光地という背景もあって「地ビールブーム」が訪れます。2000年ごろの最盛期には、小樽市内だけで6つのブルワリーがありました(上記「小樽」「小樽ワイナリー」の他に「海鱗丸」「小樽丘の上」「GYAO」「小樽ブルワリー」)。他にニセコにもブルワリーができました。

2004年に「小樽麦酒」が誕生した後はしばらく創業が途絶えますが、2014年になって「ニセコビール」が誕生します。ニセコビールは現在「ジャパン グレート ビア アワーズ」「インターナショナルビアカップ」などのコンペティションで受賞常連ブルワリーにまでなりました。

2019年には紅茶専門店のルピシアがニセコ町に本社移転をすると同時にビール醸造所「羊蹄山麓ビール」を創業しました。

そして、今年から来年にかけて創業、もしくは創業しようとしている新しいブルワリーが4つもあります。ひとつずつご紹介するとともに、各社の担当者の方から一言ずついただきました。

■後志の新しいブルワリーの紹介

41 BEER CRAFT WORKS(余市町)

41Beer Craft Works

余市町と言えば、ニッカウヰスキーの発祥地として全国的に名を知られていますが、実はワインのヴィンヤードが密集している地域で、最近ではリキュールも加わり様々なお酒の集まる町です。

余市ビール「41 BEER CRAFT WORKS」は2020年10月27日に醸造免許を取得し、2021年7月末に余市駅前に「Tap & Bar Ballad of Yoichi」をオープン。現在、醸造はこの場ではなく、隣町の積丹町となっていますが、2024年には余市町内の複合施設に移転オープンします。

現在、余市周辺の名所を名前に冠して、ペールエール、IPA、セゾン、ポーター、ヴァイツェンを製造しています。

ブルワリーより直接のコメントをいただきました。

アメリカンスタイルをベースに置きつつ、余市、後志の人に楽しんでもらえる地域に根差したビール造りを目指していきます!

関連リンク:41 BEER CRAFT WORKS

Black Fox Beer 倶知安(倶知安町)

Black Fox

ニセコエリアの中心地である倶知安町にできるのが、「Black Fox Beer 倶知安」。町内で複数の飲食店を営む長島昌志氏が立ち上げるブルワリーです。醸造免許はすでに取得済みで、2021年9月に最初の醸造を開始します。

現在、設備拡張を目的としたクラウドファンディングを実施中です(2021年9月21日まで)。

「北海道内最小ブルワリー・コロナ渦での醸造開始で地域を元気にしたい!」
https://camp-fire.jp/projects/view/450802

社長でありブルワーの長島昌志氏よりコメントをいただきました。

地元(倶知安)の人に喜んでもらえるビールを作りたいです。この町には多種多様な住民が生活していて、独特の良いグルーブを生み出しています。地元の飲食店や、農家さん、スノーボート、スキー関係者との協力の元に「個性的で倶知安らしい」と言ってもらえるようなビールを作りたいです。

関連リンク:Black Fox Beer ビール倶知安

NIKIYA BREWERY(仁木町)

後志にはワインのヴィンヤードがたくさんあることを上に書きましたが、そのメッカが、余市町とその南隣の仁木町です。この地域には葡萄畑ばかりではなくたくさんの果樹園が並びます。その中の「フルーツ街道」という愛称の道路の途上にある果樹園店「NIKIYA FARM & BREWERY」内に設立予定のブルワリーが「NIKIYA BREWERY」です。

「ファームハウス・ブルワリー」としてフルーツをフィーチャーしたビール造りを中心に行く予定です。試験的なホップ栽培を今年からすでに開始しており、ファームハウス(農家)の利点を活かしていきます。また、本社は観光会社を経営し台湾などのアジアへのパイプも持っていて、「北海道発クラフトビール」としてアジアへの出荷も目論んでいます。

8月に行われた試験栽培ホップの収穫

ブルワーの大木直都氏よりコメントをいただきました。

仁木・余市の顔であり伝統であるフルーツに、ビールの多様性を掛け合わせ、ビールの楽しさを楽しんでもらえるビール造りをしていきたい。もちろんフルーツ系以外も主力の1つに作る予定です!

関連リンク:NIKIYA FARM & BREWERY

shiribeshi_beer

ここまで紹介の3社がホップ収穫に集いました(撮影のためマスクを外しています)

いわない高原ホテル(岩内町)

iwanai_kogen_hotel

ホテル敷地内のフィンランド風のコテージを改造して宿泊施設付き醸造所にする

「野生ホップ発見の地」である岩内町。1871年(明治4年)明治政府のお雇い外国人だったトマス・アンチセルがこの地域の炭鉱を調査中にカラハナソウ(ホップ=セイヨウカラハナソウの近隣種)を発見。中央政府への報告書に「北海道には野生ホップが自生している。ビール産業の土地としてふさわしい」という内容を提出したことをきっかけにして、その後札幌に開拓使醸造所(サッポロビールの直接の前身)が設立されます。開拓使醸造所は日本で本格的なラガービールを始めたブルワリーですから、岩内は日本ビール産業の始まりの土地のひとつなのです。

その地に2022年ビール醸造所を創業しようとしているのがいわない高原ホテルです。山の中腹地にあるこの地域で1990年代に温泉が湧き出たことから観光地化が進み開業しました。ホテルは267点のピカソ作品を所蔵する美術館を併設するなど多角的な経営をしています。

このたび施設の一つを全面改装し、宿泊部屋と醸造所が完全に一体となる北海道では初めてのケースとなる滞在型ブルワリーを開設予定です。

代表の荒井高志氏よりコメントをいただきました。

「岩内のクラフトビールが忘れられない」と思ってもらえるブルワリーになりたいです。ローカルに愛され、岩内好きに愛され、クラフトビール好きに愛され、ビールを片手に語らう空間作りを目指します。そして、クラフトビールがローカルエリアの観光の楽しみの一つになればいいな、と思っています。

関連リンク:いわない高原ホテル

■後志がブルワリーの「ホットスポット」となる理由

北海道最大の都市である札幌でさえ、2021年5月に「TRANS BREWING」が誕生した後は、これほどの活発な動きがありません。なぜ後志地域にたくさんのブルワリーが誕生しようとしているのでしょうか?

まず、この地域は「一大酒どころ」という一面があります。ウイスキー蒸留所は、ニッカの余市蒸留所の他にニセコに蒸留所ができようとしています。クラフトジン専門の蒸留所も積丹町に1つ。日本酒の蔵元が2つ。リキュール製造所が1つ。そして特筆すべきはワインのヴィンヤード。国際的な評価が上がってきている「ドメーヌ・タカヒコ」を始めとして、余市から仁木に掛けたエリアだけで約40か所ものワイン醸造所ないしワイン葡萄農場が存在しています。

「クラフト」という小規模醸造の象徴であるビール醸造所がこの地域にたくさんできようとしているのは、この「酒どころ」という流れから考えれば決して不思議なことではありません。

ニセコ蒸留所

ドメーヌ・タカヒコでもホップを少量栽培している。ホップは千葉県のハーヴェストムーンのためのもので、秋に「Yoichi style IPA」として発売される。

 

また、後志地域は観光地の側面が強い地域です。運河で有名な港町・小樽や、アジア有数のスキーリゾート地となっているニセコ、世界的に有名なウイスキー蒸留所のある余市もあります。関東で言えば横浜、関西で言えば神戸のような国際的な観光地が多いのが特徴です。高速道路で札幌から1時間、千歳空港からでも2時間程度というアクセスの良さもまた利点となっています。

2018年に「発泡酒製造免許」の条件が変わることをきっかけにして起こった「ブルワリー創業ラッシュ」。それは、たくさんの飲み手が存在する都市を中心とした現象でした。都市に次いで飲み手が多いところはどこでしょう。それは「観光客」が集まるところです。免許改訂後は、地方の盛り上がりが大きくなっていることはその証左です。

地方では都市に比べて、地代が安いことが大きなメリットとしてあります。この後志も、地代が安いのはもちろんのこと、大都市(消費地)札幌から遠くないというメリットがあります。

そして小樽~余市~ニセコはアジア各国から人が訪れる国際的観光地です。当地で飲んでもらえることはもちろん、将来的に海外へ視野を広げることも可能です。

小樽余市ニセコイメージ

「酒どころ」であり、地元での消費ばかりではなく近くに多くの飲み手がいる都市があり、国際的にも視野を広げられるこの後志に、クラフトビール設立ラッシュが起こるのは自然な流れと言えるでしょう。

■「ローカル」はクラフトビールの必然的な方向

しかし、デメリットもあります。「観光客」はそれほど「クラフトビール」を飲むのでしょうか? また、執筆時のようなパンデミック下で観光客が激減しているときに大丈夫なのでしょうか?

たしかに、一般的なビール愛好家は残念ながらピルスナーしか飲みません。また自動車でなければ行けないような土地では、一番消費を期待される成人男性はドライバー本人であることが多いので、ビールの消費量に限界があります。そうなるとお土産として買ってもらうしかありません。しかし観光地の名前が付いただけの「お土産ビール」では、購買の面でも品質保持の面でも限界があります。20年前に「地ビールブーム」がしぼんだ原因の一つがこのことだったのは間違いありません。

では、「観光客」にクラフトビールを飲んでもらうためになにでカバーするのか。それは、その土地が持つ「バックボーン」や「ストーリー」です。

幸いなことに、今回取り上げた4つのブルワリーにはそれがあります。余市・仁木であれば、ウイスキーやワインを楽しむ人たちが集まります。倶知安・ニセコは滞在型のリゾートなので運転の心配をしなくて済みます。岩内は観光地としてはまだ劣る面がありますが、この土地は「野生ホップ発見の地」で、サッポロビール(開拓使麦酒)が誕生するきっかけとなった町。そのビールストーリーがある上に、宿泊滞在型のブルワリーを造ろうとしています。

岩内町郷土館の「野生ホップ発見の地」碑。このホップはサッポロビールが提供した苗(信州早生)ですが、この地域には今でも「野良ホップ」が自生しています。筆者も2か所ほど把握しております。いずれ記事にするつもりです。

2018年ごろのクラフトビール創業ラッシュは、当初は飲み手がたくさんいる大都市中心の現象でしたが、その後は「ローカル」を大事にして創業するブルワリーが増えてきています。今から20年前には不十分な「ブーム」で終わってしまった「地ビール」が、また盛り返せる機運が高まっているのです。

もともと「クラフト」は「手作り」という意味合いのものです。「手作り・小規模」のビールが「工業的・大手」のそれと勝負するためには、「個性」を味に反映し、多くの人に手に取ってもらえるかがカギです。

個性を引き立てるのに、「ローカル」はとても大きな武器となります。「誰」が造っているかは、もちろんクラフトビールには大切な要素です。しかし、その醸造する本人と直接知り合える機会はほとんどの消費者にはなく、「どこ」で造っているかの方が判断の要素となります。しかも醸造免許は「人」にではなく「場所」に与えられるものです。

したがって「クラフトビールを造る」ということは、「どの場所で造られたか」ということが重要なファクターとなります。ローカル性の重視はクラフトビールの必然的な方向なのです。

ローカルに根差すということはもちろん、消費を観光客にだけ頼ることではありません。地元の人たちにも愛飲してもらうことが大切です。地元の人が楽しむ地元の味。その「地元密着」がローカル性の核心であることは言うまでもないことでしょう。

「国際性」(グローバル)のある地域で、「地元密着」のローカルなビールを造ること。それは矛盾するどころか、連環する関係にあります。この後志という地域は、両者が程よく調和する条件が揃っています。そして全国的に見ても、そういう条件の地域はまだたくさんあるのではないでしょうか。

■ホットスポットとして継続していくために

新しくブルワリーを起こすことは、とても困難が伴います。しかし言うまでもなく、それ以上に大変なのは継続することです。

誰もが納得する「美味しいビール」を造るという目標を早く達成し、軌道に乗せなければなりません。

2000年までの「地ビールブーム」のときは、担当者が変わってしまったことをきっかけにそのまま縮小→閉鎖というところも少なくありませんでした。立ち上げが比較的容易である半面、担当者の代が変わればそのまま終わってしまう危険も高いのです。

継続のためには、起業しようとしている創業者の「今・現在の情熱」がどれだけ強いか、またそれを組織に還元できるかが成否を分けます。飲み手としては、その情熱を熱く熱く応援していきたいです。

クラフトビールニセコローカルビア仁木余市北海道小樽岩内後志
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この記事を書いたひと

坂巻 紀久雄

ビアジャーナリスト

東京都葛飾区出身。2000年に北海道札幌市へ移住。ビール専門店勤務で経験を積み、2013年にビールとモルトウイスキーの専門店「Maltheads(モルトヘッズ)」を開店。
札幌は、日本のビールの発祥地のひとつであり、「ビールの都」ドイツ・ミュンヘンと「ビール天国」アメリカ・ポートランドと姉妹都市でもある。そこを「日本のビールの首都」として盛り立てるべく奮闘中。
「サッポロ・クラフト・ビア・フォレスト」の実行委員でもあり、北海道でビールを盛り立てるための活動を積極的に行っている。ウイスキーの知識もあり「狸小路のマイケル・ジャクソン」を目指す。
びあけん1級(2013-14 2年連続合格)/日本地ビール協会(JCBA)認定ビアテイスター/ウイスキー検定2級

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