【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 131~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ弐拾伍
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

前回のお話はこちら
第一話はこちら
ねねと甚五平は握り飯を食べると、皆に挨拶をし港へと向かって行った。
「今回は嵐が来ないといいよな」
竈の前で握り飯にかぶりつきながら、直が言う。喜兵寿が握った飯はやっぱりうまかった。塩加減が絶妙なのか、握り方がうまいのか。よくわからないが、これであれば何個でも食べられそうだ。
「そうだな。でもねねは腕のいい船頭だ。よく風を読む。きっと大丈夫だろうよ」
小西は握り飯を食べ終わると、「それにしても」と竈におかれた蒸し米を振り返った。
「喜兵寿は本当に腕がいいのだな。この握り飯にしろ、蒸し米にしろ『ここだ』という加減をよくわかっている」
小西は蒸し米を一つまみ、口の中に入れる。
「蒸し米は『外硬内軟』といって、外は硬めで中は柔らかい状態が一番好ましい。でもな、わかっていたって実際には思うようにはいかないもんだ」
「ふうん」
直も真似して蒸し米を口にし、舌でその堅さを味わう。しかし普段米の硬さをなど意識しないため、そんなもんかな?という感覚しかなかった。
「喜兵寿は舌もいいが、勘もまたいいのだろう。米麹をつくっている時もまた、何かの声を聞いているかのように、意識を集中していた」
「なんだよにっしー。めっちゃ喜兵寿のこと推すじゃん!」
「そうだな。ワシも自分の感覚を何より信じている人間。喜兵寿の造る酒はさぞかし旨かろう」
2人が話していると、喜兵寿が麹室から出てきた。後から着いてきたのは布で顔を覆ったつるだ。もしも誰かが入ってきたら……そんな場合に備え、誰だかわからないようにしているのだろう。
「さあ、米麹はできた。ここからは甘酒をつくるぞ」
喜兵寿は棚をがさがさと漁ると、2つの桶を用意した。大きな桶の中に小さな桶を置き、沸かしておいた湯を張る。もうもうと湯気が立ち上る中、おもむろに手を差し込む。
「ひとつ、ふたつ、みっつ……」
「おお!必殺、手の感覚で温度わかっちゃうってやつ!」
「いつつ、むっつ、ななつ」
喜兵寿はゆっくりと桶から手を抜く。
「うん、ちょうどいい温度だ」
今度は小さな桶の中に蒸し米と米麹をいれていく。
「へぇ、甘酒ってこうやってつくるのか。俺、自動販売機に入ってる甘酒か、初詣の時に配ってる甘酒しか飲んだことなかったわ」
直のおかしな発言にすっかり慣れた喜兵寿は、「そうか」とだけ呟き、作業を続けていく。
「うまい甘酒をつくるには、湯の温度を保つことが大切だ。甘酒ができるまで、この湯の温度を一定にする。つる、湯を沸かし続けてくれ」
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









