村とともに “創る”。東京・檜原村発のクラフトビール『鬼源兵衛の力石』誕生!(前編)
東京都の8つの村の一つ、檜原村。陸続きでは唯一となる村は、新宿からおよそ60kmながら、村のどこにいても山や森林が常に間近で、村役場の窓からは、観光名所と見紛う美しさの渓谷の風景が広がり、村中のそば屋の昼食の合間にも、窓を開ければ鳥の声と沢のせせらぎが聞こえ、都会で当たり前な喧騒は皆無に近い。
まるで“東京”を忘れるような場所「檜原村」に惹かれ、村人に喜んでもらえるビールをつくろうと立ち上がった仲間たちがいる。
村を語りだすようなビールをつくりたい
2024年度、檜原村を舞台に「TOKYOむら興し」プログラムが開催された。これは東京都の島しょ山村地域に関係人口(地域と多様にかかわる人々)を生み出す東京都の事業として、地域課題の解決を目的に地域住民と全国から集う参加者が交流しながら新ビジネスの創出を目指すプログラムだ。村外の4名と村の人1名でチームを作り、全体で3チームが村の活性化につながる企画案を練り、最終的に一つの企画が採用される。今回ビールづくりに立ち上がった仲間たちはその1チームとして参加したメンバーで、その時初めて知り合ったという。プレゼンテーションまでの約5カ月、彼らは村のあちこちを歩き回り、たくさんの村人と対話を重ね、村の特産品の販路を強化する企画をまとめたが、残念ながら最終選考では敗れてしまう。
しかし、すっかり村の魅力にハマった彼らは、プログラムに関係なくとも何とか貢献したいと、チームの有志と、当時このプログラムを都から受託していた会社で運営窓口を担っていた平田憲太朗さんと共に、“バンビリボッチ”という会社を立ち上げ、独自の活動をスタートさせた。
彼らは新たな活動に向けて、改めて浮かび上がる村の課題を洗い出し、さらに議論を重ねた。その結果、辿り着いたのは「この村の日常にある魅力を伝えるものをつくること」。檜原村にあって街中にはない、豊かな自然環境の魅力を多くの人に知ってもらう“機会”を作るもの。そして、村の人がそれをきっかけに彼らの日常を語り出せるもの。それにふさわしいと考えたのが「クラフトビール」だった。
そしてそれは村人が飲みたいと思うビールであるべきだ、と、今年のゴールデンウィークに、村民の方々に問う『檜原村クラフトビール総選挙』をスタートさせた。

彼らが惹かれた檜原村の魅力とは
マイナスイオンと水音の心地よさ
檜原村を囲む山々の浅間尾根が横たわる地形には、秋川に流れ込む沢筋が無数にあり、村内には50カ所超の滝が存在するという。中で有名なのは、東京都内で唯一日本の滝100選に選ばれる「払沢(ほっさわ)の滝」。沢のせせらぎをBGMに緑光に染まる滝への道を進むと、次第に細くなる道の先の大きな岩の横をすり抜けた瞬間、見事な滝の姿が目の前に現れ、途端に涼やかなマイナスイオンに全身が包まれる。落差62m、4段の滝は、かつては雨乞いの滝とも呼ばれ、大きな滝壺には大蛇が住んでいたという伝説もある。近づくほどに迫力のある滝に自然と静かに引き寄せられ、週末を中心に多くの人が訪れている。
バンビリボッチのメンバー、丸尾拓也さんも「気づけば何もせず、30分ただ見つめていました。それは、普段の生活にはない時間で、同じ都内に住む自分にとって驚きとかけがえのない時間でした」と話してくれた。
檜原村観光協会 払沢の滝ライブカメラ
ただ居るだけで森林浴に癒される
村内には標高1,000m以上の高地にある「檜原都民の森」や、2億5千万年前の露出した地層が迫り出す神秘的な景観の「神戸岩(かのといわ)」など、観光スポットが無数にある。ちなみに、檜原村の観光大使を務める浅草キッドの玉袋筋太郎さんが、2013年に村限定でCD販売した「檜原村音頭」の歌詞に繰り返し登場するのが「フィトンチッド」という言葉。
フィトンチッドとは、ロシア語でphyton(フィトン)=植物、cide(チッド)=殺すという意味があり、樹木が自らの体を細菌から守るために放出している揮発性物質。森林浴は人体に良い効果をもたらすと知られているが、フィトンチッドのアロマテラピーが、血圧を下げ、血行を促進し、細胞の活性や新陳代謝の促進、自律神経を整え、疲労回復するなどの効果を上げると言われている。
檜原村では、村内のどこにいても豊かな自然の移り変わりを感じ、ただそこにいるだけで、清らかな空気や森の香気にたっぷりと包まれることができるのだ。
檜原村観光協会 檜原村音頭振付You Tube
公式TBSポッドキャスト えんがわPodcast【オープニング】 「檜原村!」 (TBSアナウンサー外山惠理×玉袋筋太郎)
顔をあわせ語り合う温かさ
現在、村の人口は1923人(※)。都内で三番目に広い105.42㎢の面積の約93%は森林で、約80%は秩父多摩甲斐国立公園に含まれている。村内に鉄道駅はなく、また、明治から数度行われてきた市町村合併に一度も加わらなかったという歴史もある。人口はやや減少傾向にあるものの、コロナ禍以降、都心からさほど遠くない場所ながら、街とはガラリと変わる環境の魅力から、都会との二拠点生活を過ごす場所として注目が高まっている。
「人口は少ないですが、その分、人の顔が見える場所であり、それぞれの意見や話を聞きやすいちょうど良い規模だと感じています」と平田さん。彼らが行った『檜原村クラフトビール総選挙』は檜原村観光協会などの協力も得て、村の広報紙「広報ひのはら」に総選挙の告知チラシを折り込めることとなり、また、村役場をはじめ、村内の飲食店や小売店など、13カ所で設置した。
※檜原村HP 檜原村の世帯数及び人口推移(1月1日現在)より
いよいよ、総選挙スタート!どのビールが選ばれたのか?
気になる結果はこちらをご覧ください↓
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。













