【ビールを通して感じる韓国㊷】~ソウルの生ビール文化の先駆け~ 乙支OBベア@乙支路3街
韓国でビールを飲みたいときの選択肢のひとつに、ホプチッ(호프집)があります。ドイツ語で中庭の意味のHof「호프」に家や店を表す「집(チッ)」を足した言葉で、韓国式のビアホールといえます。多人数で気軽に飲食でき、韓国ならではのおつまみや雰囲気を楽しむことができる場所です。
日本では多くの飲食店で生ビールが飲めますが、韓国では普通の飲食店には生ビールがないことが多いので、生ビールを飲みたいならHof・호프の文字を探しながら韓国式ビアホールへ行くのが確実です。
今回はそんな韓国式ビアホールの中でも、ずっとソウルの生ビール文化を先導してきた乙支OBベア(을지OB베어・Eulji OB Bear・ウルチOBベア) を紹介したいと思います。
乙支OBベアでOBラガー
繁華街として日本でも知る人の多い明洞(명동・Myeong-dong・ミョンドン)と東大門(동대문・Dongdaemun・トンデムン)の中間にあり、ソウルの都心を流れる清渓川の南側エリアに広がる「乙支路(을지로・Eulji-ro・ウルチロ)」。一部では大規模な再開発が進行中ですが、雑居ビルが集まる迷路のようなエリアもまだ残っています。居酒屋やビアホール、飲食店が集まっており、夕方以降は路地裏にもネオンが灯り華やかな雰囲気です。交通の便の良さと雰囲気から、私は首都圏で例えると新橋のようなエリアだと感じています。
そんな乙支路の中間地点にあるのが、韓国地下鉄2・3号線の乙支路3街(을지로3가・Euljiro 3-ga・ウルチロサムガ)駅。その9番出口から徒歩ですぐの場所にあるのが、2年前に移転した乙支OBベアです。
韓国の大手のビールメーカー2社と言えばOBラガーやCASSを造っているOBビールと現在TERRAが人気のハイト真露になりますが、乙支OBベアではその名の通り、OBビールが提供する生のOBラガーを飲むことができます。

このクマはOBビールのキャラクターですが、ここまで積み上げなくても…とは正直思いました。

店内は少しキラキラしていますが、広々としていて落ち着いて飲むことができます。地下のフロアもあります。

注文はタブレットで。

まずOB生ビール(5000ウォン・約550円)を注文しました。まろやかで深みも感じられる美味しいビールでした。

テーブルに運ばれてきた直後の写真を撮った段階では若干グラスに気泡がありグラスの汚れと感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、お店の名誉のために書いておくと、この気泡は10秒ぐらい後に自然にきれいに消えていきました。
ノガリとは?
合わせて注文したのは、このお店の名物オリジナルノガリ(6000ウォン・約660円)です。

ノガリとはスケソウダラの幼魚の干物のことで、韓国ではビールのつまみの定番。チキン+メクチュ(ビール)の組み合わせをチメクと呼ぶのは日本でも少し知られてきましたが、ノメクというノガリ+メクチュの組み合わせをいう言葉もあるほどです。
注文すると、カウンターの向こう側の焼き台で軽く炙られてから運ばれてきます。

ハサミで食べやすい大きさに切り、マヨネーズなどにつけて食べます。かなり固めですが、噛めば噛むほど旨みが溢れてきて生ビールによく合います。一緒に付いてきたナッツも美味しかったです。
韓国のスケソウダラについて
韓国で、昔からたくさん食べられ、特に冬場のたんぱく質不足を補ってきた庶民の魚がスケソウダラです。「味はニシン、たくさん食べるはスケトウダラ(맛 좋기로는 청어요, 많이 먹기로는 명태)」という言葉もあるぐらいです。
スケソウダラの標準名はミョンテ(명태・明太)といいますが、日常の食文化に深く根差した魚ということもあって、加工状態や成長の程度などによって細かく名前が分かれています。
例えば、生のスケソウダラものはセンテ(생태・生太)、凍らせたものはトンテ(동태・凍太)、凍結と解凍を繰り返した上質なものはファンテ(황태・黄太)という具合です。そして幼魚を干したものがノガリ(노가리)になります。
この日は次の予定がありビール1杯とノガリだけで店をあとにしましたが、ほかの乾きものや庶民的なソーセージなどクラフトビールの店では決して見かけない、昔ながらのおつまみが揃っていました。ただし、おなかいっぱいになりそうなものはほとんとないので、夕食前のちょっと一杯か2軒め以降に行くのがいいと思います。
店内の電飾、OBビールのクマのキャラクター、昔から食べられていたおつまみの干物、タブレットでの注文…何となくアンバランスなところにも韓国らしさを感じます。そして、何より美味しい生ビールが気軽に飲める乙支OBベア。誰でもふらっと立ち寄りやすいビアホールです。
◎乙支OBベア(을지OB 베어・Eulji OB Bear)
所在地:296-12, Euljiro 3-ga, Jung-ku, Seoul(서울특별시 중구 을지로3가 296-12)
営業時間:15:30~23:00
ノガリ横丁の誕生と変遷
乙支OBベアはもともとは同じ乙支路3街駅でも、大通りを挟んで反対側の3・4番出口から一本路地に入ったところにある飲み屋街「ノガリ横丁(노가리골목・ノガリコルモッ)」にありました。諸事情により2022年4月に閉店し、2年ほど前に新たに今の場所で営業を再開しています。
乙支路3街周辺は古くから小規模な印刷所や製紙工場、金物や工具のお店などが立ち並ぶ地域。ここに地元の商店主や労働者が仕事上がりの一杯を飲むためのビアホールとして、1980年に初めて開業したのが乙支OBベアでした。これをきっかけに、周囲に生ビールとノガリを安く提供する店が集まりはじめ、ノガリ横丁となっていきました。
次第に外部からの客も増えていくと、店内に入りきれない客用に路上に簡易テーブルとイスを設置しはじめ、さながら路上ビアガーデンといった一帯に。大衆的かつ情緒があると、一時期は若者にも人気でたいへんな賑わいでした。
残念ながら再開発により、乙支OBベア以外でも立ち退きや取り壊しが行われ、現在は一部の店舗が営業するのみでかつての姿は失われつつあります。


韓国式ビアホールの苦境
ソウル地域のビアホール全体を見ても、ここ数年で店舗数が急減しています。2025年第1四半期のデータによると、廃業率がこの3年間で最も高い水準になった反面、新規開業店舗数が大幅に減少しています。また新しくできたビアホールの生存率も、1年生存率が74.6%、3年生存率は47.1%と低く、半分以上が3年ももたずに店を閉めています。
これは景気低迷で外食にかける消費が減っているためだけでなく、従来の大規模な宴会文化が減少していること、仕事後の時間を健康的に過ごす若年層の増加などの影響も受けた結果です。
お酒文化が変わっていくのに加え景気の低迷で、その影響を最も受けてしまっている業態のひとつの韓国式ビアホール。さらに再開発の動きも重なり、気軽に韓国らしさが味わえる時間はもしかしたらあまり残っていないのかもしれません。チャンスと興味があれば、ぜひ今のうちに一度体験してみてはいかがでしょうか。
*100ウォンを約11円として換算しています
*写真は全て2025年11月に撮影しています
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









