一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会

気仙沼から世界へ。BLACK TIDE BREWINGが伝えたいこと。

4月に行われた「世界に伝えたいビアカルチャー2026」にて、BLACK TIDE BREWING社長の丹治さんに宮城県の気仙沼から東京まで来て頂き、色々と話をさせて頂いた。町の様子やビールのことなどを話しているうちに、気仙沼へ行ってみたい気持ちがふつふつと湧いてきた。ネットで情報を集めるなどして機会をうかがっていたところ、5月30日にイベントがあることを知り、思い立って行ってきた。

大船渡線の旅

BLACK TIDE BREWING

東京駅から新幹線で約2時間半、一ノ関からは大船渡線に乗り換え。車両は古めのディーゼルカーだ。乗り鉄の私は思わず頬が緩む。最新型の快適な車両も良いが、油臭くてエンジン音も大きなこの車両が私は好きだ。ここから約1時間半、まずはローカル線の旅を楽しもう。

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発車して15分程すると、列車は北上川を渡る。東北最大のこの河川は、我が国の河川の中では比較的勾配が緩く、中流域のこのあたりでも流れは緩やかだ。春の雪解け水をたたえて悠々と流れる様子は、以前に訪れたことのあるドイツのライン川によく似ている。

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列車はエンジン音を轟かせながら、リズムよく走ってゆく。田んぼは田植えが終わったばかりの季節だ。整然と並ぶ苗、空を映す水面。この季節なら日本各地で見られる、ローカル線の車窓の定番だ。

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約1時間半で、終点の気仙沼駅に到着。こぢんまりとした昔ながらの駅舎だが、ファサードだけモダンなデザインで増築されている。最近の駅は都心も地方も無人化が急速に進んでいるが、この駅はきっぷうりばの窓口もあり、コンビニも併設されている。沿岸部を走るBRT(※)のターミナルともなっており、それなりの活気を感じられた。

※BRT・・・バス・ラピッド・トランジット(Bus Rapid Transit)の略。バス高速輸送システムとも呼ばれる。東日本大震災で被災した宮城県北部~岩手県南部の太平洋沿岸の鉄道は、線路跡地をバス専用道として整備。JR東日本が、鉄道と連携した運行体系でローカル輸送を担っている。

気仙沼の街を歩く

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気仙沼駅は市街地の中心部からはだいぶ離れている。バスを利用することもできるが、散歩には絶好の気候なので、街の様子を眺めながらのんびりと歩いてゆく。

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30分程歩いて、気仙沼漁港に到着。日本有数の漁港であるここには、たくさんの船がずらりと並んで停泊しており、圧巻である。

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さらに少し歩くと、魚市場の大きな建物がある。土曜日の昼とあって、人気はまばらだ。

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見学コースが整備されていて、自由に入ることができるようになっている。岸壁に沿って広がる荷捌場は、はるか先の端まで見渡せない程である。今度はぜひ、たくさんの新鮮な魚が揚がってくるであろう、活気のある時間に来てみたい。

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魚市場の近くには、「海の市」という観光客向けの商業施設があり、レストランや土産物店が充実している。また、気仙沼はサメが多く揚がる漁港としても有名だが、サメの博物館「シャークミュージアム」もある。ただ、歩いて訪れる人はほとんどなく、クルマでの観光客が主力だ。バスの便も多くはないので、この町の観光目的だけなら自家用車やレンタカーなどでの移動が現実的だろう。

KESENNUMA BEER FESTIVAL

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さて、いよいよ今回の旅のメインの目的である、KESENNUMA BEER FESTIVALの会場である南町海岸公園へ。このエリアは内湾地区と言って、気仙沼湾の最深部に位置する。今回のイベントの会場となっているこの公園の周辺には、複数の飲食店、ラジオ局、遊覧船の発着所などが集まっている。BLACK TIDE BREWINGのタップルームと醸造所も、この中にある。

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このイベントはチケット制となっており、4枚つづりが1000円、10枚つづりが2000円。迷うことなく10枚つづりのチケットを購入する。

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ビールはBLACK TIDE BREWINGの1社のみである。気仙沼のローカルイベントとして潔いではないか。6液種あるので、飲み比べを楽しむにも十分である。かつて飲食店を経営していた私は、店やイベントを訪れる度にビジネス的な視点も気になってしまうのだが、地域に密着したこの規模のイベントでは、賢明な方法だと思う。

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ビールはチケット3枚で引き換え、量は270ml。飲み比べを楽しむには、多すぎないのがありがたい。スタートの1杯は、今回のイベントのためにリリースされた「Full Power」。アルコール4%と軽めのヘイジーIPAだ。このスタイルはアルコール高めのものが多いが、天気のいい日中、屋外のイベントをゆっくり楽しむための1杯目には、このくらいがちょうど良い。アルコール低めながらボディもしっかりして、飲みやすさも飲みごたえも満足できるビールである。

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ここでBLACK TIDE BREWING社長の丹治和也さんを発見!ご挨拶がてら、お話を伺う。
「2020年に醸造を開始して、このイベントは2022年から開催している。とにかく気仙沼を盛り上げたいとの思いでビールを造っているので、皆さんに楽しんでもらえるのが何より。」

会場には、BLACK TIDE BREWINGのシャツを着た人を多く見かけた。
「やはり同じロゴが入った服を着た人を見ると、うれしくなるじゃないですか。これも皆さんに楽しんでもらえるために、グッズの販売も積極的に行っている。」

ところで、BLACK TIDE BREWINGの名前の由来は?
「三陸沖の豊かな漁場の源である、黒潮から。海の幸の豊富な気仙沼のブルワリーの名前として考えた。最初は地域の方に、津波を連想すると言われたこともあったが、やはり海の恵みあっての気仙沼の街なので。」

スキンヘッドに長いひげでコワモテの丹治さんだが、地元の子供たちは丹治さんを見ても怖がることは無いという。もはや気仙沼の有名人として、愛される存在になっているようだ。

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会場の奥へ進むと、フードエリアとテーブルエリアが広がっている。ソーセージやポテトなど定番の料理の他に、気仙沼ならではの、牡蠣やホヤなどシーフードの店も並んでいる。テーブルエリアは完全にテントで覆われていて、暑いくらいの陽気だったこの日でも、皆が快適にビールや料理を楽しんでいる様子だった。

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2杯目はIPAの「TOHOKU PRIDE Miyagi ver.」を頂く。アルコールは6%、岩手県遠野産のIBUKIを使用し、柑橘や松脂のキャラクターと、キリっとした苦み。東北の自然の中で飲むと、ひときわ美味しく感じられる。

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ステージでは音楽ライブが始まった。背景は、ありのままの海と山、そして港。これぞ港町、気仙沼。素敵すぎる。ウクレレシンガーの宮武弘さんのライブに、丹治さんが乱入!実は丹治さんはウクレレの心得もあるとのこと。家族連れで来ている子供たちも一緒になって踊ったり、なかなかの盛り上がりを見せていた。

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最後の1杯は、「NIGHT FALL」。アルコール5%のダークラガー。穏やかでモルティな味わいは、日も傾いてきた時間に自分をクールダウンさせるのに最適だ。周りを見渡してみると、少しずつ帰途につく人たちがパラパラと歩き始めている。その表情は、皆そろって、お腹も心も満たされたような、満足げな笑顔である。今までに多くのビールイベントを経験してきたが、今日の体験は特別に忘れられないものとなった。

新工場稼働開始!

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ビアフェスティバルの余韻に浸って市内のホテルに泊まった翌日は、丹治さんのご厚意で、稼働を開始したばかりのBLACK TIDE BREWINGの新工場を見学させて頂いた。昨日のイベントの公園から港をはさんで反対側、クルマで10分程の場所である。

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建物は2階建て。1階が工場、2階が事務所や会議室など。広々とした敷地の中に、非常にゆとりをもって作られている。

原材料の倉庫から仕込み、発酵・熟成、パッケージ、製品を保管する冷蔵室まで、実に機能的に作られており、大手メーカーの工場かと見まがう程である。そして、それぞれの部屋の広いこと!

工場の内外の所々に、何やら可愛いキャラが。気仙沼市観光キャラクターの「ホヤぼーや」である。
「子供たちが工場見学に来てくれた時に、楽しめるように」と丹治さんは話す。私も今まで各地の大小さまざまなビール工場を見学してきたが、この発想は無かった。

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気仙沼を訪れて、街を歩き、ビールを楽しみ、工場を見学し、丹治さんに色々と話を伺った。その中で思い出したのは、「Think Globally, Act Locally」という言葉である。地球の環境問題を考える際に、まずは自分たちにできることから始めよう、という意味だ。

BLACK TIDE BREWINGのホームページには、「気仙沼から最高のクラフトビールを日本全国、そして世界へと発信していきます。」と書かれている。漁業を通して古くから海外との交流の歴史もあるこの町で、このブルワリーは地域に溶け込み、街を盛り上げながら、日本全国、そして世界に向けて、間違いなくメッセージを発信し続けている。そのメッセージとは。ぜひ皆さん自身で気仙沼に行き、街を歩いて、タップルームなどでBLACK TIDE BREWINGのビールを飲んで、体験してみてほしい。言葉では表現できない何かを、感じられるはずだ。

(取材 5月23日・30日・31日  写真は全て筆者撮影)

BLACK TIDE BREWING
〒988-0017
宮城県気仙沼市南町3-2-5 拓(ヒラケル)内
https://blacktidebrewing.com/

Black Tide Brewingクラフトビール宮城東北気仙沼

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

津田 敏秀

ビアジャーナリスト

1972年、東京都出身。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。
外食チェーン企業に15年間勤務の後、独立。串揚げとクラフトビールの店を7年間経営。今までの経験を活かし、飲食店の経営に関する記事を得意とする。
好きなビールはケルシュ。趣味は乗り鉄。