[コラム]2025.9.20

Beer&Life Style Fashion編
【ビールとTシャツのペアリング】

ビールは【いつ、どこで、誰と飲むか】によって、美味しさも変わる。

人は味覚分析機ではなく、【環境】による【感情の変化】に応じてビールを楽しんでいる。

感情の変化は、ファッションによっても左右される。

【どんな装い】で【どんなビール】を飲むと【ぴったりハマる】のか?

それを考察するのが【ビールとファッションのペアリング】である。

このJBJAサイトに2022年、2023年の2度にわたり連載され、その一部は2025年4月に出版された【BEER LOVER’S BOOK:リトルモア社】にも掲載された【ビールとファッションのペアリング】。

その3章をお楽しみいただきたい。

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第3章 第1 回 【ビールとアロハシャツのペアリング】<前編
第3章 第2 回【ビールとアロハシャツのペアリング】<後編

第1章、第2章は、こちらから。

第3章 第3 回
【ビールとTシャツのペアリング】

Tシャツは、 誰もが持っているファッションアイテム

Tシャツを1枚も持っていない人はいない! と断言したい。

「好みではない」という人も、学生時代にサークルで揃えたTシャツやノベルティでもらったTシャツがクローゼットのどこかに必ず眠っているはずだ。

Tシャツは、誰でも持っているファッションアイテムであり、必要不可欠なものだ。

首回りのデザインも様々

Tシャツは文字通り【Tの形をしたシャツ】だが、いくつかのバリエーションがあるのでおさらいしておこう。

まずは首回り。
クルーネック、Uネック、Vネック、ボートネック、ヘンリーネックがある。

最も一般的なクルーネック。船乗りが着ていたセーターのデザインからついた名称。

胸元がU字型になっているUネック。クルーネックとUネックをまとめて「ラウンドネック」と呼ぶ場合もある。

胸元のゾーンがV字型になっているVネック。UネックとVネックは色や切れ込みの深さによって”だらしがない下着”に見えてしまうことがあるので要注意だ。

胸元の開き方が直線的なボートネック。ボーダーシャツなどに多い。

胸元がボタンで開くヘンリーネック。

袖の付き方にもバリエーションがある

続いて袖のデザイン。

袖の付き方にもセットインスリーブ、ラグランスリーブ、フレンチスリーブなどの変化がある。

セットインスリーブ。一般的にTシャツといえばこの袖の付き方。

ラグランスリーブは首回りから脇の下に向かって生地の切り替えがある。​​クリミア戦争でラグラン将軍が怪我人でも脱ぎ着しやすいようにデザインしたと言われている。

フレンチスリーブは半袖とノースリーブの中間的な長さが基本。身頃と袖がひと続きになっている。女性に人気があるデザイン。

フロントプリント?バックプリント?

さらに柄の違いによって、雰囲気も変わる。

無地、ボーダー、フロントプリント、バックプリントなどがある。

無地のTシャツの色は様々あるが、基本は白、黒、ネイビー、グレーが一般的だ。胸にポケットのあるタイプもある。

ボーダーは柄物Tシャツの定番だが、ラインの色や太さで雰囲気も変わる。

フロントプリントは、Tシャツが”自己主張するアイテム”の証である。

背中にプリントのあるバックプリント。

バックプリントのTシャツには、フロントの胸にワンポイントがあるものが多い。

袖に数字、裾や腰にプリントがあるパターンもある。

長袖Tシャツで袖にプリントがあるものも。

Tシャツはヨーロッパの下着からアメリカのアウターへ

Tシャツの歴史は、ミリタリーの下着から始まったというのが定説。

第一次世界大戦でヨーロッパに派遣されたアメリカ兵が【ヨーロッパ兵の着るコットンの下着】を母国に持ち帰ったのがルーツだと考えられている。

Tシャツは、これぞアメリカン・ファッション! と思われがちだが、その起源がヨーロッパというのは面白い。

ヨーロッパの【下着】をアメリカ人が【アウター】に仕上げていったのだ。

アメリカで広がっていった立役者は、ミリタリーに加えアスリートと肉体労働者である。

動きやすさと着心地の良さからアウターとして利用しだした。

Tシャツはスポーティーに着こなすのが一番。【ラグランスリーブTシャツ】は肩の動きが楽なので、スポーツや犬の散歩にぴったりだ。

【ヘンリーネックTシャツ】は労働者っぽい着こなしが似合う。ボタンをどこまで留めるか? で雰囲気も変わる。

銀幕のスター達がTシャツを広めた

その後、まだまだ一般の人にとっては下着やスポーツウェアという認識が強かったTシャツをファッションアイテムの座に押し上げたのが1950年代のムービースター達だった。

マーロン・ブランドやジェームスディーンが【クルーネックのTシャツ】姿で銀幕に現れたのだ。

マーロン・ブランド「欲望という名の電車」
ジェームス・ディーン「理由なき反抗」

若者達は彼らに憧れ、Tシャツスタイルで街を闊歩しだしたのである。

クルーネックTシャツは基本中の基本。50年代のムービースターを気取って、なりきりファッションでキメてみたい。

メッセージとしてのTシャツ

50年代にムービースターとそれに憧れる若者達によって【下着というポジションから脱却していったTシャツ】は、1950年代に入ると、フロントにプリントを施すことでメッセージを伝える【媒体】に進化していった。

企業や飲食店の広告、選挙のキャンペーンなどに活用され、広い年齢層の人達もTシャツをアウターとして着るようになった。

私達Beer Loversにとって、最も身近に感じるのが、この【フロントプリント】のビールTシャツである。

好きなビールやブルワリー、イベントの記念に……と、ビールTがあっという間に増えていく。
そんな嬉しい悩みを抱える人は多いだろう。

ビアイベントでは、ブルワリー関係者やイベントスタッフと間違われない程度の着こなしが望ましい。

出店していないブルワリーのTシャツは、参加ブルワリーやオーガナイザーに対して礼を欠く行為となりかねないので注意したい。

ブルワリーの周年祭やタップテイクオーバー、ホップ収穫祭など『ひとつの会社や地域が主催するイベント』は特に気を使いたい。

他のブルワリーや他の栽培地のTシャツを着て行くのは(他のブルワリー関係者自身やホップ栽培家自身を除き)行儀の良い行為ではない。

福山雅治のライブにE.YAZAWAのTシャツをわざわざ着て行く必要もあるまい。

阪神タイガースのファン感謝祭に読売ジャイアンツのTシャツを着て行くとどんな雰囲気になるか? ということだ。

場をわきまえることも必要だ。

『同じイベントの何年か前のTシャツ』あたりが粋な振る舞いかと思われる。

バンドTシャツの台頭

1970年代になると、パブリシティTシャツは音楽イベントの記念品や特定のバンドのファンであることを誇示するアイテムになっていった。

最も有名なのがグレイトフルデッドのファン【デッドヘッズ】達が自ら製作して着始め、さらには販売しだしたタイダイ(絞り染)のTシャツである。

その後も、ヘビメタ、パンクなどTシャツと音楽の関係は濃密で、コレクターも多い。

昨今では、ヴィンテージの【バンドTシャツ】の人気が高まり、NIRVANA(ニルヴァーナ)のTシャツが1枚数100万円で売買されるなど高騰している。

バンドTシャツは、いきすぎるとコアなオタクと思われるので、アウトドアのアイテムと合わせるとちょうど良い。

音楽Tを革ジャンや革パンに合わせると”それっぽ過ぎる”着こなしになるので、『音楽の野外フェスに出かける感じ』に仕上げたい。

バックプリントのTシャツも人気

70年代後半から80年代には、背中に大きなプリントがある【バックプリントTシャツ】も人気となっていく。

政治集会やコンサートでは、観客がステージに向かっているため、フロントプリントよりもバックプリントのほうが多くの人に見られ続けるという効果があることに気がついたのだ。

さらに、サーファーやスケートボーダー達のファッションも人気の後押しをしたと感じられる。

波の状態や仲間のライディングを見守るサーファーやボーダーは背を向けてたたずんでいることが多かったため、背中がキャンバスになったと考えられる。

フォトグラファーやそのアシスタントは映りこまないように黒のウェアを身に付けることが多い。フロントにプリントがあるTシャツも映り込まないように避けがちだ。

Tシャツ=クラフトビールと言っても過言ではない

Tシャツは、ヨーロッパの伝統的な軍用下着がアメリカに渡り、創造性に富んだ自己表現のアイテムに成長した。

これは、ヨーロッパの伝統的なビアスタイルが、アメリカに渡り創造性の高い新たなビアスタイルに育っていった【クラフトビールの歴史】とそっくりである。

【Tシャツ=クラフトビール】と言っても良いほどだ。

Tシャツこそクラフトビールに最も似合うファッションアイテムである! と言っても過言ではない。

*【クラフトビールは伝統と創造性】だという件は、私の新刊【BEER LOVER’S BOOK】のP42〜43をご覧いただきたい。

TシャツにはセッションIPA

Tシャツとペアリングするビールは、”すべてのクラフトビール”と言いたいが、もう少し絞り込んでみると、【セッションIPA】に行き着く。

イギリスで生まれた【伝統的なイングリッシュスタイルIPA】はアメリカでアメリカンスタイルIPAとなり、さらにはダブルIPA、ブリュットIPA、ヘイジーIPAやジューシーIPA、【セッションIPA】などに進化していく。

*【IPAの派生】に関しては、【BEER LOVER’S BOOK】のP72〜76をご覧いただきたい。

特に、アルコール度数の低い【セッションIPA】の穏やかさは、【Tシャツの気楽さ】と通じるところがあり、ベスト・ペアリングだと考える。

常陸野ネストビール

常陸野ネストビールは、1823年に日本酒の醸造を始めた「木内酒造」のビールである。

世界数十カ国に輸出されており「世界で最も有名な日本のクラフトビール」と言える。

1996年からビール造りを始め、ワールドビアカップなど世界的なビアコンペティションの受賞歴を多数持つ。

伝統的なビアスタイルの踏襲はもちろんのこと、日本産原料(茨城県産金子ゴールデン麦芽、酒米山田錦、ソラチエースや国産ホップ)を用いたビール「NIPPONIA」を造るという創造的な試みをいちはやく手がけている先駆者的存在でもある。

常陸野ネストビールセッションIPA

銘柄:常陸野ネストビールセッションIPA
ビアスタイル:セッションIPA
醸造所:木内酒造額田醸造所
アルコール度数:4.5%

藤原ヒロユキテイスティングレポート

淡いゴールドカラーが美しく、外観からすでに爽やかな印象がある。
オレンジを思わせるシトラス・アロマとフローラルな香りが心地よい。
セッションIPAの定義は、「一般的なアメリカンスタイルIPAがアルコール度数6.3〜7.5%
なのに対して、アルコール度数の低いIPA。みんなで集まって(セッションして)楽しく飲むためのビール」とされており、そのアルコール度数は5%未満である。
常陸野ネストビールセッションIPAはその定義にぴったりと沿ったビールであり、心地よく杯を重ねることができる。

ピンチョスなどの前菜、ライトミール、グリーンサラダ、チキン料理、シーフードなどに合う。

音楽はサザンオールスターズとグレイトフルデッド

Tシャツと合わせて聴きたいのは、ソロシンガーではなくやはり【バンド】である。

日本で一番Tシャツが似合うバンドは初期の【サザンオールスターズ】に他ならない。

デビュー当時の「Tシャツとジョギングパンツ」という普段着スタイルは、きらびやかなステージ衣装が当たり前の歌謡界に一石を投じたと言える。

サザンオールスターズ
勝手にシンドバッド
思い過ごしも恋のうち

世界的に視野を広げるとやはり【グレイトフルデッド】だ。
これは譲れない。

「バンドTシャツ」の原点はこのバンドとそのファン達デッドヘッズが生み出した文化といっても良い。

グレイトフルデッド
Touch of Grey
Truckin’

本ともペアリングしてみよう

Tシャツを着て、セッションIPAを飲みながら、サザンオールスターズやグレイトフルデッドを聴きながら、読みたい本はこの2冊だ。

1冊目は村上春樹著の「村上T 僕の愛したTシャツたち」
村上春樹が所有する膨大なTシャツコレクションの中から、18編のエピソードと108枚のTシャツが収録されている。

2冊目はLISA KIDNER & SAM KNEE著の「Vintage T-SHIRTS」
300ページを超える本は重みもズッシリ。70年代から80年代のヴィンテージTシャツが500着以上も掲載されている。写真を眺めるだけでも満足の逸品だ。

Tシャツを着て、サザンオールスターズやグレイトフルデッドを聴き、Tシャツ本のページをめくる。

そこにセッションIPAがあれば気分上々。最高だ!

ビールのあるライフスタイルって、本当に楽しい。

 

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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