[コラム]2025.10.5

Beer&Life Style Fashion編
【ビールとシャツのペアリング】<前編>

ビールは【いつ、どこで、誰と飲むか】によって、美味しさも変わる。
人は味覚分析機ではなく、【環境】による【感情の変化】に応じてビールを楽しんでいる。

感情の変化は、ファッションによっても左右される。

【どんな装い】で【どんなビール】を飲むと【ぴったりハマる】のか?

それを考察するのが【ビールとファッションのペアリング】である。
(さらには、どんな音楽を聴いてどんな本を読むと相乗効果をもたらすかも考えてみた。)

JBJAサイトに2022年、2023年の2度にわたり連載され、その一部は2025年4月に出版された【BEER LOVER’S BOOK:リトルモア社】にも掲載された【ビールとファッションのペアリング】。

その3章をお楽しみいただきたい。

第3章 第1回【ビールとアロハシャツのペアリング】<前編
第3章 第2回【ビールとアロハシャツのペアリング】<後編
第3章 第3回【ビールとTシャツのペアリング

第1章、第2章は、こちらから。


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第3章 第4 回
【ビールとシャツのペアリング】<前編>

シャツはファッションアイテムの基本

秋に最も活躍するのが【シャツ】である。

しかし、この【シャツ】という言葉、非常に曖昧に使われていると言って良い。

Tシャツやアロハシャツもシャツだし、ポロシャツ、ワークシャツ、ラガーシャツ、ウエスタンシャツなどときりがない。

しかし、今回は、ワイシャツやドレスシャツ、【襟があって、立襟があってネクタイが締められ、ボタンで開き、裾がラウンドカットのシャツ】という認識で話を進めたい。

アウターにもインナーにもなる【シャツ】は【ファッションの基本】とも言えるアイテムだ。

古代ローマ時代、シャツは下着だった

シャツは、元々は下着だった。

これは前回のTシャツと似ていて、のちにアウターとしての地位を確立することとなる。

その歴史は古代ローマ時代に遡り、チュニック(Tunic)と呼ばれる布のワンピースで、中世時代まで概ね同じ形状だったと考えられている。

その後、ヨーロッパ各国の宮廷で襟を出して見せることが流行し、19世紀になると現在のような折襟が主流となっていった。

ちなみに、シャツの裾がラウンドしているのは、前後から股を包んでブリーフ替わりにしていたという歴史があり、シャツの裾を出すことは、「パンツ丸見え」と同じだったとのことだ。

現在では、裾を出すのも当たり前の時代になり、裾を出すことを前提とした”ラウンドが短いデザインのシャツ”も多い。

以前のシャツ(左)はラウンドが長かったが今(右)は短めが多い。

襟のデザインでシャツの表情が変わる

シャツは、色や柄や素材による印象の違いに加え、【襟のデザイン】で表情が変わってくる。

概ねおさえておくべき【襟のデザイン】は
・レギュラーカラー
・ボタンダウンカラー
・ワイドスプレッドカラー、ホリゾンタルカラー
・ラウンドカラー
・タブカラー、ピンホールカラー
・ウィングカラー
といったところである。

レギュラーカラー。襟先が長いロングポイント、短いショートポイントという区分もある。

ボタンダウンカラー。襟の先にボタンがついている。

ワドスプレッドカラー。襟が広がっている。

ホリゾンタルカラー。襟の広がりが水平に近づく。

ラウンドカラー。襟の先が丸い。

タブカラー。左右の襟が繋げられるようにボタンやホックが付いている。

ピンホールカラー。襟に穴があいていて、左右の襟を細いバーで繋げることができる。

ウィングカラー。立襟の先が翼のように広がっている。

まずは白のレギュラーカラーから

まず初めに、【白いレギュラーカラーのシャツ】が必要となる。

冠婚葬祭に必須なので、老若男女問わず1着は持っておかなければならない。

フォーマルな席が多い人や固い職業のビジネスマンは1着と言わず数着は必要だろう。
必要不可欠のシャツである。

何事も基本が大事。クラフトビールが「伝統と創造」の両輪であるように、ファッションもまずは「基本」を理解してからの「着崩し」である。白いレギュラーカラーは必須アイテム。

次の1枚はボタンダウンがおすすめ

さて、問題は次の1枚である。

必需品とも言える【白いレギュラーカラーのシャツ】の次に入手するのは、やはり【ボタンダウンカラーのシャツ】が妥当だろう。

セミフォーマルからカジュアルと守備範囲が広いユーティリティー・プレーヤーだ。

ボタンダウンはニューヨーク生まれ

ボタンダウンシャツ は、1818年にニューヨークで創業した「アメリカ最古の紳士服販売店」と言われるブルックス・ブラザースのジョン・E・ブルックスによって考案された。

ジョンはイギリスでポロを観た時、競技の邪魔にならないように選手達が襟をボタン留めしているのを見て「これだ!」と閃き、1896年に商品化した。

このシャツ(ブルックスブラザースでは「ポロカラーシャツ」とネーミングしている)はニューヨークを中心としたアメリカ東海岸のエリート学生達やビジネスマンに人気となり、一般に広がっていった。

襟元の美しいS字カーブ

ボタンダウンカラー の良いところは、ネクタイ(リボンタイやボウタイを含む)を結んでもノーネクタイでも襟の収まりが良いところだ。

ネクタイが緩んだ時やノーネクタイになっても襟のシルエットが崩れない。

それどころか、襟元に美しいS字カーブが現れるのだ。

これこそ、ボタンダウンの魅力なのである。

一昔前ならば考えられなかった「ネクタイ&シャツの裾出し」も今では市民権を得ている。ネクタイを緩めた時の襟元のカーブが程よくて良い。

リボンタイもボタンダウンにピシッとおさまる。女性もトラッドやIVYスタイルを着こなすにはボタンダウンを選ぶべきだ。

ジャケットやVネックセーターを重ね着しても、襟の納まりが良いのもありがたい。
ジャケットの下で襟の片方だけがクシャッとなっちゃたりしないのだ。

ノーネクタイでジャケットを羽織るならば、ボタンダウンを選ぶべきだ。他の襟だと襟先がジャケットの襟に引っかかったりして納まりが悪い。

スウェットやクルーネックセーターの時も、「襟が片方だけ跳ねて出てるよ」なんてことがないのも嬉しい限りだ。

クルーネックの下にボタンダウンシャツ を着ておけば、襟が中途半端に出てしまったりすることがない。

ボタンダウンシャツにはニューヨークのビール

今回の<前編>は「ボタンダウンシャツ」にフォーカスして描いたので「ボタンダウンシャツ に似合うビールは?」ということを考えねばなるまい。

そして、これは結構簡単な話で、答えは【ニューヨークのビール】である。

なぜならば、ボタンダウンシャツ はニューヨーク生まれのシャツだからだ。

私の「食とビールのペアリング・メソッド:3B&3Cの法則」のひとつに【発祥地域(Birthplace)/発祥国(Country)を合わせる】という方法がある。

そこで暮らしている人達が生活の中でペアリングしているものが合わないはずがないという考え方だ。
【発祥地合わせ】は最もシンプルなペアリングである。

3B&3Cの法則に関する詳しい内容は【BEER LOVER’S BOOK 一生ものの趣味になるビール入門】のP114〜115を参照していただきたい。

ブルックリンブルワリー

ニューヨーク市を代表する醸造所といえば、【ブルックリン・ブルワリー】をおいてほかにあるまい。

ジャーナリストのスティーブ・ヒンディと銀行家のトム・ポッターにより1988年に創業された醸造所だ。

19世紀後半にビールの町として栄えていたブルックリンの歴史を復活させる目的と麦芽100%の味わい深いアンバーラガーを造るという志は【ブルックリンラガー】によって開花した。

その後ブルーマスターとして参加したギャレット・オリバーにより、【ブラックチョコレートスタウト】や【イーストIPA】、大瓶シリーズの【ブルーマスターズ・リザーブ】などのヒット商品も多数生み出している。

また、ギャレット・オリバーは2003年に「マスターズ・テーブル」を執筆し、ビールと料理のペアリングを広めた先駆者でもある。

流れるようなBのロゴマークは、I🖤NYをデザインしたミルトン・グレイザーの手によるものである。

ブルックリンラガー

銘柄:ブルックリンラガー
ビアスタイル:アンバーラガー
醸造所:ブルックリンブルワリー
アルコール度数:5%

藤原ヒロユキテイスティングレポート

琥珀がかった深い黄金色で、ホップの香りが上品に漂う。口に含むと、ホップのフレーバーとともにモルトのカラメルライクな甘味も程よく感じ、リッチな気分になる。ラガーらしいシャープな喉通りなので、重たさを感じることがなくドリンカビリティが良い。

トマトソースやケチャップとの相性が抜群で、それらが使われたピザやパスタなどとはベストペアリングだ。BBQソースや辛味の効いたメキシコ料理やケイジャン料理にも合う。
また、醤油や出汁とも相性が良いので、すき焼きや照り焼きといった和食にもぴったりである。

音楽もニューヨークで

ニューヨーク生まれのボタンダウンシャツを着て、ニューヨークのビールを飲みながら聴きたいのはニューヨークの唄である。

まずは、映画「ニューヨーク・ニューヨーク」で【ライザ・ミネリ】が歌った「New York New York」。

ニューヨーク・ヤンキースの本拠地ヤンキー・スタジアムで試合後に流れるフランク・シナトラのカバーしたバージョンが有名だが、元祖はライザである。

続いては、【ビリー・ジョエル】の「 New York State of Mind(ニューヨークの想い )

ブルックリンに生まれロングアイランドで育つという生粋のニューヨーカーのビリー・ジョエルが、一時ロスアンゼルスに居を移したあと再びニューヨークに戻る際、その思いを歌った曲だ。ニューヨーク愛に満ち溢れた曲である。

本とのペアリングもニューヨーク

ニューヨーク生まれのボタンダウンシャツを着て、ニューヨークのビールを飲みながら、ニューヨークの歌を聴き、読みたい本はこの2冊である。

【ニューヨーク人間図鑑】
イラストレーション:永沢まこと 文:宮本美智子


私が「素晴らしい画力だ」と感じるイラストレーター、永沢まことの初期の作品(初版1979年)である。

晩年の『描き込む画風』も素晴らしいが、この時期の洒脱で即興的なタッチは『本当に絵が上手い人の作品とはどんなものか?』を教えてくれる。
最もエネルギッシュでデンジャラスな時代のニューヨークが描かれている。

【ビールでブルックリンを変えた男 ブルックリン・ブルワリー起業物語】
スティーブ・ヒンディ 訳:和田侑子


ブルックリン・ブルワリーの創業者スティーブ・ヒンディが自ら執筆した起業物語。

この1冊を読みながら飲むブルックリン・ラガーは格別な1杯となること間違いなしだ。

ミルトン・グレイザーとの出会い、強盗に襲われたりマフィアのボス(と思われる人物)と対峙する話、さらにはキリンビールや木内酒造との関係も描かれており、BEER LOVERならば必ず読んでおきたい1冊だ。

ペアリングの答えはひとつではない。

それもまたビールの楽しいところだ。

私の提案はあくまでも選択肢のひとつでしかない。

皆さんも自分自身のペアリングを見つけ、楽しいBeer Lifeを過ごして欲しい。

Cheers
藤原ヒロユキ

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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