【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 122~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ拾陸
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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深夜の下の町は静かだ。時折川の音などが聞こえるが、町全体がしんっと静まり買えり、犬の鳴き声一つしない。
(堺とは大違いだな)
小西は地元を思い出しながら、垂の隙間から外を眺めた。
堺では深夜まで飲み歩く輩も多く、酔っぱらいが叫び声をあげながらよく川に飛び込んでいる。屋台も遅くまでやっていて、寿司や蕎麦、てんぷらなんかも食べることができるのだ(そのせいでぼやも多く、火消したちの声も町に響き渡っている)。
寝間着姿のつるは、小西の話を聞くと目を大きく見開いた。何度も黙って頷いていたが、その目がみるみる涙でいっぱいになっていく。
「外に籠を待たせてある。一緒に麹をつくろう」
小西がそういうと、「ありがとうございます……」それだけ言って、身支度を整えるために奥の部屋へと消えていった。
「……ったく、鼻につくやろうだな。かっこつけやがって」
その様子を見ていた幸民は、荒っぽく酒を煽っていたのだが……
(幸民の口元、あれは絶対に笑っていたな。全く素直じゃない奴だ)
籠に揺られながら、小西は迎えに行った時のことを思い出す。多少の危険はあるにせよ、やはりつるを連れ出してよかった。そう思いながらつるの籠が走っている後方をちらりと振り返る。
すると突然籠が止まった。
「……どうした?」
酒蔵に到着するには早すぎる。嫌な予感がして、小西は全身の神経を張り詰め身構えた。次の瞬間どさりと何かが倒れる音と共に、籠が地面へと叩きつけられる。
「つる!!!」
小西は籠から転がり出ると、周囲を確認するより先に後方の籠へと走った。担ぎ手たちのぽかんとした顔が目に入る。状況が理解できていないのであろう、でもそれは小西も同じだった。
しかし確実にいまこの瞬間、自分たちが何者かに狙われているということはわかった。
籠の垂を開けると、そこには真っ青な顔をしたつるがいた。ガタガタ震えるその肩を掴んで「大丈夫だ」とだけ伝えると、小西はつるを守るようにして籠の前に立った。
周囲は真っ暗闇。下の町を抜けたあたりなのだろう。遠くで虫の声だけが小さく聞こえる。何物かがいるはずなのに、周囲に気配を感じることができない。それは見えない刃物を喉元に突き付けられているような恐ろしさだった。
「小西様、これは一体……」
担ぎ手たちの声も震えているのがわかる。
「ワシにもわからん。しかし狙われているのは確か。警戒しろ」
暗闇に目が慣れてくると、自分の乗っていた籠の様子がぼんやりと見えてきた。担ぎ手の二人は……目を凝らすと、籠にもたれかかるようにして人が倒れているのが見えた。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。







