【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 112~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ陸
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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「困っているってことがお金で解決できるってなったら、たくさんお金出してくれるかもしれないじゃない♡」
金ちゃんの率直な言葉に、喜兵寿はあんぐりを口を開け、直は思いっきり吹き出した。
「あははは!おれ、お前のこと嫌いじゃないわ。何を考えてるかわかんないやつより、よっぽど信用できる!」
「あら~ありがとう♡」
金ちゃんは大きな身体をくねくねと揺らすと、嬉しそうに笑う。
「お金は裏切らないからね~お金さえ出してくれれば、わたしも裏切らないわよ~♡」
喜兵寿は酒蔵の中をぐるりと見渡した。清潔で十分な広さのある蔵だ。ここには酒造りに必要な道具がすべて揃っている。それに……
喜兵寿はくんっと匂いを嗅ぐ。「元麹や」と言っていたが、恐らくここでまだ麹を作っているのだろう。ほんの少しだが、種麹独特のにおいがする。
麹は日本酒造りには絶対欠かせないものだ。もしそれを村岡たちが知っているのだとすれば……喜兵寿や最悪の状況を想像し、身震いした。
俺たちに酒を造らせないようにするため、下の町中の酒蔵に根回しするような奴らだ。既に麹やにも同じことをしている可能性がある。そうなれば、日本酒びいる造りは本当に絶望的になってしまう。
(しかしここで酒造りをするのであれば、酒蔵と麹の両方が手に入るだろう……多少の額はのむ……か……)
喜兵寿は小さくため息をつくと言った。
「それで、こちらはいくら用意すればいい?」
喜兵寿の言葉に、金ちゃんは顔をぱあっと輝かせた。
「うふふ。そうねえ……」
金ちゃんはにっこり笑うと、指を3本立てた。
「300両で♡」
「300両!?!?」
その言葉に、喜兵寿は素っ頓狂な声をあげる。ここ数年金の価値が下がってきているとはいえ、法外な価格だ。
「そんな大金払えるわけないだろ!何考えてるんだ!足元を見るのもいい加減にしろ!」
しかし金ちゃんはにこにこほほ笑んだまま、3本の指を横に振っているだけだ。
「なあなあ、300両っていくらだ?高いのか?」
横から口を挟んでくる直を押しのけ、喜兵寿は金ちゃんに詰め寄る。
「だいたいひと月酒蔵を借りるだけだぞ?それも全部貸してくれなど、一言もいっていない。ほんの片隅でいいんだ」
「なあなあ、300両だと酒何杯飲める?」
「俺たちが醸造している間も、もちろん普通に酒造りをしてくれて構わない。なあ、そう考えたらその金額はどう考えても吹っ掛けすぎだろ」
「なあなあ、300両で馬とか買えちゃう?」
「うるさい!」
喜兵寿は直の頭をひっぱたいた。
「馬は数頭買えるし、酒は死ぬほど飲めるわ!」
「あはは!変な二人ねえ~」
2人のやりとり見て、金ちゃんは声を立てて笑った。
「そうよ~300両は大金。でもびた一文まけない。こっちだって危ない橋を渡るわけだしね。じゃ、いいお返事お待ちしてるわね」
それだけ言うと、くるりと踵を返し店の奥へと消えてしまった。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。







