[コラム,ブルワー]2020.7.23

「国産ソラチエース100%使用」という夢への第一歩 ~上富良野町でソラチエースの苗の植え付け体験

北海道の中央部にある上富良野町は、ビール大麦とホップの両方を協働契約栽培する日本で唯一の土地です。そして、今や世界中の有名ブルワリーが使うホップ「ソラチエース」を1984年に生み出した土地でもあります。2019年「サッポロ SORACHI 1984」の発売で改めてその存在感を増したソラチエース。しかし現在はアメリカ産がメインで、国産の生産量はわずかです。そこで2020年、サッポロビールは国産ソラチエースの使用量アップを目指し、生産量拡大に向けた取り組みを開始しました。

そのお披露目として、7月6日、上富良野副町長も含めた関係者を迎えてソラチエースの苗の植え付け体験が行われました。

国産ソラチエースの栽培拡大が、なぜこの上富良野町で始まるのか。改めてソラチエースというホップが見直されることになったストーリーを、少し詳しく振り返ってみます。

「ソラチエース再発見」という奇跡のストーリー

サッポロビールは、原点である「開拓使麦酒醸造所」時代から、ビール原料を自社生産で取り組んできた伝統があります。それは現在「協働契約栽培」という形で、安心・安全な原料を調達できるシステムとして結実しています。

そのシステムの発信源が、上富良野町にあるサッポロビール北海道原料研究センター(以下「センター」)です。センターの創設は、「大日本麦酒」時代だった1926年(大正15年)。上富良野町の開拓開始が1897年(明治30年)ですから、町の発祥から30年も経たないころから、町の歴史に関わっていることになります。

サッポロビール北海道原料研究センター

サッポロビール北海道原料研究センター

上富良野町が選ばれた理由は、ホップの栽培に適した土地だったためです。その後ビール大麦の栽培も手掛けるようになり、そちらは上富良野町の南側「中富良野町」「富良野市」にも広がりますが、ホップ栽培は今でも上富良野町のみです。結果として、ホップとビール大麦の両者を商業栽培する全国で唯一の土地となります。

1967年からは、「森らによる新ホップ育種計画」が始まり、約20年をかけて2種類の国産アロマホップを育成開発しました。1984年に森らによって品種登録されたそれらのホップは、センターが空知郡上富良野町にあったことから「フラノエース」「ソラチエース」と名付けられました。

フラノエースは、当時のビール原料として文字通りエース級の活躍をします。一方でソラチエースは、その当時としては香りの個性が強すぎ、ビール原料としての商品化は見送られました。しかし品種改良の母体として盛んに使われ、「フラノスペシャル」などのホップを生み出します。(フラノスペシャルは、北海道内秋季限定ビール「サッポロクラシック富良野VINTAGE」に使われていたホップです)

ソラチエースの品種登録証(2019年撮影)

ソラチエースの品種登録証(2019年撮影)

1994年、ソラチエースはアメリカのホップ研究者との品種交換の一種として海を渡りました。そして、2002年ホップ農家マネージャー、ダレン・ガメシュ氏の「再発見」がソラチエースの運命を変えます。

ガメシュ氏は「アマリロ」ホップを開発した方です。ガメシュ氏は当時センターでのホップ開発担当者だった糸賀裕氏へ一通のメールを出します。

「アマリロの出来具合が良かったので、自分のホップ畑でそれに匹敵する品種を改めて探してみたら、一歩も動けないほどの衝撃を受けたホップがあった。何のホップだ?と確認したら、君たちが分けてくれたソラチエースだったじゃないか!」

この「再発見」がきっかけとなり、アメリカではソラチエースが本格的に栽培されるようになります。アメリカのブルックリンやスコットランドのブリュードッグがソラチエースを前面に出したビールを製品化し、ソラチエースは「アメリカ産のホップ」としてその名が広まっていきます。

生みの親であるサッポロビールもソラチエースの栽培を開始します。ビール商品としても2016年に「伝説のSORACHI ACE」を、2018年に「伝説のホップ ソラチエース」(※)をそれぞれ限定発売。そして2019年に「SORACHI 1984」を全国販売しました。しかしまだ国内ではソラチエースの大規模な生産ができておらず、アメリカ産のソラチエースをメインに使わざるを得ませんでした。

※2018年の「伝説のホップ ソラチエース」は国産ソラチエース100%使用でしたが、ごく少量の生産に留まりました。

われわれが生み出したソラチエースを国産でもっと増やしたい。その思いが、ソラチエースの生産量拡大という今回の取り組みの原動力となります。2019年秋から準備を始め、2020年6月29日上富良野町のホップ生産者の畑で苗の植え付けを開始しました。

34アールの畑に植え付けた苗

34アールの畑に植え付けた苗は約800株。2021年から収穫を開始し、2022年には450kg程度の収穫を目指します。

ソラチエースの植え付け体験

7月6日、ソラチエースの植え付け体験を兼ねて公開取材が行われました。この日は上富良野町の石田昭彦副町長をお迎えし、大串憲祐センター長ら8名がソラチエースの苗を植え付けました。筆者も体験をさせていただきました。

7月6日、ソラチエースの植え付け体験

空けてある穴に苗を植え、優しく土をかけてあげます。穴の中の白い粒は肥料です。

穴の中の白い粒は肥料です。 ソラチエースの苗

左から2番目、柱の陰にいるのが筆者

左から2番目、柱の陰にいるのが筆者です

この日は最高気温が30.1度の真夏日でした。空気は乾燥しているため比較的爽やかなのですが、新型コロナウイルス感染防止対策のためにマスクをしているので顔は汗だくです。

植えられたソラチエースの苗

ホップ栽培の1年目は地下茎を根付かせることが目的で、収穫は目指していません。みなさんがホップ畑として持っているイメージに育つのは2年目からです。また、通常の収穫量が期待できるのは3年目以降とのことでした。

隣の畑には「リトルスター」が育っています

隣の畑には「リトルスター」が育っています

ホップはカビの病気や強風に弱いため、乾燥して風も弱い土地が理想。盆地である上富良野町はその理想的な環境にあります。

植え付け体験ののち、石田昭彦副町長と大串憲祐センター長に今回の取り組みにかける意欲を語っていただきました。

 写真右が石田副町長、左が大串センター長

写真右が石田副町長、左が大串センター長

石田副町長のお話

サッポロビールさんは、100年近く前のわが町の開拓の初期からこの土地に根ざしてくださっています。この上富良野で生まれたホップが、多くの方の支持をいただいていることをとてもうれしく思っています。ソラチエースを通じて上富良野町のファンもたくさん増えていってほしいと希望しています。

大串センター長のお話

ソラチエースの特長は大きく二つあります。ひとつは、ヒノキやレモングラスに例えられる香りの良さ。もうひとつは、海外のブルワーがこぞって『このホップを使うとビールの質が一段上がる』と誉めてくれる品質の高さ。その素晴らしいホップが、生まれた場所でもう一度育つことで、国産ホップの価値が高まってくれればと期待しています。

また、本来は「SORACHI 1984」開発担当者の新井健司氏もこの場にいる予定でした。しかし、植え付け直前に東京都の新型コロナウイルス感染者数が急増してしまったことから大事を取って出張を自粛されました。そこで新井氏から、メールを通じて今回の国産ソラチエースについてメッセージをいただきました。

新井氏のメッセージ

いつも『SORACHI 1984』をお飲みいただきありがとうございます。ソラチエースに初めて出会ったのは2014年のドイツ留学の時でした。多くの外国の醸造家から『ソラチエースはすごいホップだ』との言葉をもらい、日本に戻ったらソラチエースを使ったビールを造ろうと決意したのを昨日のことのように覚えています。ワクワクするようなことをまだまだ仕掛けていきますのでお楽しみに! ソラチエースの新たな航海を、ぜひ一緒に楽しみましょう!

 

「ビールのふるさと」上富良野町へ

大串センター長は、「大麦とホップ、両方の原料が優良に育つこの上富良野町は、ビールにとって奇跡の土地。いわば『ビールのふるさと』です。将来はそのことをこの現地で体感できるような仕組み作りをしていきたいです」と語ります。

大麦畑

(大麦畑は2019年の取材時に撮影)

ホップ畑

残念ながら現在のところは、ホップ畑も大麦畑も一般には公開されていません。しかし、毎年6月中旬から8月下旬にかけて、上富良野町内限定販売の「まるごとかみふらのプレミアムビール」を楽しむことができます。これは上富良野町が、サッポロビールの発祥地「サッポロファクトリー」内にある開拓使醸造所に製造委託して造られたビールです。上富良野産大麦「きたのほし」、上富良野産ホップ「フラノスペシャル」と「フラノビューティー」2種のホップを使用した、文字通り「地産地消」のビールです。

「まるごとかみふらのプレミアムビール」公式ページ

https://kamifurano.wixsite.com/marugoto-pb

上富良野町内のみの酒屋・コンビニで瓶詰め製品を買うことができます。樽詰めも、町内数店舗で飲むことができます。

「まるごと かみふらの」のラベルには上富良野町出身の画家・後藤純男の『十勝岳連峰』が使われている

「まるごと かみふらの」のラベルには上富良野町出身の画家・後藤純男の『十勝岳連峰』が使われている

また、セブン&アイグループとの企画で「セブンプレミアム 上富良野町 小丹枝さんと大角さんのホップ畑から」が6月29日より全国販売されています。このビールには、2016年に品種登録された「ふらのほのか」が使われています。

https://www.sapporobeer.jp/7premium_hopseries/

上富良野町の大麦とホップは、まさにこれからの7月下旬から8月にかけて収穫の時期となります。

今、全国各地から行く、というのはとても難しいことですが、いつかぜひこの時期に「ビールのふるさと・上富良野町」を訪れてみてください。ビール原料が育つ環境を体感すれば、ビールの美味しさもいっそう増すはずです。

「ジェットコースターの道」からの絶景

「ジェットコースターの道」からの絶景

 

リリース:国産ホップ「ソラチエース」生産量拡大開始

https://www.sapporobeer.jp/news_release/0000012067/

PR TIMES STORY:商品化まで35年!? 伝説のホップ「ソラチエース」第2章開幕!~北海道生まれの伝説のホップ「ソラチエース」の国内生産量拡大に向けた挑戦~

https://prtimes.jp/story/detail/qb2J31FlzbD

 

関連記事へのリンク

日本産ホップのプライドをみせるビールへ。「SORACHI1984」リニューアルインタビュー

伝説のSORACHI ACE発売記念!「ソラチエース」誕生の地、上富良野「北海道原料研究センター」訪問レポート(前編)

クラフトラベル・マスターブリュワーに聞く「伝説のSORACHI ACE」サイドストーリー

※2020.7.23 内容を一部修正いたしました。

SORACHI1984サッポロビール株式会社セブンプレミアム 上富良野 小丹枝さんと大角さんのホップ畑からソラチエース上富良野伝説のSORACHI ACE協働契約栽培新井健司氏

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

アバター画像

この記事を書いたひと

坂巻 紀久雄

ビアジャーナリスト

東京都葛飾区出身。1998年ビアテイスターを取得。2000年に北海道札幌市へ移住。ビール専門店勤務で経験を積み、2013年にビールとモルトウイスキーの専門店「Maltheads(モルトヘッズ)」を開店。
https://maltheads.net/

店は「クラフトビールのお店」でも「世界のビールのお店」でもなく、「ビールの広い世界を実感できる店」をコンセプトとしている。

ビアジャーナリストとしては、北海道の記事を中心に執筆しているが、国内外を問わずビール全般を追っている。

札幌は、日本のビールの発祥地のひとつ。さらに「ビールの都」ドイツ・ミュンヘンと「ビール天国」アメリカ・オレゴン州ポートランドと姉妹都市でもある。そこを「日本のビールの首都」として盛り立てるべく奮闘中。

ビア検(日本ビール検定)1級(2013-14 初の2年連続合格者・2022年3度目の合格)/クラフトビアアソシエーション(CBA)認定ビアテイスター/ウイスキー検定2級

「サッポロ・クラフト・ビア・フォレスト」実行委員
http://www.sapporo-craft-beer-forest.com/

ストップ!20歳未満者の飲酒・飲酒運転。お酒は楽しく適量で。
妊娠中・授乳期の飲酒はやめましょう。