[コラム]2025.9.6

Beer&Life Style Fashion編
【ビールとアロハシャツのペアリング】<後編>

*【ビールとアロハシャツのペアリング】<前編>はこちら。

ビールは、環境=【いつ、どこで、誰と飲むか】によって、美味しさも変わる。

夕焼けを見ながら飲んだビール、野球場で飲んだビール、久しぶりに会う旧友と飲んだビール……。

特別な一杯だったのではないだろうか?

人間は味覚分析器ではない。感情の生き物だ。

テイスティングによって、ビールを客観的に評価することも大切だが、人間は【環境による情緒】も加味して【ビールを楽しむ】生き物である。

そして、ファッションも【情緒】のひとつに他ならない。
人は身に付けるもので気分が変わる。

【どんな装い】で【どんなビール】を飲むと【気分が上がる】のか?
それが【ビールとファッションのペアリング】である。

2022年、2023年の2度にわたり連載され、その一部は2025年4月に出版された【BEER LOVER’S BOOK:リトルモア社】にも掲載された【Beer & Life Style〜Fashion編〜】。
その第3章が、始まる。

 

Beer&Life Style Fashion編
第3章 第2回
【ビールとアロハシャツのペアリング】<後編>

アロハの素材は

アロハシャツの柄のパターンは6つに大別できることは前編で紹介したが、後編では、他のシャツとはちょっと違ったアロハシャツの部分を紹介しよう。

まず、アロハシャツの素材だが、シルク、レーヨン、コットンの3つが一般的だ。

好き嫌いが別れるところであるが、個人的にはコットンが好きで、特にエジプト綿が着心地抜群だと感じている。

シルク100%は着心地が良いが取り扱いには気を使う。

レーヨン100%もサラリとして気持ち良いがシワがつきやすい。

コットン100%は扱いが楽。生地が分厚いと暑いこともある。

エジプト綿はシルクやレーヨンに近い肌ざわりで着心地が良い。

混紡のものもある。それぞれの魅力のいいとこどりと言える。

アロハシャツっぽいボタンとは

アロハシャツ以外ではあまり見かけないのが【ココナッツボタン】と【バンブー(竹)ボタン】である。
逆の言い方をすると「これぞアロハシャツのボタン」ということでもある。

どちらも天然素材ならではの味があり、ボタンを留めるたびに他のシャツでは味わえない満足感がある。

ココナッツボタンはアロハシャツの定番。模様がひとつずつ違うのも面白い。

バンブー(竹)ボタンは和柄によく似合う。光沢があり美しい。

良いアロハシャツの条件は前身頃とポケットの柄合わせ

これは絶対条件ではないが、できればピシッと合っていてほしいのが、【前身頃とポケットの柄合わせ】である。

生地に無駄が出てしまうので、柄を合わせていないシャツも多いが、この柄合わせがしっかりしているとぐっと美しさが増し、良いアロハシャツに見える。

なかには、ポケットだけでなく前身頃の左右がぴったりと柄合わせされているアロハシャツもあり、まさに芸術品と呼ぶにふさわしい逸品である。

一般的なアロハシャツは前身頃とポケットの柄が合っていないことが多い。

前身頃とポケットの柄が完璧に合っているシャツ。無駄な生地が出るため、コスト高になる。

左右の前身頃もポケットの柄も完璧に合っているアロハシャツ。もはや芸術品と言える一着。

【ボーダー・パターン】の長袖アロハシャツをジャケットがわりに

柄が縦方向に描かれている【ボーダー・パターン】は、縦長効果で”スマートに見える”デザインだ。

長袖ならば身頃に加えて長袖のラインも連なり、さらに効果が大きくなる。
いわゆる「シュッと見える」のだ。

アロハシャツは半袖が多いが、【長袖アロハシャツ】はとても重宝な1着で、ぜひ持っておきたいアイテムである。

春や秋、そして冬にも”夏気分”を取り入れたいときに便利だし、【カーディガンやジャケット感覚】で羽織ると、一味違った雰囲気が醸し出される。

一般的なテーラードジャケットやカーディガンの部分を長袖アロハシャツに替えただけ。ムードが一変する。

【バックパネル・パターン】は上品に

【バックパネル・パターン】のアロハシャツの前身頃は、襟やポケット以外は無地である。

一見、アロハシャツには見えないが、半回転すると背中は一幅の絵画になっている。

絵柄はハワイの風景やフラガールが多く、”ハワイアンシャツ”と呼ぶに最もふさわしい柄と言える。

【バックパネル・パターン】は一歩間違えると不良っぽくなるので、合わせるアイテムで上品に着こなしたい。

振り向くと雰囲気が変わる1着。メンズの場合はジーンズではなく、プレスのきいたスラックスやチノパンを合わせて上品に着たい。

【ホリゾンタル・パターン】はお茶目に

水平線や地平線を意識した絵が、前身頃と後ろ身頃共に描かれているのが【ホリゾンタル・パターン】だ。

これもまた、ハワイの風景や植物がモチーフとなっているものが多い。

この柄のアロハシャツを選ぶ際に最も気にしなければいけないのが、裾の長さである。
長すぎても短すぎてもいけないので、必ず試着をして買いたい。

また、このアロハシャツは裾をパンツにインしてはいけない。絵柄が崩れてしまうからだ。

【ホリゾンタル・パターン】のアロハシャツを着る限りは”歩く絵画”になるべきである。

さらに、ポケットの柄が身頃の柄と繋がっていることが望ましい。

前段でも述べたが【前身頃とポケットの柄あわせ】は良いアロハシャツの条件のひとつであり、できれば他のすべてのパターンでもチェックしたいところだが、【ホリゾンタル・パターン】の場合は特にしっかりこだわりたい。

歳を重ねると地味な色合いを好みがちだが、派手な装いにもトライしてほしい。セミ捕り帽の異名を持つクルーハットやシンプルなブルージーンズでハツラツと出かけよう。

【ピクチャー・プリント】をブラウスのように活用

【ピクチャー・プリント】は1950年代初頭に登場した柄で、写真を転写したような柄のアロハシャツである。

実際は写真を原板として、なぞるように網点で型を彫り、色を重ね刷り上げるという手のこんだ生地で作られている。

そのため、初期のモデルは色数が少なく、現在も当時の雰囲気を踏襲し、色を抑えた物が多い。

【ピクチャー・プリント】のアロハシャツは、派手な色調のアロハシャツに抵抗のある人でもトライしやすいし、ブラウス感覚で着こなすと、原色のアロハシャツとは違った楽しみ方ができる。

各アイテムはベーシックな物を揃えているが、アロハシャツのおかげ(?)で型のはまらない自由さが生まれてくる。

アロハシャツにはフルーツビール

さて、それではアロハシャツには、どのようなビールをペアリングするべきか?

前編では【ハワイのビール】をペアリングしたが、後編では【フルーツビール】を合わせたい。

ビールの歴史を紐解くと、ホップ以外にありとあらゆるハーブやスパイス、そしてフルーツが加えられていた。

そのような伝統を踏まえ、さらに創造性豊かな発想で創り上げるフルーツビールは、まさにクラフトビールの真髄ともいえるビアスタイルである。

*クラフトビールの本質が【伝統と創造性】だという件は、私の新刊【BEER LOVER’S BOOK 一生ものの趣味になるビール入門】のP42〜43をご覧いただきたい。

フルーツビールは使われるフルーツによって、香りや味わいが変わってくるが、一般的には、ベリーや柑橘類を使ったものが多く、ホップの苦味にフルーツの甘味と酸味とが加わり、爽やかな口当たりになる。

フルーツの【爽やかさ】がアロハシャツの【涼やかさ】や【南国の雰囲気】にシンクロし、絶妙なペアリングとなる。

SPRING VALLEY BREWERY JAZZBERRY(ジャズベリー)

明治時代に横浜にあったスプリングバレーブルワリーの名を冠した「SPRING VALLEY BREWERY」のプロジェクトは、2011年に始まり、醸造所兼飲食店舗が2015年に横浜と代官山、2017年に京都にオープンした。

そこでは、いくつものクラフトビールが醸造され、その多彩さが多くの消費者に伝えられた。

JAZZBERRY(ジャズベリー)もそのひとつである。

瓶入りのJAZZBERRY(ジャズベリー)は2025年春に終売になったが、スプリングバレーブルワリー代官山や京都、飲食店向け「タップ・マルシェ」や会員向け生ビールサービス「キリン ホームタップ」で飲むことができる。

銘柄:JAZZBERRY
ビアスタイル:フルーツビール
醸造所:SPRING VALLEY BREWERY
アルコール度数:5%

藤原ヒロユキテイスティングレポート

ラズベリーが使われているのでルビー色の外観と爽やかな酸味が印象的だ。
口に含むとその酸味と甘味がモルトとホップのキャラクターとバランスよく調和する。
ワイン酵母が使われていることもあり、複雑なフレーバーも楽しむことができる。
後口に残る酸味と甘味はベタつきがなく軽やかだ。余韻はあるが押し付けがましいくどさがない。
食前酒にも最適だが、肉料理や食後のデザートにも相性が良い。

私のお勧めは、マグロの赤身やマグロのヅケ、鰹のタタキなど”血の気の多い魚”である。
ベリーの酸味が程よく調和し、魚の旨みを引き出してくれる。
赤貝、イクラ、海苔にも合い、寿司とのペアリングは絶品である。
懐疑的な方も騙されたと思って試してほしい。
旨みの調和に頬が落ち、目からは鱗が落ちるに違いない。

横浜ベイブルーイング ゆずヴァイス

横浜ベイブルーイング(創業当初はベイブルーイング横浜)は、横浜ビールで醸造責任者を勤めていた鈴木真也が2011年に独立し、関内でブルーパブを始め、2012年には免許を取得、2016年には戸塚に新工場を新設、2021年にはジン蒸溜所もオープンという歴史を持つ。

鈴木真也は2015年より地元横浜で「ブルワーズカップ」をオーガナイズするなど、リーダーシップにも長けており、日本のビール業界の先駆者、風雲児と呼ばれるにふさわしい。

彼自身もっとも思い入れの強い銘柄「ベイピルスナー」は世界最大のビアコンペティション「ワールドビアカップ(WBC)」で2025年にボヘミアンピルスナー部門金賞を受賞。

「ゆずヴァイス」は、フルーツウィートビール部門で2024年に金賞、2025年に銀賞を受賞しており、その味わいが世界レベルで証明されている。

銘柄:ゆずヴァイス
ビアスタイル:フルーツウィートビール
醸造所:横浜ベイブルーイング
アルコール度数:5.5%

藤原ヒロユキテイスティングレポート

グラスに注ぐと、ゆずの香りが穏やかに漂う。
外観はウィートビールらしい霞が美しく、泡も豊かである。
口に含むとゆずの爽やかな酸味が上品に広がり心地よい。フルーツビールにありがちな甘ったるさやケミカルな印象は皆無で、ナチュラルな印象を受ける。
ゆずの持つわずかな苦味がホップの苦味と程よく調和し、使われている柑橘の種類が「まぎれもなく”ゆず”である」ことを念押ししてくれる。
ウィートビールの口当たりも合いまして、何杯でも飲めそうなビールである。

食前酒はもとより、白身魚のカルパッチョやサラダ、チキン料理、シトラス系のデザートに合ううえ、刺身や根菜の煮物、白味噌の椀物など和食とも相性が良い。

音楽はスパイロ・ジャイラ

合わせて聴きたいのは、フュージョングループの「スパイロ・ジャイラ」

ジャズをベースにラテンやR&B、ファンク、ポップスといったミックス感は、まさに「フルーツとビールの掛け算によって生まれるフルーツビール」 の融合感に通じるところがある。

Spyro Gyra – Morning Dance
Spyro Gyra – Cafe Amore

アロハシャツを着て、フルーツビールを飲んで、フュージョンミュージックを聴けば気分上々。

ゆっくりお楽しみください。

それでは、また季節の変わる頃に。

Cheers !

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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