[コラム]2025.10.6

Beer&Life Style Fashion編
【ビールとシャツのペアリング】<後編>

ビールは【いつ、どこで、誰と飲むか】によって、美味しさも変わる。

人は味覚分析機ではなく、【環境】による【感情の変化】に応じてビールを楽しんでいる。

感情の変化は、ファッションによっても左右される。

【どんな装い】で【どんなビール】を飲むと【ぴったりハマる】のか?

それを考察するのが【ビールとファッションのペアリング】である。
(さらには、どんな音楽を聴いてどんな本を読むと相乗効果をもたらすかも考えてみた。)

JBJAサイトに2022年、2023年の2度にわたり連載され、その一部は2025年4月に出版された【BEER LOVER’S BOOK:リトルモア社にも掲載された【ビールとファッションのペアリング】。

その3章をお楽しみいただきたい。

第3章 第1回 【ビールとアロハシャツのペアリング】<前編
第3章 第2回【ビールとアロハシャツのペアリング】<後編
第3章 第3回【ビールとTシャツのペアリング
第3章 第4回【ビールとシャツのペアリング】<前編

 

第1章、第2章は、こちらから。


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第3章 第5 回
【ビールとシャツのペアリング】<後編>

ラウンドカラーはかわいく

前編では、レギュラーカラーシャツとボタンダウンシャツの必要性を説いたが、 次に何か買うとすれば【ラウンドカラーのシャツ】を入手すべきだ。

ラウンドカラーは優しい印象を与えるシャツである。

いかつい顔の男性こそ、ラウンドカラーのシャツを着るべきだと思う。

その際、注意すべき点は「照れない」ということだ。

堂々と着ていれば、自ずと似合ってくる。クレリックシャツ(身頃が色無地またはストライプやチェックで、襟とカフスが白いシャツ)がラウンドカラーだと、さらに「かわいい」印象を与えるアイテムになる。

「クレリック」は「聖職者、牧師」という意味だが、クレリックシャツは和製英語。海外ではカラーディファレントシャツ、コントラストカラーシャツなどと呼ばれる。

ワイドスプレッドカラー、ホリゾンタルカラーはちょっとイキって

ボタンダウンカラー、ラウンドカラーと揃ったら、次はちょっとイキってみよう。

襟が広がった【ワイドスプレッドカラー】や【ホリゾンタルカラー】に挑戦したい。

はっきり言って、このデザインはイキっている。

ネクタイを締めても、締めなくても「調子こいてる感」が漂っている。

だからこそ、1着は持っておきたいのだ。

この際、ノーネクタイで襟を立てて、思いっきり調子こいてイキってしまおうではないか。

襟が広がるとネクタイの結び目は大きいほうが収まりが良い。小さい結び目で、襟下にネクタイを覗かせるのは上級者向けのテクニックと言える。ポロシャツ感覚で、ノーネクタイで襟を立てるのは効果的だ。

タブカラーやピンホールカラーはビシッとキメて

レギュラーカラーでフォーマル、ボタンダウンでセミフォーマルからカジュアル、ラウンドカラーでかわいく、ワイドスプレッドでイキってみたら、次は【タブカラー】や【ピンホールカラー】でビシッとキメにかかろう。

この2つのシャツはネクタイを締めることが絶対条件のシャツだ。

ネクタイを締めないのであればタブカラーやピンホールのシャツを着る必要はないし着るべきではない。

できればスーツ(それも細身の)か襟付きベスト、着流しでもサスペンダーなどで洒落っ気を出しておきたい。

タブカラー やピンホールシャツは必ずタイを締めるべし。ただし、分厚いニットタイなどを合わせるのは御法度。結び目が大きくなってタブやピンが留められなくなる。

ウイングカラーを日常的に

そして最後に手に入れたいのが、【ウイングカラーのシャツ】である。

ここまで辿り着ければ、『シャツの着こなしの免許皆伝』だ。

礼服に合わせてネクタイを閉めればドレスアップ感が一段と高まる。

さらに上級者を気取りたいのであれば、【ウイングカラーのシャツ】を”なんでもない日”にサラッとカジュアルに着てみたい。

礼服に合わせるのが一般的なウィングカラーを日常的に着用できるようになればファッション上級者といえよう。スカジャンやジーンズやワークブーツという”対極にあるアイテム”と合わせたい。

普段着シャツはやはりアメリカ東海岸

ボタンダウンシャツにはニューヨークのビールが似合ったように、シャツ全般がアメリカ東海岸の持つコンサバティブな雰囲気に通じるところがあると思う。

もちろん、素晴らしいシャツといえばイタリアのフライやイギリスの​​ターンブル&アッサーなどの名も上がる。

しかし、私達が日常的に着るとすればやはりブルックスブラザースやJ.プレスといったアメリカ東海岸のメーカーのゆったりとしたシルエットに軍配が上がると考える。

クリーンでシャープで基本のビール

しからば、アメリカ東部発祥のニューイングランドIPAを合わせるかといえば、トロピカルでフルーティーな味わいは、シャツのイメージとはそぐわないとも感じる。

やはり、シャツにはクールでシャープなイメージのビールをペアリングするほうがぴったりとハマるのである。

シャツが、ローマ時代から始まりヨーロッパで育まれたという歴史を考えると、ヨーロッパの伝統的なビアスタイルが似合うと断言したい。

中世まではアンダーウエアだった【シャツ】が19世紀に”ファッションアイテムの基本”の座に登り、今やなくてはならないアイテムになった。

中世から続くエール文化のなか、19世紀にクリーンでシャープな味わいとして現れた【ボヘミアン・ピルスナー】は、今や”ビールのスタンダード”となった。

両者は似た歴史を歩んでいる。

ぴったりのペアリングに違いない。

ピルスナー・ウルケル

現在世界で最も飲まれているビアスタイルはピルスナーだ。

そして、その原型がこの【ピルスナー・ウルケル】である。

1842年、チェコのピルゼンにある醸造所にドイツから招かれたヨーゼフ・グロルによって造られたビールは、それまでのビール(濃いめのエールが多かった)とは違う”透明感のある黄金色でシャープな飲み口のビール”だった。

このビールはチェコはもとより全世界に広がっていった。

醸造所はピルゼン駅から徒歩10分弱の場所にあり、見学ツアーもあるのでBEER LOVERなら訪れておきたい場所である。

ピルスナーウルケル

銘柄:ピルスナー・ウルケル
ビアスタイル:ボヘミアンスタイル・ピルスナー
醸造所:ピルスナー・ウルケル醸造所
アルコール度数:4.4%

藤原ヒロユキテイスティングレポート

クリアーな黄金色に純白の泡が美しい。チェコ産のザーツホップの特徴であるスパイシーなアロマとカラメルライクな甘くこうばしい香りが漂う。若干のダイアセチルを感じるが、それもこのビールの魅力の一部として容認できる。
口に含むと、ホップのフレーバーと苦味が広がり、カラメルのような麦芽の甘味がそれを支える。非常にバランスが良い。
この心地よいカラメルライクな味わいは、デコクション(糖化時に麦汁の一部を糖化槽から取り出して煮詰め、また戻して昇温するテクニック)を3回繰り返すトリプル・デコクションによって生まれる。

ピルスナーウルケルには【タップスター】と呼ばれるブランド公認の注ぎ手が存在し、彼らはハラディンカ(最もスタンダードなサービング)やミルコ(ほとんど泡)といった注ぎわけができ、それぞれ味わいの違いを楽しむことができる。
タップスターのいる店に行く機会があれば、是非とも飲み比べて欲しい。

フライドポテト、フライドチキン、揚げ物全般、チーズ、パスタ、ピザなどほとんどの料理と合う。

ペアリングする音楽はジャズ。それも東海岸の。

ビールとのペアリングは、ヨーロッパに飛んだが、音楽に関しては再びアメリカの東海岸に舞い戻ってみたい。

アメリカイーストコーストジャズの巨匠【アート・ブレイキー】でいかがだろうか。

オーセンティックとリラックスのバランスが取れたシャツにお似合いの1曲だ。

アート・ブレイキー
Moanin’

本とのペアリングも東海岸で

本とのペアリングもアメリカの東海岸の香りがプンプンする2冊をペアリングしてみた。

【スペンサーを見る事典】
イラスト:穂積和夫 文:花房孝典


ロバート・B・パーカーのハードボイルド小説シリーズの主人公スペンサーについて書かれた(描かれた)名著。

ボストンに住む私立探偵のスペンサーはファッション(東海岸の男性らしくブルックスブラザースをこよなく愛している)、料理、酒へのこだわりが強く、作中でも多くの蘊蓄が嫌味なく語られている。

小説の中に散りばめられたそんな”こだわり”を手っ取り早く教えてくれるのがこの1冊だ。

文章もさることながら、穂積和夫のイラストレーションが素晴らしい。画集のように楽しむこともできる1冊だ。

 

【TAKE IVY】


1965年にアメリカのIVYリーグ(ハーバードやイエールなどアメリカ東海岸の名門大学)に取材に行き、当時のアメリカのエリート大学生の生活をリアルに撮った1冊。

トラディッショナルスタイルとともに、その後に日本で流行する渋カジやアメカジの原型とも言える着こなしが多々あるのも面白い。後半にはニューヨークのビジネスマンのショットもある。

日本語版が出た後に英語版が出たり、1973年と2011年に復刻版が出るというのも面白い。所有しておきたい名著である。

ペアリングの答えはひとつではない。

それもまたビールの楽しいところだ。

私の提案はあくまでも選択肢のひとつでしかない。

皆さんも自分自身のペアリングを見つけ、楽しいBeer Lifeを過ごして欲しい。

 

Cheers

藤原ヒロユキ

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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