【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 99~老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ拾捌
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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「えっと……どういうことだろ。大麦はこの1種類しかないよ?」
夏の言葉に、直は目の前が真っ暗になった。二条大麦が主に栽培されているのはヨーロッパ。この時代でその存在が知られていないということは、まだ日本に輸入されていないということになる。
「まじかよ。二条大麦の歴史とか、知らないっつーの」
珍しく取り乱している直を、皆は不安げに見つめる。
「一体どういうことだ?俺たちにもわかるように説明してくれ」
喜兵寿の言葉に、直は頭を掻きむしりながらいった。
「この麦じゃ、うまいビールが造れないんだよ。そもそも麦の種類が違ったんだ」
「じゃあ、他の種類の麦を探す必要があるってこと……?」
「探したところで見つかるもんか!」
ホップのように堺に行けば見つかる可能性はあるかもしれない。鎖国をしている時代とはいえ、一部海外からの品も入ってきていたはずだ。しかし再び堺に船で出向き、あるかもわからない二条大麦を探し出し、持ち帰り、それを麦芽にする……
仮に二条大麦があったとしても、時間が足りないことは明白だった。ビールを醸造する前に座敷牢送りだ。直と喜兵寿は捕まり、柳やはなくなる。死んだことになっているつるは、二度と下の町を出歩くことが出来なくなってしまう。
突然目の前の道が崩れ落ち、崖になったかのようだった。麦芽がなければ、どうやったってビールを造ることはできない。
直が説明すると、状況を理解した皆の顔も一気に青ざめていった。
「幸民先生、小西様、直の言っている麦のことを何かご存じないですか?」
「……聞いたこともないな」
「同じく。堺には唐物はあれど、英国からの品はなかなか入ってこないからな。申し訳ない」
「夏、本当に何か知らない?!」
皆の心配そうな声を聞きながら、直は必死で何か他の手立てがないか考えていた。六条大麦でビールを醸造しているブルワリーは事実ある。かつて記事で読んだそのブルワリーは、六条大麦で醸造するための研究を重ね、自家麦芽装置をつくることで六条大麦によるビール醸造を可能にしていた。
しかしここは江戸時代だ。そのブルワリーが何年もかけて開発した装置があるどころか、自然物に頼った麦芽造りをするしかないのだ。どうやったって成功するイメージなんて持てやしない。
「麦芽を使う以外、びいるを造る方法はないのか?」
「ビールってのは、麦芽、ホップ、酵母、水でできてんだよ。麦芽がなけりゃあどうしようもないだ……」
喜兵寿の問いに答えながら、直はハッとした。たしかにビールは麦芽、ホップ、酵母、水からできている。しかしこれはドイツのビール純粋令によって定められたものだ。ホップがなかった時代は薬草を使っていたわけで、麦芽だって他のものを使えないはずは、ないのかもしれない。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。







