[コラム]2025.2.12

【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 84~老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ参

ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です

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その日、夏はいつもと変わらず、開店準備中のつるのところへ遊びに行っていた。二人で麦芽をのぞき込みながら、喜兵寿と直はほっぷを手に入れられただろうか、などと話に花を咲かす。

そこへ突如、大勢の男たちがやってきたのだ。何がなんだかわからないうちに、つるは表通りへと引っ張り出された。
「お前がつるで間違いないな。令状だ、逮捕する」

もちろんなんのことが全くわからなかった。寝耳に水とはまさにこのこと。つると夏は思わず顔を見合わせる。

「あの……すみませんが、きっと何かの間違いだと思います」

つるが口を開くと、令状を手にした男がすらりと刀を抜いた。

「罪人が口を揃えて、みな同じことを言う」

そういってつるの髪を掴むと、思いっきり地面へと押し付けた。

「……つるちゃん!」

駆け寄ろうとした夏を、別の男が羽交い絞めにする。

「もう一度聞く。お前がつるで間違いないな?」

「……はい、そうでございます」

一体何が起こっているというのだ。つるは湧き上がってくる恐怖を、必死で飲み込みながら答えた。手が、おでこが痛い。刺すような男の声に足が震える。

「お前に令状がでている。自らの罪はわかっているな?」

「わたしは何もしていません!何かの間違いです!」

―――

そこからは新之亟(しんのじょう)が見たままだった。つまり、つるは何がなんだかわからないままに逮捕されたのだ。

「令状に何が書かれているかは見たか?」

夏は小さく首を振る。
「そんなもの見ている余裕はありませんでした……」

「まあ、そうだよな」

状況はよくわからないが、つるが逮捕されてしまったことは事実。まずは冷静になって、情報を集める必要がある。

新之亟は涙をこぼし続ける夏に、自分の羽織をかけた。

「俺はいまから小伝馬町の座敷牢に行ってくる。中には入れないだろうが、何かしらの手がかりは掴めるかもしれない」

「……」

夏は黙ったまま頷く。

「十中八九何かの間違いだろ。つるが逮捕されるなんてありえない。ま、迎えに行くつもりで行ってくるよ」

新之亟は、夏に向かってにっこりと笑う。

「俺、足だけは自信あんだよね。夏は家に帰って休んどきな」

そう言うと、新之亟は勢いよく走り出したのであった。

―続く

※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

ルッぱらかなえ

ビアジャーナリスト

ビールに心臓を捧げよ!
お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター。
和樂webや雑誌「ビール王国」など様々な媒体での記事執筆の他、クラフトビール定期便オトモニでの銘柄選定、飲食店等へのビール提案などといった業務も行っています。
朝から晩まで頭の中はいつだってビールでいっぱい!

ビールの面白さをより多くの人に伝えるため、ビールをテーマにした小説「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗」を連載中。小説内で出来上がる「江戸ビール」は、実際に醸造、販売予定なので、ぜひオンタイムで小説の世界を楽しんでいただきたいです!

その他、ビールタロット占い師としても活動中(けやきひろばビール祭り、ちばまるごとBEERRIDE等ビアフェスメイン)
占い内容と共に、開運ビアスタイルをお伝えしております。

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