[コラム,ブルワー]2017.7.29

地域循環で街を盛り上げるブルワリーに!【ブルワリーレポート TDM 1874 BREWERY編】

神奈川県横浜市の北西部に位置する十日市場。古くは古道鎌倉道と八王子道が交差し、定期市「十日市」が開かれていたことが由来とされています。ここに明治7年(1874年)創業の「坂口屋」という酒屋があります。2017年1月中旬、この歴史ある酒屋が醸造を開始しました。その名は「TDM 1874 BREWERY(以下、TDM)」。外販もしており、すでに飲んだことのあるビールファンもいらっしゃると思います。今回はこちらにお話を聞いてきました。

「地域循環」をコンセプトとしたブルワリー!

まずは名前の由来について聞いてみました。

「Tは数字10の『Ten』、Dは日の『Day』、Mは市場の『Market』。十日市場の頭文字と1874は坂口屋の創業年からとって名付けました」とのこと。

「当社のコンセプトは地元の食材を使用してビール造り、販売するといった『地域循環』です。そのほかに併設するビアパブでの交流の場をつくり、人と人を繋ぐコミュニティづくりを掲げています」と地域に根付いたブルワリーを目指しています。

JR横浜線十日市場駅南口から徒歩7分のところにある。外から醸造所の様子も伺える。

「お客様からもおかげさまで好評いただいています。週末にはビアパブはとても賑わいをみせています。この地の方はまだクラフトビールは目新しいもので、ピルスナー以外のビールに驚かれていますが、飲まれると『美味しい』と仰ってくださっています。近くには新興住宅地もあるので、親子で訪れる方もけっこういらっしゃいます。平日は女性お1人で仕事帰りに寄ってくださる方もいますね」と早くもコミュニティの場としての役割を果たしています。

木が基調となっている店内。バータイムはここで、飲むことができる。醸造所と反対側のスペースには日本酒やワインが豊富に用意され、購入後、店内で飲むことも可能。

構想から2年、課題を1つずつ乗り越えて

「当社は元々、酒屋ですので、お酒を卸して売るということをしていました。加藤代表取締役は5代目になるのですが、現状を維持していくだけではなく、新しいことに積極的にチャレンジしていくベンチャースピリッツが強い方です。約2年前より自分たちが『メーカーとしての強みを持っていこう』ということが立ち上げのきっかけです」と清藤洸太氏が教えてくださいました。

「TDM 1874 BREWERY」について話してくれた清藤洸太氏

「私たちはブルワーがいて、ビールを造り始めたのではなく、企画が動き出してからブルワーを探しました。代表の交流のなかで、現在、醸造を担当しているジョージ・ジュニパーと出会うことができました。最初は『どこかに美味しいビールを造れる人はいない?』とかここは元コンビニで、ブルワリーを作ることも初めてのことでしたので、タンクの組み立てなどはとても苦労しました」と話します。

400L麦汁煮沸、仕込装置、400L発酵タンクが4本と800L発酵タンクが2本を備えている

「ここではビアパブも併設しているので、醸造免許と販売免許の両方を取得する必要がありました。免許申請関係も初めてのことなので、準備が大変でした」と免許申請関連はやはり大変であったといいます。

酒屋さんということもあり、クラフトビールの取り扱いも豊富。普段なかなか置いていないようなビールも【写真提供:TDM 1874 BREWERY】

バランスが良く、何杯でも飲めるビールを目指す!

「ビール造りで、1番大事にしていることは『バランス』です」

こう話すのは、醸造担当のジョージ・ジュニパー氏。彼は母国イギリスで13歳からお酒造りに興味をもち、勉強を始めました。その後、母国の「ダークスターブルワリー」で勤務した後、文化に関心のあった日本で、ブルワー経験を積まれた経歴をもつ人です。

醸造を担当しているジョージ・ジュニパー氏。国内外のブルワリーでの醸造経験をもつ人物だ

ジョージ氏がいうバランスとは、香り、甘味、苦味、旨味、酸味、アルコールなどの要素を円グラフにしたときにきれいな円になるようなビールだといいます。その円が大きくなったり、小さくなったりするが、円の形が崩れない限りはバランスが取れているビールと考えています。

「特出していないということは一見地味に感じられてしまいますが、ホップの香りが強烈に広がるビールや苦味の強さを追求したビールなどは、個性があり美味しいのですが、1杯、2杯と続けて飲む事は難しいと思います。私はもう一杯飲みたくなるビールを目指していきたいと思っています」とジョージ氏は教えてくれました。

(左)CoCo-Natsu アルコール度数:約5.8% (中)ペールエール アルコール度数:約5.1% (右)BBB(ブリッティシュ・ベスト・ビター) アルコール度数:約4.3%

なぜ、彼をブルワーとして招いたのか?

「代表が求めるビールも『バランス』がとれているビールだからです。私が考えるバランスとは『飲み疲れない』、『アルコール度数がそれほど高くない』、『ホップの香りに頼り過ぎない』といったものがあります。こうした考えがジョージとも合い、彼にビール造りを任せることになりました。BBB(ブリティッシュ・ベスト・ビター)はゆるゆるとずっと飲んでいたいビールです(笑)」と話します。

地元の浜なしを使ったゴーゼスタイルのビール。マイルドな酸味が心地良い

彼らの話をきいていると、新しいチャレンジもしていくが、ベースとなる「何杯でも飲んで過ごすことができるビール」を大事にしたい気持ちがとても伝わってきました。

地元はもちろん、専門家からも評価されるブルワリーへ!

「今後の目標としては、ここを十日市場のランドマークとなるよう育てていきたいですし、観光地ではないので、『ここに行く』と決めて来ないといけないところなので、そう思ってもらえるようなブルワリーになりたいです。あとはコンペティションにも参加して、専門家からも評価をいただけるように成長していきたいと思っています」と語ってくれました。

さらに「ボトル販売もしていますが、まだ十分な数をご用意できていません。こちらも力を入れていきたいです。イベントへの出店ですか? もちろん、チャンスがあれば参加したいです。今後の展開としては、工場見学も検討しています。ぜひ、まだ飲んだことのない方はお越しいただいて、飲んでください!」とのこと。

十日市場の新たなコミュニティの場として、新たな街のアピールポイントとして、TDMはその目標を叶えるべく一歩一歩、歩み始めています。

◆TDM 1874 BREWERY Data

住所:神奈川県横浜市緑区十日市場835-1

電話・FAX:045-985-4955

E-mail:info@sakaguchiya.co.jp

Homepage:http://www.sakaguchiya.co.jp

Facebook:https://www.facebook.com/tdm1874brewery/?fref=ts

ブルーパブ営業時間:平日 17:00~22:00 土 12:00~22:00 日・祝 12:00~21:00

定休日:水曜日

TDM 1874 BREWERYブルワリーレポート十日市場

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

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