[コラム,ビアバー,ブルワー]2025.5.22

【ビールを通して感じる韓国㉟】創業の地へ行って飲む! 創業20年を超えたWHASOO BREWERY@蔚山

創業地へ行って、このブルワリーのビールが飲みたい!
今年2月に韓国を訪問した際に、ようやくその思いをようやく叶えることができました。

WHASOO BREWERY

そのブルワリーは、WHASOO BREWERY。現在は、有名観光地の慶州(경주・Gyeongju・キョンジュ)にも独自の醸造設備を構えていますが、もとは2003年に慶州の隣の市である蔚山(울산・Ulsan・ウルサン)にできたブルワリーです。当初はオーナーの名前を付けた今の名称ではなく、WEIZEN BRAUHAUSという名称でスタートしています。

慶州のWHASOO BREWERYについては
【ビールを通して感じる韓国⑱】~古都の郊外のリゾート地で飲むクラフトビール~ WHASOO BREWERY@慶州(2024.3.22)で紹介しています。

WHASOO BREWERYを初めて知ったのは、2018年に釜山で開催されたBUSAN CRAFT BEER FESTIVALというクラフトビールのイベントでした。韓国のクラフトビールを少しずつ知りはじめたころで、まだどのブルワリーのブースも私にとっては新鮮でした。そんな中で、心に残ったブルワリーのひとつがWHASOO BREWERYでした。
ビールが美味しいと感じたことももちろんでしたが、何と言ってもプロモーションのインパクトの強さが今も記憶にあります。オーナーの名前をブルワリー名にしているだけでなく、グラスやステッカーなどに似顔絵が付いているというのはほかになく、忘れられないブルワリーになりました。


(BUSAN CRAFT BEER FESTIVALでのWHASOO BREWERYのブース・2018年9月撮影)


(BUSAN CRAFT BEER FESTIVALで購入したWHASOO BREWERYの缶・2018年9月撮影)


(BUSAN CRAFT BEER FESTIVALでいただいたステッカーなど・2018年9月撮影)

そして時は流れて2024年の春、KOREA INTERNATIONAL BEER EXPO(KIBEX)での出店が普通のブースではなくて、独自のブースを設けていたのが再び目をひきました。

(KIBEXでのWHASOO BREWERYの出店・2024年4月撮影)

この頃には後からできた慶州のタップルームは訪問済みでしたが、この展示で他にはないインパクトを再認識して、創業の地である蔚山へ行って飲んでみたいという思いを新たにしました。

韓国のクラフトビールの流れ

韓国のビールの概要については
【ビールを通して感じる韓国】3年前に登場したビール「TERRA」が大人気!(2022.12.20)で紹介しています。

ここでは、その際にあまり取り上げなかった小規模醸造所によるビール醸造について、簡単にまとめておきます。
韓国でビールの小規模醸造が酒税法で認められたのは2002年のこと。ハウスビールブームが起き、2005年には全体で118の醸造免許が発行され、うち112は小規模醸造所に対するものでした。
ところが、2010年には35%減少の73に、2014年には49まで小規模醸造所に対する免許数は減少しています。ブームが収束してしまった理由はいくつかあるようですが、一番大きな要因は2014年の税法改正まで、小規模醸造所で造られるビールは外部に流通させることが認められていなかったことにあります。瓶などでの販売が小規模醸造者に認められたのはさらに少しあとで2016年のことです。
2003年に醸造を開始したWHASOO BREWERYは小規模醸造所の厳しい時期を技術などを磨き、今なお成長し続けている数少ないブルワリーのひとつです。
2014年の法改正により韓国でのクラフトビールブームは一気に広がりをみせ、小規模醸造所に対する免許数は2018年に100を超え、翌年には120以上となり、今なおブームは続いています。

改めて蔚山とは…

蔚山は、韓国南東部にある日本海に面した広域市で、釜山広域市からは北へ70kmほどの位置にあります。人口は約110万人。工業都市と郊外の農村が存在する複合都市です。
韓国を代表する自動車メーカーである現代自動車やそのグループ企業のお膝元であり、蔚山は自動車の生産高で韓国トップです。また海岸沿いに韓国最大の石油コンビナートが広がり、造船に関しても長らく地域経済をリードする産業でした。

かつては捕鯨が盛んなことで有名で、捕鯨の歴史やクジラについて学べる博物館や当時(1960~1970年代)の街並みを再現した文化村などもあります。


以前、蔚山を日本に例えるとした場合の地名として、都市や車の製造業のイメージから名古屋周辺の愛知、造船業が有名という点で広島などを挙げましたが、ここでは別の視点を加えておきたいと思います。
蔚山は百貨店や繁華街がある街の中心部から新たにできたKTX(Korea Train Express・韓国高速鉄道)の蔚山駅まではかなり離れていて、リムジンバスで約30分かかります。距離や町の規模は違いますが、東北の花巻駅と東北新幹線の新花巻駅、関西の神戸駅と山陽新幹線の新神戸駅のような関係です。

蔚山については
【ビールを通して感じる韓国㉚】~自家製ビールのセルフタップが並ぶ~ SMOKED BEERに惹かれて訪問したTrevier@蔚山(2024.9.19)でも紹介しています。
なお、2024年12月にバスのダイヤ改正があり、当時乗ったバスの番号や時間については、すでにかなり変わっています。

WHASOO BREWERY@蔚山へ行ってきた

ソウルから向かう

蔚山までは釜山からの場合、街はずれにあるKTX(Korea Train Express・韓国高速鉄道)の蔚山駅までは20分ほどで到着します。
釜山から蔚山の中心部に向かうとすればバスの利用が便利で1時間ほど。あるいは広域電鉄東海線で太和江(태화강・Taehwagang・テファガン)駅まで約1時間半かけて行くこともできます。(ちなみに、太和江駅は2010年に KTXの蔚山駅が開業するまではこちらが蔚山駅という名称でした。)
このように圧倒的に釜山から向かうほうが便利なのですが、今回はスケジュールの都合上、ソウルから高速バスで蔚山を目指しました。予定所要時間は4時間半。デラックス車両のバスを利用すると、料金は49700ウォン(約5470円)でした。

途中2回の休憩を挟み、ソウルの高速バスターミナルを10時に出発したバスが蔚山のバスターミナルに着いたのは15時過ぎでした。

(1回目の休憩で停まったサービスエリア)

普段よりも遅れましたが、この日は韓国の北部中心に大雪が降った翌日。テレビのニュースで道路でのスリップ事故が起きている映像も見ていたので、事故もなく30分程度の遅れで無事に到着できてほっとしました。

蔚山のWHASOO BREWERY

蔚山のバスターミナルから歩いて15分ほどのところに蔚山のWHASOO BREWERYはあります。建物の前に置いてあった車止め用と思われるドラム缶には、以前に印象に残ったオーナーの似顔絵が描かれていました。


メニューの表紙にも似顔絵が描かれていました。

最初の注文を終えると提供されたのが、こちらの無料のおつまみ。2種類も出てくるのは珍しいです。お昼抜きだったのでピザも注文していたのですが、「時間が少しかかるから…」と言っていただいたのでつまみながら待ちました。

最初に飲んだのはヴァイツェン。アルコール分5%でIBU12.390mlで6500ウォン(約720円)でした。

4種類のピザの中から頼んだマルゲリータは20000ウォン(約2200円)でした。

次のビールはアルトにしました。アルコール分は5%でIBU28。こちらも390mlで6500ウォンでした。

どちらのビールも穏やかな正統派の味わい。だからこそこの地で飽きられることなく続いて飲まれてきたのだろう…そう感じさせるビールでした。

WHASOO BREWERYを出てバスターミナルに近いホテルまでの裏道は飲み屋などが並んでいる繁華街。日本語の看板が目立ちました。日本から観光でくるという話はほとんど聞きませんが、自動車などの製造業などが盛んということで赴任や出張の方は多いのかもしれません。

以前にWHASOO BREWERYのビールを飲んだどのときよりも落ち着いた環境で、そして地元の方々が飲みにくる姿を眺めながら味わったビールは、そんな街の風景と合わせて、とても記憶に残るものとなりました。

ビアフェスや都会、観光地など人が集まる場所でいろいろなビールを飲むのももちろんいいですが、ビールが造られてきた地元で飲みと、その土地の空気感も加わってまた味わいも違って感じることもあります。
韓国に限ったことではありませんが、お気に入りのビールがある方は是非そのビールが造られている場所でも飲んでみてくださいね。

◎WHASOO BREWERY(蔚山)
所在地:1265-1 Dal-dong, Nam-gu, Ulsan
営業時間:18:00~25:00

*参考文献:「CRAFT BEER KOREA(KOREAN CRAFT BREWERY GUIDE BOOK)」(2018および2020)BEER POST PUBLISHING
*100ウォンを約11円として換算しています
*日付の記載がない写真は、全て2025年2月に撮影しています

WHASOO BREWERY蔚山韓国クラフトビール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

アバター画像

この記事を書いたひと

きただ ともこ

ビアジャーナリスト

ビールと旅と野球観戦が大好きです。
主に、ビールがどんな土地で造られてどんな感じで飲まれているかに関心があり、気になるビールが出来るとその地元を訪ねたくなります。日本全国たまには海外にも足を運び、特に国内は岩手、海外は韓国のクラフトビールに注目してきました。
ビール好きがきっかけで岩手にどっぷりはまり、2019年4月から岩手沿岸の仮設住宅に住みながらの仕事を経験。現在も岩手に拠点を置き、得た情報を実際にこの目で確かめながら、岩手中心に東北地方のビール事情を発信してきました。最近は、日本語での情報が少ない韓国のビールについても、現地に足を運んで手に入れた情報をもとに記事にしています。

ストップ!20歳未満者の飲酒・飲酒運転。お酒は楽しく適量で。
妊娠中・授乳期の飲酒はやめましょう。