【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 149~蔵の才人と傾奇ブルワー、時を超えた仕込み 其ノ拾弐
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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ただ「待つ」時間は、じりじりと焦げ付くようだった。朝に晩に、暇さえあれば桶の中を覗く。しかしどれだけ目を凝らしてみても、湧き出る泡は見つけることが出来なかった。
酒が出来たあとの準備は1日もあれば事足りた。必要なものを町で揃え、いつでも使えるように熱湯消毒を行う。「よし、出来ることはやった。明日は大安だから、発酵が始まるかもしれないな!」そんなことを言いながら早めに床についた1日目。
しかし2日目もただただ、半切り桶の中は静かだった。それは波1つない湖畔のようでもあり、磨き上げた鏡のようでもあって、生き物の気配を全く感じられない。酵母が下りているのか、いないのか……確認するすべがないことが本当にもどかしい。
待つしかない。その事実はみな重々わかっていた。しかし「約束の期日」という、重くのしかかるプレッシャーがあるにも関わらず、何もできないという事実に、蔵の空気は重く淀み、誰しもが徐々に神経をとがらせていく。
「あぁーーー!俺まじ“待つ”って苦手だわ!何もかも攻めでいきたいスタンスなの」
とうとう耐えられなくなった直は、2日目の夕暮れ時蔵を飛び出した。
「ちょっと出来ることがないか、町に行ってくる!夜には戻る」
後ろでつるや小西の声が聞こえていたが、振り切るように直は下の町へと繰り出した。
鐘の音が4つ、ゆっくりと鳴り響く。直は足を止めると、燃えるように真っ赤な空を見上げた。勢いあまって飛び出してきたが、どこに行こうか。とりあえず蕎麦でも食べようか。ぼんやりと歩いていると、見知った顔が向こうから歩いてくるのが見えた。
背の高い、がたいのいい男……
(つると喜兵寿の兄ちゃんだ!)
絶対に嫌われている、そう思って慌てて隠れようとするも、源蔵は直に全く気付かぬ様子で通り過ぎていった。
「ふぅ。セーフ!」
それにしても恐ろしい顔をして歩いていた。直はすれ違った瞬間の源蔵を思い出す。真っ白な顔に、落ちくぼんだ目。そして声はしないのに、唇はずっと動き続けていた。きっちりと厳格なイメージだっただけに、異様さが更に際立つ。
「……兄ちゃん大丈夫か?え、自殺とかしないよな」
直は自分の言葉に自分で慄き、源蔵の後を追うことにした。
しばらく歩いて着いた先、そこは小伝馬の牢屋敷だった。源蔵は裏手へと回ると、高い壁に手を当てて俯いていたが、しばらくすると身を丸めるようにして泣き出した。大きな身体が、波打つように揺れる。
つるの打ち首の知らせは、当然家族である源蔵のもとに届いただろう。それに加え、喜兵寿も幽閉された。源蔵の絶望や悲しみを想像すると、吐きそうだった。
(でも本当はつるは生きているし、喜兵寿も俺たちが必ず助け出すから)
直は意を決し、ゆっくりと源蔵のもとへと向かった。事実を伝えよう。そう思って口を開こうとした瞬間、源蔵はこちらに気づいた。驚いたように目を見開いたかと思うと、その目はすぐに鋭く細まり、唇が怒りに歪んだ。
「お前だろう!お前が柳やにやってきたから、こんなおかしなことになったんだろう!」
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









