【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 110~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ肆
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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「一体どういうことだ……?」
喜兵寿は清吉の急変ぶりの理由がまったくわからなかった。つい先日快く了承してくれたばかりではないか。喜兵寿は再び宮田屋の扉を叩く。
「おい、清吉!どういうことだ?何があった」
しかし何度扉を叩いたところで、中からはなんの反応もなかった。先ほどの清吉の暗い表情が脳裏をよぎる。一体何があったというのだ。
「おい!言いたいことがあるなら言えよ!」
次第に大きくなる声に、通りを歩く町の人間が「何ごとか」と集まってくる。
「おい喜兵寿、それくらいにしておけ。まるで借金の取り立てみたいだぞ」
直の言葉にハッとあたりを見渡せば、周囲には小さな人だかりができていた。好奇の目とひそひそ話が洩れ聞こえてくる。
騒ぎを起こせば同心を呼ばれる。いま村岡にいちゃもんをつけられることだけは絶対に避けたかった。
「……行くぞ」
喜兵寿は直の手を引くと、足早にその場を後にした。
「喜兵寿、お前記憶ないだけでなんかしたんじゃないか?めっちゃ嫌がってたじゃん」
「お前じゃあるまいし、んなわけあるか!」
「じゃあ誰かと入れ替わっちゃった~とかか?なんにせよ、あの蔵じゃビール醸造は無理だろうな。他に頼めそうなとこ、あったりするのか?」
清吉の態度は明らかにおかしいものだった。しかし話を聞くことができないのであれば、これ以上どうすることもできない。
「……そうだな。他の蔵をあたってみよう。心当たりはいくつかある」
そのまま酒蔵に交渉に向かった喜兵寿と直だったが、どこに行っても「帰ってくれ!!!」
と追い返された。中には無視され、全く対応してくれない蔵さえあった。
「おい~喜兵寿。やばい嫌われてんじゃん。やっぱ自分の記憶のないところでなんかしてるだろ」
3件目の酒蔵に門前払いをくらったとき、喜兵寿は事の異常さに気づいた。能天気にカラカラ笑う直を殴ると、煙管に火をつける。
いままで訪れた酒蔵とは、決して関係性の悪い間柄ではない。むしろ柳やで定期的に酒を仕入れたり、一緒に飲みに行ったりと懇意にしていた。それが皆一様に手のひらを返したように「帰れ」と言ってくるのだ。
「……これは裏でだれかが動いている可能性があるな」
喜兵寿は煙を吐き出しすと、直に小さく耳打ちをした。
「どういうことだ?」
大きな声で聞き返す直の口をふさぐと、喜兵寿は再度耳打ちをした。
「声を落とせ。誰かが聞いている可能性がある」
「は?誰かって誰だ?」
「俺たちにびいるを造らせたくない奴だよ。心当たりがあるだろ。俺たちを座敷牢に入れたいやつ」
喜兵寿の言葉に、直は「ああ!あいつか」と頷く。
「どこかで俺たちの動きを知って、下の町の酒蔵に圧力をかけている可能性がある」
「げ、まじか。こわ」
「今もどこかで俺たちの話を聞いている可能性もある。聞かれたくないことは口をつぐめ」
「やば。ストーカーかよ。おっけ、つるの話は絶対に……」
いった矢先に口をすべらせた直の後頭部を思いっきり殴ると、喜兵寿は素早く周囲に目を走らせた。パッと見怪しそうな人物はいないが、誰が動いているかわからない今、つるの話は絶対に知られたくない。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。







