【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 132~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ弐拾陸
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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つるは「任せてよね!」と大きく頷くと、火吹竹を片手に竈の前に陣取った。
「なるほどなぁ。沸かした湯を追加していって、保温温度を一定にするわけか。それで?どのくらいで甘酒はできるんだ?」
直は桶を見ながらいう。
「そうだな……今は朝だから、夕暮れくらいにはしっかりと甘さがでるだろうよ」
「はあ?夕暮れ?!」
喜兵寿の回答に、直は素っ頓狂な声を上げる。
「つまり10時間くらい、ここに張り付いて湯の温度調整をしなきゃいけないってことか?!」
「まあ、そういうものだからな」
「まじかぁぁぁ」
直は大きなため息をついた。甘酒をつくったことはないが、温度を一定に保つ機械がある現代ではもっと簡単に作れるに違いない。
麹からの甘酒づくり。ろくに眠らずに走ってきたが故に、すでにもう身体は疲労困憊だ。直はへなへなと膝から崩れ落ちた。
「まったく、お前は根性がないな」
喜兵寿はあきれ顔でため息をつくと、直に握り飯を手渡した。
「ほら、もっと食え。どうせ酒ばっかり飲んで、今までろくすっぽ飯を食ってこなかったんだろう。そして食ったら奥の部屋で休め」
「うぃ」
そういえば「江戸の人々は驚異的な体力を持っていた」とどこかで聞いたことがある。炭水化物がメインで、肉や魚はあまり食べていなかったにも関わらず、だ。
(そういえば飛脚も大阪まで3日で駆け抜けるって言っていたよな……)
改めて思い出して、ぞっとする。そうだ、ここにいる奴らはみんな体力おばけなのだ。根性がないと言われようが、付き合っていたらぶっ倒れてしまう。
「よし!じゃ、休むわ!」
直は握り飯を口いっぱいに突っ込むと、ひと眠りするために潔く奥の部屋へと向かった。
――
どのくらい眠ったのだろうか。床に就くなり意識を失うように眠ってしまった。随分長いこと眠っていたような気もするし、一瞬だった気もする。でもぱちりと目が覚めた時には、身体はびっくりするほどに軽くなっていた。
「ひさしぶりにゆっくり寝た気がするなぁ」
伸びをしながら竈に向かうと、喜兵寿、小西、つるが握り飯を食べながら談笑していた。
「あれ、まだ食べてるのか。ってことはやっぱり寝たの一瞬ってことだよな。でもめちゃ疲れとれたわ~」
のんびりあくびをしている直に、「何寝ぼけたことを言ってるんだ」と喜兵寿が突っ込みを入れる。
「お前が眠ったのは朝餉の時刻だろう?いまは遅い昼餉。ゆうに半日は眠ってるぞ」
なるほどどうりで身体が楽になったわけだ。薄暗い蔵の中では時間の経過がよくわからない。
「おお、そうか。ありがとうな!眠ってすっかり復活したぜ。それで甘酒ちゃんはどうなってるかな~っと」
あきれ顔の喜兵寿を横目に、直は桶をのぞき込む。
するとふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。見れば蒸し米は白っぽい、少しとろみのある液体に変化している。
「すげえ!甘酒じゃん!え、めっちゃ甘酒になってるじゃん!」
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









