【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 123~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ拾漆
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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びりびりと張り詰めた空気の中で、小西は歯を食いしばるようにして息を吐き出した。
「お前たちの目的はなんだ。金か。命か」
暗闇をこれほどまでに憎いと思ったことはなかった。腹に力を込め、得体のしれない誰かに言葉を投げる。
「ワシが誰かわかっての所業か?ワシを殺せば、何百、何千という商人たちが黙ってはおらんぞ」
一瞬の静寂の後、ひっひっひっ……という気味の悪い笑い声が聞こえてきた。
「それは堺でのことかと……ここは下の町。ひっひっひっ……」
ぬらりと耳障りな声。姿は見えずとも、その忌々しい風貌は透けて見えるようだった。
「その籠には『死んだ人』が乗っていると聞きましてね……」
小西は瞬時に状況を理解し、籠の前で姿勢低く身構える。
(こいつらの狙いはつるか!)
「『死んだ人』は、きちんと『死ぬべき』だと思いませんか?そうしないと世の中おかしくなってしまいます。死んだのに生きている、ひっひっひっ……寄席にでもこんなおかしな話はありませんよ……ひっひっひっ」
おかしそうに笑う男の後ろで、複数人の男が刀を抜いた音が聞こえた。
殺意は見えるものだ。
剣先から発せられる「それ」は、たしかにまっすぐにこちらに向かっていた。全身の皮膚が粟立ち、指先が冷たく凍っていく。
(一体どうすれば……)
緊迫の状況はどれくらい続いたのだろうか。5秒、10秒、いやひょっとしたら1秒にも満たなかったのかもしれない。
動いたのは担ぎ手の男たちだった。「ひぃぃぃぃぃ」と叫び、這うようにして逃げ出す。それが合図かのように、複数の男たちが暗闇から飛び出してきた。逃げる背中に向かって刃を大きく振りかぶる。その瞬間、つるは籠から飛び出した。
「やめて!わたしが狙いなのでしょう!」
それは一瞬の出来事だった。「しまった」と思った時にはつるは小西の目の前にいて、その手を大きく広げていた。男たちの視線がつるに向き、振りかぶった刃がぎらりとこちらに向く。
「やめろーーーーーーーーー!」
なぜつるを連れてくることに同意してしまったのか、なぜ尾行されていることに気づけなかったのか、なぜこの時間、この道を選んでしまったのか
小西は必死で手を伸ばしたが、虚しくもそれはつるには届かなかった。すべてがスローモーションのように見えるのに、自分の身体も同じように重く動かない。ずぶずぶと水の中で溺れているような感覚の中で、後悔だけが激しく流れ続けていた。
どさり
目の前でゆっくりと人が倒れていく。
「……つる!!!」
小西が這うように近づくと、しかしそれはつるではなかった。髷を振り乱し、両の手を広げたつるは、びっくりした表情で自分の横に立っている。
どさり どさり
「ぐうぅ」とか「ぎえぇ」といった叫び声の後、次々と人が倒れる音が続く。
「一体なにが……!」
状況を全く理解できず、唖然として暗闇を見つめていると、「うわ~よかった。危ないところだったね!」と見知った顔が現れた。
ここで、こんな時間に、絶対に会うはずのない人物。
「ねね!?なぜここに!」
そこにいたのは、女船長のねねと甚五平だった。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。







