[テイスティング]2014.4.7

沈思酒考-04 「サンフーヤン・グランクリュ」

グランクリュサンフーヤン大瓶

沈思酒考 〜それはビールを飲みながら、溶け出す輪郭なき駄考の戯れ〜

サンフーヤン・グランクリュエールスミスのグランクリュを飲んだので、グランクリュつながりでサンフーヤンのグランクリュを買ってみた。グランクリュというのは、まぁ、畑の等級とは関係なく、そのブランドの最高級であることを表現しているらしい。

ボトル裏の日本語ラベルを見ると、
「最上級のホップを使用した、輝きのあるブロンドビール。ボリューム感もあり、深く芳醇な味わいです」とある。
アルコールは9.5%。原材料は、麦芽、ホップ、糖類とある。ベルギービールというと想起されるオレンジやレモンのピール、コリアンダーシードなどは使われていないと言うことらしい。

コルクを抜いて、ワイングラスに注ぐ。金色に輝く液体にわずかに濁りがあるか。ボトルの表示だと8度から10度くらいが飲み頃だとある。温度は10度くらい。

最初に、蜂蜜のような香りが届く。そこに柑橘系のニュアンス。口に含むと、ちょっと表現しがたい味がする。そしてホップが強く主張し、口中をきりりと切っていく。その最後に酸味が舌を捉える。

そういえば、エールスミスのグランクリュを飲んだときは、庭一面が雪に覆われていた。今その庭には、小さな緑がはびこり出している。

「雑草という名の草はない」

詩人の工藤直子さんにエッセイを書いてもらったときのタイトルだ。

いつの時もそうだが、面識のないそれなりの方にオファーするというのは緊張するものである。工藤さんにお願いしたのは、昭和の昔。私も若く、電話をかけるのに相当勇気をふりしぼった記憶がある。

会社名を告げたところで
「あら」というリアクション。
その当時私が勤めていた会社のことを工藤さんは知っていたのだ。詳しい経緯を聞こうとしても、「あなた、全然知らないんでしょ。敢えて話すことでもないわ」と意味深長な答え。

結局、どんなつながりがあったのかは教えてもらえなかったのだが、仕事は受けてもらえた。そして書いてもらったのが「雑草という名の草はない」というエッセイだった。

このエッセイが表に出ると、知り合いのカメラマンから電話がかかってきた。あのエッセイはよかったと。彼はのちに「ランクル大王」となる。

さて、これと似たフレーズがどこかにあったなと(笑)

「とりあえずというビールはない」

san_grancru_glassグランクリュという名は、豊穣なビールの世界に放たれた自信作であることを示しているのだ。とりあえず飲むものでは決してないし、とりあえずでこのビールが出てきたらびっくりしてしまうに違いない。

須賀敦子さんの『ミラノ 霧の風景』にこんな話があった。
「あるとき、ミラノ生まれの友人と車で遠くまで行く約束をしていたが、その日はひどい霧だった。遠出はあきらめようか、と言うと、彼女は、え、と私の顔を見て、どうして? 霧だから? と不思議そうな顔をした。視界十メートルという国道を、彼女は平然として時速百キロメートルを超す運転をした。『土手』にぶつかるたびに、私の足はまぼろしのブレーキを踏んでいた。こわくないよ、と彼女は言った。私たちは霧の中で生まれたんだもの。」(*1)

土手とは、深い霧が塊のように見えたときのことらしい。霧の中で生まれ育ったミラノっ子は、霧なんておちゃのこさいさいなのだ。

サンフーヤンは、ブリュッセルの南西、ル・ルゥという小さな町の中心部にある。7世紀にアイルランド人のフーヤンが殉教したあと、彼の信仰者たちがフーヤン修道院を建て、ビールを何世紀にもわたって醸造してきた。フランス革命後に修道院は破壊されてしまうのだが、フリアー醸造所が1950年から「サン フーヤン・シリーズ」の醸造し、それが現在のサンフーヤン醸造所になったのだという。現在も1894年に建てられた醸造所がほぼそのまま使われているのだとか。

1950年かぁ。その頃はまだミラノもずいぶんと霧深かったのだろう。

霧のまち、ミラノ。ビールの国、ベルギー。サンフーヤンがあることが当たり前の彼の地で、とりあえずのビールは理解されないだろう。

グラン・プリ、グラン・ブルー……。「グラン」の響きになにか特別なものが含まれている。名も知らぬ草々が丘一面に広がっていたら、それはグラン・グリーンとでも呼ばれるのかもしれない。

ル・ルゥのまちでル・ルゥっ子を気取ってサンフーヤン・グランクリュを飲んでみたくなった。

¡Hasta la Vista!

*1
須賀敦子全集第一巻 河出書房新社
「ミラノ 霧の風景」11頁〜12頁

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

※記事に掲載されている店舗のメニューや営業時間、イベント内容などの情報は予告なしに変更される場合があります。店舗のホームページやイベントの告知ページなどをご確認の上、ご来店・ご来場くださいますようお願い申し上げます。

日本ビアジャーナリスト協会 公式facebookページ

公式facebookページの右上にある「いいね」をポチッとしてくださいね。よろしくお願いします!

01003高山伸夫

この記事を書いたひと

高山 伸夫

ビアジャーナリスト

神奈川県出身。早稲田大学第一文学部卒。高山広告編集所代表。広告・販促・PRの分野でコピー・プランニングを手がける。ビアジャーナリストアカデミー1期生。 ブルワーにフォーカスしたルポルタージュがテーマ。

このエリアに掲載する広告を募集しています。
詳しくはこちらよりお問い合わせください。