【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 100~老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ拾玖
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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麦芽を使わないビール、果たしてそんなものが出来るのだろうか……
直は目を閉じ、ジャンプをし始めた。考え事をするときの直の癖だ。最初はゆっくりと、次第にリズムを刻むように早く飛んでいく。
麦芽と小麦で造るヴァイツェン、ライ麦を加えるライビール。大麦に何かをプラスして醸造するビアスタイルはたくさんある。直が直近醸造したビールも、実家の米を使った「山の宴」もライスエールだ。
頭に響く振動で、頭の中に散らばっていた情報がざばざばとふるいにかけられ、残ったピースがまとまっていく。
そうか。ここに二条大麦はなくとも米は十分にある。そして……
ぱちりと目を開けると、怪訝そうな顔でこちらを見ている喜兵寿と目があった。
そして目の前には日本酒造りのノウハウを持つ、酒蔵の息子だ。おまけに絶対的な舌を持っている。
「なあ喜兵寿。俺と一緒に『新しいビール』を考えてくれないか?」
「はあ?」
わけがわからない、といった様子の喜兵寿をよそに、直は自分の言葉に「そうだよ。そうだ」と何度も頷く。
「江戸で造るんだ。どうせなら、ここならではの『江戸ビール』を造っちまえばいいんだよ。令和のブルワーと江戸の杜氏のコラボレーションビールってやつ!」
目は光を取り戻し、声には興奮が混じる。
「ないものはない!麦芽がないなら、他のものでビールを造ればいいってわけだ」
一度腹が決まってしまえばわくわくした気持ちが湧いてくる。もとより好奇心旺盛で、未知への挑戦が好きなタイプなのだ。
「麦汁の代わりになる甘い汁を、日本酒の製法でつくってさ。それにホップいれたらビールっぽくならないかな?」
「おい、ちょっと待て!」
勝手に突っ走って行こうとする直を、喜兵寿は慌てて止める。
「つまりお前は、俺に日本酒をつくれといっているのか?」
「そうそう!日本酒技術使ったビール造れないかなと思ってさ」
わくわくとした表情の直とは裏腹に、喜兵寿の顔はどんどんと曇っていった。
「俺は……日本酒は造らない」
「は?なんでだよ」
「……日本酒は造らない」
「だからなんでだって聞いてんだよ。喜兵寿なら絶対できるだろ」
醸造の知識、経験もある。味覚だって確かだ。こんなにも頑なに断る理由がよくわからなかった。
「江戸ビール造るためには喜兵寿の力が必要なんだって」
しかし直の言葉を遮るように、喜兵寿はガラリと引き戸を開けた。
「すまん。ちょっと外に出てくる」
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。







