【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 148~蔵の才人と傾奇ブルワー、時を超えた仕込み 其ノ拾壱
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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夜遅く、直と幸民は酒蔵へと戻った。怒りに震え、土色の顔をした二人を見て、金ちゃんが「ちょっと!あんたたち一体どうしたの~?!」と素っ頓狂な声を上げる。その声に、眠っていたであろう小西やつるも「なんだ、どうした」と集まってきた。
「……喜兵寿が捕まった」
話し出した直の声は、震えていた。
「喜兵寿は今、小伝馬町の座敷牢だ。ビールを……ビールをあと15日で完成させなければ、喜兵寿は殺される」
「ちょ……どういうこと?」
つるの顔は真っ青だった。
「なんでお兄ちゃんが?!もっと詳しく説明して!」
直の着物を掴むその手は、氷のように冷たく濡れている。
「あんな場所に……お兄ちゃんが」
口を押えて倒れ込むつるを、直は咄嗟に抱きとめた。荒く苦しそうに息をする背中が、ぜえぜえと震える。
「いま、村岡の家に行ってきた。ワシらが知っている情報について話そう」
幸民が一部始終を話している間、蔵の中は水を打ったように静かだった。「一言も聞き漏らすまい」という全員の強い意志と、「どうればいいのか」という焦燥感。それらがごちゃまぜになって、深く泥のように沈んでいく。
「……それで、15日という時間でびいるを完成させることは出来るのか?」
小西の問いに、直は首を振った。
「わからない。あとは「酒の神」、酵母が入って発酵を始めるか否かにかかってるんだ。喜兵寿も言っていたが、発酵開始は早ければ2~3日。つまり今日明日に発酵が始まる可能性もある」
「でも……」直は少し言いよどむと、苦しそうに続けた。
「遅ければ、7日程度かかることもある。発酵が始まってから更に7日で一次発酵が終わるするはずだから、それならぎりっぎり間に合うかもしれないけど、最悪なのは7日間待っても、発酵が始まらなかった場合だ。残ったその日数じゃあもう何もできない」
正直、発酵開始してから本当に7日で一次発酵が終わるのか、そしてそれでうまいビールができているのかもわからなかった。ないものだらけの中、手探りでやっているのだ。確固たるものなんて、何にもない。
直の言葉に、つるはわっと泣き出した。
「そんなの、出来ないって言ってるようなもんじゃない!!!どうして……どうしてこんなことに!」
「大丈夫、できる」そう声をかえてあげたかったが、いくら楽観的な直でもそれは出来なかった。泣きじゃくるつるを黙って見つめる。
「黒船のことは以前から聞いていた。酒は文化の程度を図るもの。対等な交渉をするため、先方の望むものはすべて用意したい、そんなところだろう。馬鹿らしい。そんなことをしてどうなるのだというのか」
小西の言葉に幸民が頷く。
「既に嫌というほど力の差を見せられている状況。湾に浮いている漁船と黒船じゃあ、熊と蟻のようなもんだ。でもお上のこと、我が国はもっと大きな船を別の湾に数百と持っている、などと言っているかもしれんな。そんな虚言も、酒を出せば真実のように聞こえる」
幸民は歯ぎしりをする。
「直、いま何か出来ることはないのか?」
「……ない」
ホップはもうすべて使ってしまった。新たな液種をつくることができない以上、今はただただ発酵を待つことしかできない。
「発酵が無事はじまった、その後のことは今から準備しておくことはできる。瓶に栓、持ち運びのためのものを用意しておこう」
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









