北海道ブルワリー探訪vol.3【くりやまクラフト/栗山町】

〈画像提供:くりやまクラフト〉
4月中旬、例年より早い桜前線が上陸し、SNSでは札幌の初桜の投稿もちらほらと上がり始めた。朝晩はまだ寒さが残るものの、昼間の陽気や暖かくなった時に感じる土の香りからは、北海道の短い春の始まりが感じられる。
今回は、春の暖かさを感じながら道央・空知地区の栗山町へ向かった。栗山町は人口約1万人、新千歳空港から車で40分、札幌中心部からは車で60分ほどの距離にある空知南部の町である。身近に自然を感じられる環境と利便性のバランスが良く、農作物にも恵まれている。老舗の酒蔵もあり、酒の町としても知られている。
その栗山町に、開業から1年が過ぎたブルワリー「くりやまクラフト」がある。醸造から経営までをほぼ一人で担っているのが石井翔馬さんだ。
ブルワリーの住所を訪ねると、「ストアーやまかね」という個人商店にたどり着く。一見した外観からはクラフトビールの存在を想像しにくい建物だが、店内に入るとガラス越しに銀色に輝くタンクが現れる。まるで秘密基地のような醸造所である。
訪れたのは、前日に仕込みを終えたタイミング。発酵タンクからは、酵母が活発に働く音が静かに響いていた。水の入ったバケツに差し込まれたホースから、ガスがプクプクと抜ける音だ。その音を聞きながら、石井さんのこれまでをたどる。

ここに醸造所?と思わせる昔から地域に愛された雰囲気がある個人商店「ストアーやまかね」

まさに秘密基地!端に映っている陳列棚は、どこか懐かしさを感じる。

ストアーの奥にはくりやまクラフトのビールが並ぶ
なぜ栗山町でビール造りなのか
石井さんは埼玉県出身で、地元では管理栄養士として働いていた。学生時代から栄養学を学び続けてきたという。転職を機に地元を離れることを考えた際、「北海道で働きたい」と思ったのがきっかけだった。
求人を探す中で目に留まったのが地域おこし協力隊(以下、協力隊)である。各自治体で募集されており業務内容も多様だが、その中でも栗山町の募集要項は具体的で、自身のイメージに合致していたため応募を決意し、移住に至った。
協力隊では、ふるさと納税の事務局として特産品のPRを担当。これまでの経験を活かし、地元食材を使った料理を作って撮影するなど、自身の強みを発揮しながら業務に取り組んだ。
任期は3年。その後も栗山に残りたいという思いから飲食店の開業を決意し、2年目から準備を始め、3年目に「beer&barくりとくら」をオープンした。現在も営業を続けており、商店街の人々や観光客が集う寛ぎの場となっている。
もともと栗山町への移住はビール造りが目的ではなかった。石井さんは飲食店のほか、宿泊施設の運営やふるさと納税の仕事も継続しており、多様な役割を担っている。
その中でビール造りを始めた理由について尋ねると、石井さんはこう話す。
「コロナを経験したのもあると思います。サービス業以外の柱も持っておきたくて。もともとビールが好きで、造ってみたい気持ちもありました。」と語る。
町内での醸造にこだわり、相談を重ねる中で、顔見知りだったストアーやまかねのオーナーが店舗の約半分を貸してくれることになり、現在の場所での開業に至った。設備導入のための改装も快く受け入れられたという。
醸造設備について
醸造所は令和7年1月に免許を取得し、4月に商品を発売した。
設備は300Lの発酵タンクが4基、仕込みタンクと煮沸タンクが各1基。レイアウトは自身で設計した。これらのタンクはすべて札幌の「月と太陽BREWING」から譲り受けたものだという。
もともと中国製タンクメーカーのメト製品を検討していて、実物を見ておきたく、実際に使用しているブルワリーを聞いたところ同社を紹介してもらった。見学に訪れた際、「ちょうど大型タンクへの入れ替えがあるよ」との話になり、不要となる小型タンクを譲り受けることになった。結果として初期投資を抑えた形で醸造をスタートできた。

月と太陽BREWINGからのおさがりの発酵用タンク

こちらも同様に月と太陽BREWINGからのおさがりの仕込み用タンク(手前)と煮沸用タンク

缶の充填機。1本1本手作業で詰めている。

在庫管理はホワイトボードとマグネットを使い「アナログでやるのが1番いい」と石井さん

ビール樽。詰める際に専用袋を内側に装着する樽で内部洗浄が不要になるもの。基本はこのタイプを使用している。
ビール造りの修行は、札幌の澄川麦酒で行った。代表の齋藤さんや当時醸造担当だった木村さん(現在は札幌市南区のpermanent)に技術指導やビールの基礎を学んだ。研修の最後には、オリジナルレシピのゴールデンエールを造り、それが後の初醸造となる「まつかぜ322」のモデルとなっている。
醸造設備は石見式ではなく、一般的なタンク方式を採用している。その理由について、聞いてみると「ビールを造り始めてもこれまでの仕事を続けていて、やりたいことが多くて(笑)。タンク方式だと、石見式に比べて仕込みの回数を効率よく減らせるため、それでタンク方式を選びました。石見式は仕込み回数を増やせる良さがあり、その分、技術力や経験が増すのですが、僕は効率の方を選びました。」と語る。石見式は経験値を積みやすい利点があるが、自身の働き方とのバランスを考えて選択したという。
仕込みについても聞いてみた。
「仕込みは大体、月に2回程度ですね。たまたま昨日、一昨日は試しに2日連続の仕込みやってみました。ちょうど新作でして(笑)。連続仕込みだと効率は良かったですね。」と話してくれて、後片付けや清掃の時間を短縮できたようだった。
一方で過酷な経験もある。
「以前に1日2回仕込んでる方の話を聞いてやったことがあるんですが、地獄でした・・・14時間掛かって・・・。これはもうやらないです」と笑いながらで振り返ってくれた。
定番ビールのご紹介
現在の定番ビール3種〈写真提供:くりやまクラフト〉
・まつかぜ322
くりやまクラフトの最初の一杯。「まつかぜ322」という名前は醸造所の住所。
クラフトビールを飲んだことがないという方にもおすすめしたい、まさに”最初の一杯”。
Style:SAKE GoldenAle
ABV:5.5%
IBU:22
SRM:3.6・InsPirAtion -インスピレーション-
“ひらめき”を意味する名前には、ひっそりと“IPA”の文字が隠れています。
しっかりとした苦みの奥に、華やかなホップや果実の香りが感じられる、飲み疲れしにくい一杯です。
Style:IPA
ABV:6.0%
IBU:77
SRM:8・人はそれをヴァイツェンと呼ぶ。
ある一人の「もう一度あの味に出会いたい」という声から誕生した、フルーティでやわらかなホワイトクラフト。バナナを思わせる香りと、まろやかな口あたりが特徴で、クラフトビールに慣れていない方にもおすすめです。記憶の奥にそっと寄り添う、やさしい味わいをぜひお楽しみください。
Style:ヴァイツェン
ABV:4.5%
IBU:9
SRM:3.6
どれもユニークなネーミングだが、特に印象的なのがヴァイツェンである。ストアーのオーナーのお酒好きな甥っ子さんから「あのビール作ってよ」のリクエストから始まったそうだ。ノーヒント状態からヒアリングを続けて、ようやく再現したビールだった。「人はそれをヴァイツェンと呼ぶ。」というネーミングと背景が見事に一致している。
定番に加え、「栗山の四季シリーズ」として限定醸造も行っている。栗山産ホップを使用しているのが特徴だ。町内の農家さんが栽培しているのを聞きつけ、収穫作業も一緒に行った。昨年は約20kgを収穫し、真空パックにして大切に使用している。

真空パックにした栗山町産のカスケード。「カス」はカスケードの意味。
最大の特徴『副原料の日本酒一升』
副原料として地元酒蔵・小林酒造の日本酒を使用している点も特徴である。酒粕ではなく日本酒そのものを、しかも一升瓶丸ごと、煮沸のタイミングで投入する。ビール造りでは珍しいと思う。近頃の物価高もあり、日本酒も単価が上がってきたが、地元のお酒を使う方針は変えない。
「実は現在使用している日本酒がリニューアルで無くなるようで、次はワンランク上の日本酒を使用する予定です。スタイルによっては、投入するホップの費用より、日本酒の費用の方が高くなることもあります(笑)」。副原料としては高級なものになるだろうが、ビールの味にもきちんと日本酒のまろやかさが表現されており、栗山らしさを感じるビールになっている。

仕込みに栗山の小林酒造「北の錦」を1升を使用

煮沸時にタンクに投入〈写真提供:くりやまクラフト〉
レシピについて
レシピはすべて自身で設計している。インターネットで調べたりする事なく、前職の管理栄養士の中でレシピ作成の経験があるため、分野は異なるものの、感覚的な部分は共通し、大きな苦労は感じていないようだ。これまでご自身のイメージでビール造りをしてきたが、近年はビアスタイルガイドラインを意識した醸造にも取り組み始めた。品評会を見据えた設計に加え、今後は石井さん好みのモルトの個性をより引き出したビールにも挑戦していきたと話していた。

自身の設計で造ってきたくりやまクラフトのビール〈写真提供:くりやまクラフト〉
beer&barくりとくら

昔の時計屋さんの店舗を使用している beer&barくりとくら

どこに座っても石井さんとお話しできそうな店内。落ち着いた雰囲気も感じる
醸造所からほど近い場所に、自身が営む飲食店がある。自社ビールに加え道外のクラフトビールもタップで提供しており、ラインナップは個性的だった。
また、大手のビールも提供されており、それがサッポロクラシック。品質管理と注出手順により完璧なビールを提供できる証のパーフェクトクラシック協力店にも認定されている。また、令和7年6月には、サッポロクラシック40周年の企画で、北海道で40店しか選ばれない、すべての管理項目で高レベルなお店「ベスト オブ パーフェクトクラシック店」にも認定された。造り手と提供者の両面でビール愛、そして強いこだわりが感じられた。

ビールは自社のを含め、すべてタップで提供。右側のラインナップは石井さんの好みをチョイス!

ビールの提供も徹底した品質管理を行ってきた証のオブジェ

この認定証をみるとオブジェの凄さがわかる
公認店の話題でもう一つ。それが乃木坂46「おひとりさま天国」公認店だ。メンバーが日本全国の「おひとりさま」で楽しめるお店を全国100店厳選するもの。北海道は5店舗がリストに名があり、その1店が「くりとくら」である。直接、取材でメンバーが訪れ、一部のメニューで名付け親もしたそうだ。それを見た観光客が来店し、推し活スポットとしても愛されている。
フードメニューも肉、魚、揚げ物など幅広く用意されており、ピザ専用のオーブンがあったのも印象的だった。ちょうどお話を伺っていた際に地元の方から予約の電話も来ていた。地元に寄り添った雰囲気の良いビアバーだった。

推し活で来た方はメンバーが座った席に座り、同じメニューを食べて帰るんだとか
最後に
醸造開始から約1年。大きなトラブルもなく、他事業と両立しながら着実に歩みを進めている。一方で仕込みの工夫や新商品の構想など、試行錯誤は続いている。
取材当日も忙しい合間を縫って対応してくれたが、その穏やかで笑顔の多い人柄から多くのファンが生まれているのも納得だ。
筆者もまた栗山町を訪れ、日本酒を味わい、ストアーやまかねでビールを購入し、「くりとくら」で食事と一杯を楽しみながら、この町の魅力をゆっくり堪能したいと思う。

最後にくりとくらで撮影。今後の新作ビールが楽しみ!
【購入やSNSの各種情報】
合同会社オフィスくりおこ https://www.kurioco.com/
ECサイト https://kuriyamabeer.theshop.jp/
くりやまクラフトInstagram https://www.instagram.com/kuriyama.craft/
beer&barくりとくら https://www.hotpepper.jp/strJ003522013/
【今後のイベント情報】
北海道
5月6日(水)タップテイクオーバー
札幌・すすきの ビアバーHey.today!Beer stand
このイベントで新作登場予定!!
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。










