【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 135~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ弐拾玖
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

前回のお話はこちら
第一話はこちら
その晩、小西の馴染みの茶屋から出前した料理が、ずらりと並んだ。はぜの天ぷらにかますの塩焼き、茄子の揚げびたしに焼き銀杏……旬の素材をふんだんに使った豪華な料理に思わず歓声が上がる。
出前をすることで目立ってしまうのではないか、こちらを狙っているものに蔵の内部を見られてしまうのではないか。そんな懸念の声があがったものの、タイミングよくやってきた金ちゃんの「そんなんわたしが全部頼んだことにすればいいでしょ~あんたたちはこそこそ隠れていなさい♡」の一声で、お取り寄せ宴会は実行された。
一緒に取り寄せた酒は「ひやおろし」。まろやかでコクあるその味わいは、料理の旨味をぴたりと包み込み、染み込むように身体の中を満たしていった。
「いつの間にかひやおろしの時期になっていたのだな……」
お猪口をまじまじと見つめながら、喜兵寿が呟く。ひやおろしは冬に仕込んだ新酒を夏の間熟成、ちょうどよく熟した秋口に飲む日本酒だ。
いうなれば秋の風物詩。柳やでは、毎年ひやおろしの時期に合わせて様々なつまみを用意していた。
「いろいろありすぎて、季節が変わったことなんて全然気づかなかったね」
つるが遠くを見つめながら、酒をくいっと飲み干す。
「今年はお店閉めちゃってるからね~!うちのお客さんたちひやおろしだ!祭りだ!なんてすぐ騒ぐから、他で出禁くらってないといいけど」
「本当にな」
喜兵寿はおかしそうに笑いながら言った。
「いろいろ方が付いたら、改めてひやおろしを出すか。出来上がったびいるも皆に飲ませてやりたいな」
「ねぇ?あんたたちがよく口にする『びいる』って一体なんなの~?」
黙って酒を飲んでいた金ちゃんが、突然口を開く。皆は驚いた顔で金ちゃんを、そして互いの顔を見つめた。
「あれ?!えっと……あれ?金ちゃん知らなかったんだっけ……?」
直の言葉に、「そんなん、知るわけないでしょう~♡」と金ちゃんはけらけら笑う。
「まぁわたしはお金さえもらえば、別にどうでもいい主義なわけだけど~♡さすがに物騒すぎるでしょう?あんたたち一体何をやろうとしているの?」
金ちゃんは静かにお猪口を置く。くねくねした話し方が一変、低くまじめな声になる。
「びいる、とやらのせいで追われているんでしょう?町中の蔵から追い出されて、夜中に輩に襲われて。それにそこのあんたは、本当は死んだことになっている」
金ちゃんににっこり笑いかけられたつるは、身体を震わせ慌てて顔を隠した。
「あはは~♡別にびくびくしなくても大丈夫よ~わたしはあんたたちの敵じゃないから……っていって味方でもないけどね」
喜兵寿と直は、つるを守ろうと咄嗟に立ち上がった。
「だから~そんな怖い顔しないでってぇ~♡わたしは300両分はちゃんとやるから。でもそれはあくまでも蔵を貸すって分だからね。ことによっては追加代金をいただくことになるかもしれないけどぉ~」
金ちゃんは猫のように目を細めると、日本酒を一気に飲み干す。
「そのお嬢さんは高く売れそうだしぃ?」
「ふざけんな!」
喜兵寿が殴りかかろうとするのと、「やめんか!」と小西が一喝するのは同時だった。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









