[コラム]2022.1.31

雪の函館でトラピスト修道院とビールを巡る旅

2021年12月のクリスマス週間に知人のお誘いをがあり、函館市に隣接する当別トラピスト修道院を訪れる機会があった。正面のスギ並木が有名で、クリスマス週間は特別に修道院までの道がライトアップされているとのことだ。

荘厳な佇まいの当別トラピスト修道院

荘厳な佇まいの当別トラピスト修道院

トラピスト修道院は、厳律シトー修道会(通称:トラピスト)によって運営されており、その歴史は古く1098年まで遡る。フランスのシトーという荒地に創立された修道院から始まり、ヨーロッパを中心に全世界に展開され、男子修道院92、女子修道院72が存在する。その中には、日本のトラピスト修道院も含まれ、函館周辺には当別の男子修道院、函館空港近くに女子修道院がある。修道院生活の特徴として、厳重な戒律を守り、祈りと労働をモットーにした日々を送っている。一部修道院では、この労働自活の一環として食品等を生産しており、今回訪れた当別の修道院では、北海道土産として有名なトラピストバターやクッキーが生産されている。

当別トラピスト修道院でのトラピスト製品案内

当別トラピスト修道院でのトラピスト製品案内

ビール好きの人々にとっては、「トラピスト」というとピンとくると思うが、ベルギーなどの修道院では古くからビールが生産されており、昨今、我々にとっても身近になりつつあるCIMAY(シメイ)に代表されるトラピストビールは、トラピスト修道院の労働自活の一環で生産されているものなのである。
雪の舞うスギ並木の幻想的なライトアップをみながらふと、

日本のトラピスト修道院でもビール作りをする考えが過去にあったのか?
将来的にビールを作る可能性があるのか?

と気になった。残念ながら、この日は修道院で確認することができず、また、実際に日本のトラピスト修道院で作られたビールが存在しないのも事実なのである。

ライトアップされたトラピスト修道院入り口に伸びるスギ並木道

ライトアップされたトラピスト修道院入り口に伸びるスギ並木道

当別のトラピスト修道院を訪れた日の夜、筆者は宿をとった函館空港近くの温泉街、湯の川にあるクラフトブリュワリーパブ「Endeavour(エンデバー)」(Endeavourの紹介記事はこちら)に立ち寄った。エンデバーの定番銘柄のPale Aleを飲みながら、醸造スタッフの下田さんにトラピスト修道院のことを話すと、函館山の麓、元町の十字街にある「十字屋食料品店」で詳しく話がきけるかもしれないと行くことを薦められた。

温泉街・湯の川のブリュワリーパブ Endeavour

温泉街・湯の川のブリュワリーパブ Endeavour

さっそく翌日に十字屋食料品店を訪れた。
昭和7年に創業と書かれた正面看板、そして、店舗ガラスに書かれた「修道院ビール」という文字が目に入る。店内は、厳選コーヒー豆のエリアと、その反対側の壁一面にベルギーのトラピストビールが陳列されている。何か貴重な話が伺える予感がした。

元町の十字屋食料品店

元町の十字屋食料品店

5代目の店主である菅原雅仁さんにお話しを伺った。

十字屋食料品店:菅原さん

「十字屋食品店の歴史は古く、記録が残っているところだけでも昭和7年以降、コーヒー豆を中心とした輸入食品を扱う、当時は今でいうカルディのような存在だったようです。当別トラピスト修道院との関係も長く、今ではどこでも買えるトラピストクッキーやバターも、以前は十字屋食品店が特約店でした。これには3代目の店主が深く関わっています。3代目は東京で獣医をしていたが、函館に移りトラピスト修道院やカールレーモン(函館元町のソーセージ・ハムの老舗)の家畜を世話をするうちに、十字屋食品店の3代目を引き継ぐことになりました。その後、4代目の時代にトラピストの修道士から海外のトラピスト修道院で古くから生産されているトラピストビールを扱うことを薦められました」

十字屋食料品店で売られる修道院ビール

十字屋食料品店で売られる修道院ビール

菅原さんには貴重なお話しを伺うことができたと同時に、より一層、日本のトラピスト修道院でもビールを作る可能性があるのか知りたくなった。

当別のトラピスト修道院問い合わせてみたところ、修道士の方に丁寧に説明していただけた。

筆者:日本にトラピスト修道院を設立した当時、トラピストビールを作るという考えはあったのか?
修道士:日本上陸当初にビールを醸造する考えはありませんでした。かなり昔の話でもあるが、その当時は、北海道の土地柄、酪農が向いているというのが現在バターを生産するにことに至った経緯ではないかと思います。

筆者:将来的に日本のトラピスト修道院でビールを醸造する予定は可能性としてあるのか?
修道士:現在、日本でビールを醸造する予定は無いが、現実的に、必要な設備・専門技術を持った人材への投資が大きな問題です。ただし、米国のトラピスト修道院では、2014年にビール醸造を開始した例もあるので、可能性が全く無いわけではないと思います。

旅の最終日、帰りのフライトまでの時間を活用し、改めて空港近くのブリュワリーパブ、Endeavourに立ち寄った。推しの銘柄「縄文ブラウン」を飲みながら醸造スタッフの下田さんとトラピストビール談義をした。日本発のトラピストビールは、幻に終わったが、将来的に可能性は全く無いというわけでもない。

Endeavourさんのような地域のブルワリーが協力してトラピストビールを実現を目指してみるなんてどうかな?

なんて冗談で会話を弾ませながら夢と妄想で旅を振り返り、今回の旅を締めくくった。

今回訪問した場所

■当別 トラピスト修道院
住所 :北海道北斗市三ツ石392
※修道院内は原則、入ることはできないが、
正面のスギ並木道、売店で売られている濃厚ミルクのソフトクリームは見逃せない。

■十字屋食料品店
住所 :函館市末広町5−18
電話:0138-22-1777
営業時間:10:00-16:00
※2016年から函館朝市にコーヒースタンドをOPENし、自家焙煎の香り高いコーヒーを5代目店主の菅原さん自らいれてくれる。

■Endeavour
住所 :北海道函館市湯川町1丁目26-24
電話:0138-84-6955
営業時間:
ランチ 11:30-14:00(LO 30分前)
ディナー 17:30-21:30(LO 30分前)
定休日:水曜日

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

モリイクオ (ikuo mori)

ビアジャーナリスト / Beer journalist

大阪市出身。世田谷区在住。ビアジャーナリスト&ビアテイスター。
学生時代に滞在した北米やヨーロッパで初めてピルスナー以外のビールと出会う。まだ見ぬビールの世界があると思うとワクワクする。主に旅先で出会ったビールを紹介している。

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