【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 133~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ弐拾
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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「一口飲んでもいいか?」
「……まったく」
目を輝かせ、いまにも涎を垂らしそうな直を後ろに下げると、喜兵寿は柄杓で甘酒を注いだ。
「お前がぐーすか寝ている間に、俺たちが丹精込めてつくった甘酒だ。味わって飲めよ」
「はいはい、寝ちゃってごめんなさいね。でも休めって言ったの喜兵寿だからな!ではっ!いただきます!」
口に含むとまろやかな、でも存在感のある甘みが広がった。とろりとした液体になっているが、そこにはまだ米が形として存在している。それは舌で押しつぶせばふにゃりと消えるほどの柔らかさで、どろどろのお粥を連想させた。
「これは飲むっていうより、食べるっていう方がしっくりくるかもな」
口をもぐもぐと動かしながら直がいう。
「もう少し時間を置けば、もっとさらっとするぞ」
どんな甘酒が好きか。それは下の町の町民の間でしばしば話題になることだった。「米がしっかり感じられる方がいい派」と「さらっと飲みたい派」。甘酒は夏の飲み物であるが故に、「さらっと飲みたい派」の方が多数派ではあったが、やはり噛みしめてなんぼ、という甘酒も根強く人気があった。
「もしくは……」喜兵寿はしゃべりながら、道具入れから布を取り出す。
「こういった酒袋とか、すりこぎ、布巾などで濾したり潰したりする方法もある」
「なるほどなぁ」
これから醸造しようとしているビールにおいて、甘酒は麦汁にあたる。糖化が終わった麦汁も、ろ過して完成となるわけで、この甘酒ももう少しの糖化(と呼んでいいのかわからないが)濾過作業をすることでビールのベースにすることができそうだ。
「よし、見えた!もう少しさらさらになったら、濾そう」
直は一人頷きながら、残った甘酒を喉に流し込んだ。自動販売機の甘酒とは違う、自然な甘さ。それは米の持っているポテンシャルを最大限に引き出したかのような糖度で、するすると身体に馴染んでいくようだった。
「……もう少しさらさになったら、って簡単に言うけどね!まだだいぶ時間かかるんだからね。その間火を管理するのがだれかも忘れないでよね!」
つるがぶーっと頬を膨らませながらいう。
「麹も甘酒も温度管理が命。ぐーすか寝て待てばいいってわけじゃないんだからね」
見ればつるの目の下には大きなクマが出来ていた。顔を半分布で覆っているので、窪みがより一層目立って見える。
「わかってるって。火の番は俺が変わるからさ、ちょっと寝て来いよ」
直が火吹竹を受け取ろうと手を出すも、つるはそれを身体ぎゅっと抱きしめるように隠した。
「……直、火吹竹使えるの?」
「ふーふーすればいいんだろ?!ま、なんとかなるって。ほら喜兵寿もにっしーもいるしさ」
しかしつるは火吹竹をしっかりと握りしめたまま離さない。
「いい。火の番はわたしが命じられたわけだし。わたしがやる」
「でもだいぶ疲れてないか?」
直の言葉につるは「いいの!大丈夫だから!」と声を張った。落ちくぼんで見えた目は、既にぎらぎらした光を灯している。
「この甘酒はここまでわたしが育てたの!最後までわたしが責任を持つ。寝てなんていられるわけないじゃない」
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









