山椒が切り開く、ランビックの新境地——ウナギとのペアリングが最強すぎた【JBJAChannel】
ビールに愛された皆さまへ。
ベルギービールの世界において、「ランビック」は特別な存在です。
その独特の酸味、野性味、そして複雑な熟成香は、一般的なビールのイメージを大きく覆します。
そして今、その伝統的なランビックに、日本の“山椒”を掛け合わせた一本が存在しています。
ボトルを前にした瞬間から感じる、ただならぬ存在感。
その液体には、ベルギーの伝統と、日本の香り文化が共存していました。
目次
ランビックとは何か——自然が醸すベルギーの伝統
ランビックは、ベルギー・ブリュッセル南西部のパヨッテンラント地域で造られる伝統的な自然発酵ビールです。
最大の特徴は、人工培養した酵母を使わないこと。
麦汁を冷却槽に広げ、空気中に存在する野生酵母や微生物を取り込み、
「自然発酵(Spontaneous Fermentation)」を行います。
発酵には、セーヌ川流域に生息するブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母や乳酸菌が関与し、酸味と複雑な味と香りを生み出します。
そのため、ランビックには一般的なビールにはない独特の個性が現れます。
乳酸由来の柔らかな酸味。
時に漬物を思わせる発酵香。
さらに天然皮革のようなフェノリックなニュアンス。
「これがビール?」と驚きをもたらし、ワインやシードルに近い表情を持ちながら、確かに“ビール”でもある——それがランビックの魅力です。
原料には大麦麦芽と生小麦を使用。
ホップも香り付けではなく保存性向上を目的として、数年熟成させた古いホップが用いられます。
さらに木樽で長期熟成されることで、糖分はほぼ分解され、ドライで奥行きある味わいへと変化していきます。
山椒という日本の香りを、ランビックへ

そんな伝統的ランビックに、日本の山椒を取り入れたのが、ベルギーで醸造を行う日本人醸造家、今井礼欧さんです。
山椒の持つ、あの鮮烈な香り。
柑橘を思わせる爽やかさと、舌に残る軽やかな刺激。
それがランビックの酸味と出会うことで、驚くほど立体的な香味を生み出します。
単なる“和素材を加えた変わり種”ではありません。
ランビック特有の熟成感や野性味に、山椒の清涼感が差し込むことで、味わい全体が引き締まり、余韻に美しい輪郭が現れるのです。
酸味だけが突出するのではなく、山椒が香りの橋渡しとなり、飲み口に気品すら感じさせます。
日本人醸造家・今井礼欧氏という存在
今井礼欧氏は1973年横浜生まれ。
東京理科大学卒業後、キリンビールに入社しました。
その後、英国王立ヘリオット・ワット大学大学院で醸造・蒸留学を学び、ドイツ・バイエルン地方やベルギーの醸造所で経験を積みます。
そして2006年、「欧和ビール」を誕生させました。
「欧和(おうわ)」という名前には、ヨーロッパと日本をつなぐ思想が感じられます。
欧和、黒欧和をはじめ、梅・桜・柚子といった日本的素材を使ったランビックも展開。
さらに、黒欧和をワイン樽で熟成させた「黒欧和グランクリュ」など、独自性に富んだ製品も送り出しています。
これらのビールは、日本的素材を単に“加える”のではなく、ベルギービール文化の文脈の中で再構築している点が非常に興味深いのです。
ウナギと山椒ランビック——驚くほど完成されたペアリング

この山椒ランビックを飲んで強く感じたのが、「ウナギとの相性の素晴らしさ」でした。
ウナギの脂は濃厚です。
甘辛いタレも強い存在感を持っています。
しかし、そこへランビックの酸味が入ることで、口の中が見事にリセットされます。
さらに山椒の香りが加わることで、ウナギの風味が一層引き立つのです。
これはまさに、“ビールはウォッシュする”というペアリングの醍醐味。
炭酸、酸味、アルコール、そして香り。
それらが油分を洗い流し、次の一口をまた新鮮に感じさせてくれます。
特にウナギ×ランビックの組み合わせは、単なる「さっぱり」ではありません。
まるで口の中を根こそぎ洗い流すような爽快感。
それでいて、味気なくなるわけではなく、むしろ次の一口への期待感が高まっていく。
気づけば箸もグラスも止まらなくなっている——そんな体験でした。
ベルギービール文化の中で輝く、日本の感性
ベルギービールは、伝統を重んじる世界です。
だからこそ、その中で日本人醸造家が存在感を放ち、日本的素材を自然に溶け込ませていることには大きな意味があります。
山椒、梅、柚子、桜。
どれも日本人にとっては馴染み深い存在ですが、それをベルギービールという文脈で再発見させてくれるのが、今井氏のビールなのかもしれません。
食品系BtoBイベントなどで帰国することもあるという今井さん。
タイミングが合えば、日本のビアバーでご本人に会える機会もあるかもしれません。
もし見かけたなら、ぜひ一度、この山椒ランビックについて話を聞いてみてください。
その一杯の奥には、ベルギーと日本、伝統と革新、そして発酵文化そのものへの深い敬意が詰まっています。
動画でも楽しくご紹介!
是非楽しんでみて頂ければと存じます。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









