【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 134~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ弐拾捌
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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日がゆっくりと傾き始めるころ。ついに甘酒は出来上がった。柄杓ですくうと、さらさらと流れる。それは少し灰色がかった白で、高窓から差し込む夕日を受け、キラキラと輝いて見えた。
「さあ、飲んでみて頂戴!」
つるの声に皆は顔をあげる。甘酒の出来上がりに備え、直はホップのチェックを、喜兵寿と小西は座ったまま仮眠をとっていた。
「おお、つるお疲れ!ついに完成か」
直は湯飲みを受け取ると、目を輝かせながら中をのぞき込んだ。
「確かにさっきと全然違うな」
口に含むとその違いがより明確にわかった。米はもうその形状はとどめてはおらず、喉に向かってさらりと流れ込む。でもその甘みは先程のものよりも確実に強くなっているのがわかる。
「すげえ……」
思わず驚きの言葉が漏れる。つるがこの数時間していたことといえば、桶の温度を一定に保っていてことのみ。それでこれだけ変化が起こるのだ。
詳しいことはわからないが、きっと麹菌によって分解が進んだ結果なのだろう。つまりは米のでんぷんが糖に変わったということ。これであれば、麦芽を用いて造る麦汁に十分匹敵しそうだ。
いける。
頭の中でぼんやりと出来上がっていたビールが、一気に現実味を帯びてくる。直は興奮で肌が泡立つのを感じた。
「つる!この甘酒めっちゃいいな!これならビールの“土台”になれる!」
直の言葉につるは「……そう?ならいいけど」と、はにかんだ笑顔を浮かべた。
「確かによくできているな。つるは甘酒屋としても大成しそうだ」
喜兵寿も小西も、甘酒を味わいながら頷く。その様子を見て、「だよな!」と直は興奮気味に続けた。
「麦汁ってさ、あ、この甘酒が麦汁の代わりになるんだけど、いわば出汁みたいなもんなんだよ。ほら、出汁がまずかったら蕎麦もうどんもうまくはならないだろ?逆に出汁がうまけりゃ、ほんのちょっとの塩や醤油で絶品になる」
どれだけこの甘酒が大切か、直は皆に伝えたかった。手間暇かけて米を麹にし、それをまた時間をかけて甘酒にする。右往左往している時には見えなかったものが舌でしっかりと理解できた今、改めて丁寧な仕事への尊敬の念が溢れ出てくる。
「つまり今ここには最高の出汁があるってわけだ。この甘酒があれば、絶対にうまいビールができる!つるも喜兵寿も、にっしーもまじですげえよ!」
直の言葉はド直球だ。裏も表もない、思ったことがそのまま口から出てくる。そのことを知っているだけに、皆は嬉しそうに頬を緩めた。
「なるほどな……日本酒造りにおいても甘酒のような液体は造るのだが、びいるも同じなのか。色も香りも味わいも、すべて異なるものでも共通点があるとは面白いな」
喜兵寿はまじまじと甘酒を見つめた。あまりの違いに日本酒と同じものだと到底思えていなかったが、びいるのことが、なんとなくだがわかってきたような気がする。
しかしいくら考えても、あの日衝撃を受けた、飛び跳ねる様な液体を生み出す方法だけはさっぱりわからず仕舞で、だからこそここからどう醸造していくのかが楽しみで仕方なかった。
「さあ、ここからは楽しいビール造りの時間だ!前回は失敗したけど、今回こそは絶対いけるぞ」
「いよいよか……!まずは何から始める?」
直と喜兵寿が盛り上がっていると、その間に小西がそっと入ってきた。
「その前に少し休憩しないか?つるは火の番をしていて寝ていないだろう?かといって、少し休めといっても我々がびいるの醸造をしていたのでは、眠るに眠れないはずだ」
2人はつるを振り返る。「え、わたし全然平気だよ」と笑ってはいるものの、確かにその顔からは疲れがにじみ出ている。
「それにこの後の工程は、喜兵寿もワシも知らない部分。出来ることならしっかり休んで手や舌、鼻の感覚を一番いい状態に戻しておきたい。もしも、麹造りのように“寝ずの番”が必要なら話は別だが……」
小西は問うように直を見つめた。
この後の工程は甘酒を一度濾過しボイル。そしてホップを投入するという流れだ。一刻を争うわけではないので、確かにここで一度休憩するのもありかもしれない。
直はむむむっと考え込んだ。しかし盛り上がっている気持ち的には、今すぐにでも作業に取り掛かりたいわけで……
「どうだ、うまいものをたらふく食って酒でも飲んで、一度布団で眠ってから作業にかかるというのは」
「酒!」
小西の言葉に、直はぴょんっと飛び跳ねた。
「確かに。確かにそうだな。にっしーの言う通りだ。万全の体調でこそ、うまい酒は造れる!その提案乗った!」
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
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