[コラム,テイスティング]2024.6.22

ブリュッセルの名店「Ramen NOBU Stockel」で食す絶品のランビック柚子塩ラーメン — 味の決め手は「OWA(欧和)」

昨今の世界的な日本食ブームを受け、ビール大国ベルギーにおいても近年ラーメン店の数が増えつつあります。また、日本食とベルギービール文化の意外な共通点として、どちらも「ユネスコ無形文化遺産」に登録されていることが挙げられます。今回筆者は、ブリュッセルにある行列のできる人気店「Ramen NOBU Stockel」を取材しました。この店の代表を務める石井伸知氏は、近年のベルギーにおける日本食ブームを作った立役者の一人といわれています。

さらに「Ramen NOBU Stockel」は、サステナブルな取り組みを行う飲食店としても注目を集めています。その理由は、看板メニューの一つである塩ラーメンに使用する素材にあります。このラーメンの香味油には、「OWA(欧和)」のランビック「Yuzu Lambic(柚子ランビック)」を造る際に漬け込んだ柚子の果皮が再利用されています。「OWA」は、日本人ブルワーの今井礼欧氏が手掛けるベルギービールブランドです。

本記事では石井氏のご経歴およびランビック柚子塩ラーメンの誕生秘話と味わいの特徴、さらにはベルギービールとのペアリングについて紹介します。

石井伸知氏のプロフィール

ラーメン店プロデューサー兼店主。神奈川県横浜市出身。言わずと知れた名店の「東池袋大勝軒」で修行し、ラーメンの神様として知られる創業者の山岸一雄氏および現店主の飯野敏彦氏のもとで、直接ラーメン作りの技術や飲食店経営の知識を学ぶ。

その後、山岸氏から正式に暖簾分けを受け、2011年に独立。静岡県内に自身が手掛けるラーメン店「大勝軒みしま」を開業。2014年には2号店として「大勝軒はままつ」をオープンさせる。さらに、同年10月からは海外事業にも着手し、ベルギー発のラーメンチェーン「MENMA(麺真)」の開業に総合プロデューサーとして携わる。2016年からは、一度は閉店したブリュッセルの老舗ラーメン店「Yamato(やまと)」の店主を引き受け、人気店へと完全復活させる。

そして、2020年からは新たな試みとして、ベルギーの食文化を取り入れたラーメン作りと地産地消、サステナビリティを経営理念として掲げる店「Ramen NOBU Stockel」を開業し、現在に至る。

石井氏へのインタビュー動画:「【大勝軒】兄弟子がベルギーでラーメン?!世界はラーメンブーム」 (YouTube : 青森大勝軒 / 野呂家公式チャンネル)

「東池袋大勝軒」創業者の山岸一雄氏(左)と石井伸知氏(右)写真提供 : 石井伸知氏

2023年、石井氏はラーメン職人として初めて「フランス料理アカデミーベルギー・ルクセンブルク支部」の会員に登録された 写真提供 : 石井伸知氏

絶品のランビック柚子塩ラーメン

誕生秘話

「OWA」の「Yuzu Lambic」は、ほかの醸造所から購入したストレートランビックに日本から空輸した新鮮なゆずの果皮を2〜3カ月漬けて風味付けをすることで造られます。その際、ランビックに漬け込んでいた果皮は、ボトリング直前の段階で取り除かれ、そのまま廃棄されていました。

「OWA」の「Yuzu Lambic」

石井氏は、ベルギーの食文化を取り入れたラーメン作りとサステナビリティを意識した店舗経営を構想している中で、こうして廃棄される果皮の再利用方法の可能性に着目しました。そして実際に試食してみると、上質なランビックの中で熟成されることによって、柚子特有の風味や香りが驚くほど引き立っていることが分かったのです。

さらに、熟成による防腐効果によって長期保存も可能であり、まさに石井氏が探し求めていた条件と合致する最高の素材でした。その後改良を重ねた結果、石井氏は唯一無二のランビック柚子油の開発に成功しました。このような特製香味油を秘伝のかえし、魚介の風味が効いた淡麗なスープと掛け合わせることで、ベルギーでしか味わえない唯一無二のランビック柚子塩ラーメンが誕生しました。

また現在、石井氏が考案したこのランビック柚子油作りの技法は、ベルギー国内のラーメン店独自のものとして、ほかの店でも試みられています。

味の決め手となるのは、上質な魚介と鶏の風味が効いたかえしと特製のランビック柚子油

昆布、煮干しなどの魚介をベースとする滋味深いスープは前日の夜から仕込みを行う

味わいの特徴

まず透き通ったスープをすすると、昆布、煮干しといった魚介系と鶏由来の動物系の旨みや香ばしい風味を感じた後に、柚子特有の爽やかで和のテイストを感じさせる心地よい香りが口から鼻へと抜けていきます。天然素材由来の上品な旨みを感じる淡麗なスープは、するすると飲み干せそうです。

硬水との相性が良いヨーロッパ産小麦で作られた中太のちぢれ麺は、あっさりとしたスープとよく絡みます。さらに、小麦由来のやさしい甘味も感じられます。

立体的に美しく盛られたトッピングは、チャーシュー、メンマ、ネギ、もやし、なると、そして半熟味付けたまごと盛り沢山。専門業者から仕入れる上質なベルギー産豚肩ロースを使用したチャーシューは、しっとりと柔らかく、噛むほどに旨みで溢れます。また、赤身とサシのバランスも良く、臭みやクドさを全く感じさせません。絶妙な茹で加減の半熟たまごは、石井氏考案の醤油ベースの甘辛い漬けダレの中で一晩寝かせています。シャキシャキとしたねぎ、もやし、メンマも食感に良いアクセントを与えてくれます。

ランビック柚子塩ラーメン(トッピング全部乗せ)

ベルギービールとのペアリング

「Ramen NOBU Stockel」ではもちろん、「OWA」シリーズの取り扱いもありますが、今回は、常連のお客さんがほぼ必ず注文するというベルギービール「Yamato Beer (大和麦酒)」とランビック柚子塩ラーメンのペアリングを試してみたいと思います。「Yamato Beer」は日本人ブルワーの小原呂之氏によって2024年4月にリリースされたばかりのビアブランドですが、既に現地で多くのファンを獲得しています。

スープがよく絡んだ麺を啜った後にビールを一口含むと、ドライでキレのある苦味と豊かな旨味が広がり、ランビック柚子塩ラーメンの繊細な風味が引き立ちます。特に、シトラ由来のグレープフルーツ、レモン、パッションフルーツのニュアンスが、柚子の香りと相まって爽やかな柑橘風味が口いっぱいに広がるでしょう。さらに、ソラチエース由来のレモングラスやディルのような清涼感、ヒノキのようなウッディな風味が、青々としたネギの香りや風味と絶妙に調和。スープの滋味深さを一層引き立てます。

後味にはシャープな喉越しを感じつつも、2種類のホップと柚子の爽やかな香りが心地よく余韻として残ります。また、塩分や油分を洗い流してくれる効果もあり、口の中をさっぱりとさせます。

ランビック柚子塩ラーメンと「Yamato Beer」

「Ramen NOBU Stockel」では、このようなベルギーでしか味わえないランビック柚子塩ラーメンのほか、秘伝の合わせ味噌とスパイシーオイルで作られるスパイシー味噌ラーメン、自家製の甘辛いそぼろと香味野菜をふんだんに使用したスパイシーまぜそばなどさまざまな味が楽しめます。また、ヴィーガン向けのラーメンも評価が高く、ヴィーガン・ベジタリアンの専門雑誌や情報サイトに掲載されるなどベルギー国内外から注目を浴びています。

[Ramen NOBU Stockelの詳細]

住所:Rue de l’ Eglise 96a, 1150 Woluwe-Saint-Pierre, Belgium(ショッピングセンター Stockel Square内)

営業時間:11 : 00 〜 19 : 00 (イートイン、テイクアウトともにラストオーダーは18: 30)

定休日:日曜日、祝日

公式ホームページ : https:/www.ramennobu.com

宅配サービス : Uber Eats , Deliveroo

 

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

安彦良紀 (Kazuki Abiko)

ビアジャーナリスト/ JSA認定ワインエキスパート/ WSET Level3 Award in Wines

1996年生まれ、福島県出身。ブリュッセル自由大学(ULB) 博士課程在学中。2023年度日本ビアジャーナリスト協会新人賞受賞。
インスタグラム@bierebelgequejaime114でも、飲んだクラフトビールの記録およびベルギーや他のヨーロッパ諸国で訪れたバーや醸造所の情報を発信中。

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