【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 138~蔵の才人と傾奇ブルワー、時を超えた仕込み 其ノ一
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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翌朝。高窓から差し込む朝日に、直は瞼をゆっくりと開いた。何時だろうか、遠くに聞こえる鐘の音をぼんやりと数える。
さぁ、いよいよビールの醸造だ。勢いよく起き上がると、身支度を整えるために手洗い場へと向かった。冷水で顔を洗い、だいぶ伸びてしまった髪をひとつに結う。昼間はまだ暑さが残るとはいえ、朝の空気はキリっと引き締まるようだった。
「よっしゃ」
どれだけ回数を重ねても、仕込みの朝は少し緊張するものだ。でもそれが堪らなく楽しかった。ビールは生き物。ほんの少しの違いでその味は大きく変わってくる。
台所に行くと、既に喜兵寿とつるがいた。ふたりとも布巾片手に拭き掃除をしている。
「おはよう!ふたりとも起きてたのか」
「もちろんだ。寝坊常習犯の直にしては早いな。もう少ししたら起こしに行こうと思っていたが、まさか自分で起きてくるとは」
喜兵寿も高揚しているのだろう。普段は見せないような、満面の笑みをこちらに向けてくる。
「小西様は金ちゃんの部屋にいる。大方麹の話だろう。とりあえず何が必要かわからなかったから、釜に湯だけ沸かしてある。米麹も先ほど確認したが、完璧な状態だ」
直が口を開く前に、喜兵寿はつらつらと状況を報告してくれる。そんな喜兵寿の横から、つるも上機嫌で顔覗かせた。よく眠れたのだろう、その顔からは疲れがすっかりと抜けていた。
「朝ごはんにおにぎりも用意してあるよ。金ちゃんがおいしい鰹節くれたの。ぶすっとした表情のまま、無言で渡してきてね。ふふ、あの人なんだかんだいい人だよね」
朝の澄んだ空気の中で、喜兵寿とつるの声が賑やかに弾ける。直は「おうおう、最高にいい感じだな!」そう呟きながら、目を閉じジャンプをはじめた。
丁寧に拭きしめられた木のにおい、立ち上る湯気の感覚、かすかに感じる醤油と鰹節の香ばしい香り、そしてゆらゆらと広がる期待と高揚……
意識の中で蔵の中のすべてを丁寧に触っていき、ひとつに落とし込む。ビール造りの基本を整理し、それをベースに未知の場所と原材料で造る一杯を明確につなげていく。
「おしっ!イメージできた」
直は目を開けると、自分の頬を一度強く叩いた。
「朝飯をくったら、早速醸造開始しようぜ!最強のビールができる気しかしない!」
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









