[コラム]2023.10.18

【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~㉑ 酒問屋の看板娘、異端児になる 其ノ捌

ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。

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店に帰る道すがら、つるは俯いたままずっと下唇を噛んでいた。
涙が流れないようにだろうか、時折小さく息を吐くのが聞こえる。

喜兵寿はそんなつるを背中で隠すように、先頭を黙々と歩いていた。

「ただいま戻った」

店に帰ると、「おかえりなさい」と夏が心配そうな顔で駆け寄ってきた。
荷物を運んだまま、ずっと店で帰りを待っていたのだろう。

そのままつるに抱きつき、背中をポンポンと叩く。

「大変だったね。戻ってきてよかった」

黙って頷くつるを、夏は再度ぎゅうっと抱きしめ、ゆっくりと座敷に座らせた。
炎天下の中を歩いてきたというのに、つるの顔は青白く、見れば小さく震えている。

「夏、荷運びに店番まで任せてしまって悪かった」

喜兵寿がいうと、夏は「全然~」とほほ笑みながら首を振った。

「今回の件って、やっぱり一番上のお兄ちゃん……だったのですか?」

「ああ。そうだ、約束の日まで何月もあるから大丈夫だろうと油断していたが……まさかこんなに急に来るとな」

喜兵寿は煙管に火をつけ、ため息と共に大きく煙を吐き出した。

「こんなに急に、それも無理やり連れて行こうとするなんてひどいですよ。つるちゃんの気持ち、なんにも考えてないじゃないですか」

夏も眉間に皺を寄せ、ため息をつく。
その横でつるは黙って俯いていた。

皆、思い思いに何かを考えているのだろう。
ずっしりとした沈黙が店の中を覆い、外から聞こえるミンミン蝉の声だけがやたら大きく響いてくる。

1分、2分、3分……そんな皆の様子に耐えられず、なおは思わず叫んだ。

「ちょっと!そろそろ俺にもわかるように説明してくれよ!めっちゃ空気読んで、静かにしてたけど俺の存在忘れすぎじゃない?!え、俺、透明すぎ?ねえねえ!」

その声でなおの方を見た、喜兵寿と、夏と、つるの顔には「たしかに」とわかりやすく書いてあって、お互い顔を見合わせるとぶはっと吹き出した。

緊張がほどけたつるは特にツボに入ったのだろう。
肩を震わせながら笑っている。

「すまない、今回の件はなおが教えてくれたのに、なにも伝えてなかったな」

喜兵寿は笑いながらなおの肩を叩くと、「少し長くなるが」と前置きをし、造り酒屋柳やそして自分たちの家族のことを話してくれた。

―続く

※このお話は毎週水曜日21時に更新します!

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

ルッぱらかなえ

ビアジャーナリスト

ビールに心臓を捧げよ!
お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター。
和樂webや雑誌「ビール王国」など様々な媒体での記事執筆の他、クラフトビール定期便オトモニでの銘柄選定、飲食店等へのビール提案などといった業務も行っています。
朝から晩まで頭の中はいつだってビールでいっぱい!

ビールの面白さをより多くの人に伝えるため、ビールをテーマにした小説「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗」を連載中。小説内で出来上がる「江戸ビール」は、実際に醸造、販売予定なので、ぜひオンタイムで小説の世界を楽しんでいただきたいです!

その他、ビールタロット占い師としても活動中(けやきひろばビール祭り、ちばまるごとBEERRIDE等ビアフェスメイン)
占い内容と共に、開運ビアスタイルをお伝えしております。

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