一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会

奈良・橿原。日本建国ゆかりの地に生まれた新進気鋭のブルワリー「Farmentry」を訪れた

ファーメンタリーの共同代表の西崎さん

2024年8月に奈良県橿原市に誕生したブルワリー「Farmentry」(ファーメンタリー)を訪問してきた。彗星のごとく現れ、2025年2月には、ビール品評会のJapan Brewers Cupの淡色ラガー部門でいきなり1位を獲得するなど、クラフトビールファンの間でも話題となった新進気鋭のブルワリーだ。

Farmentryが拠点を構えるのは、奈良県のほぼ中央に位置する橿原市。市内には、約1300年前の首都・藤原京の宮跡や、日本建国ゆかりの地でもある橿原神宮、江戸時代の町屋とその街並みが残る今井町があり、お隣の明日香村にも飛鳥時代の名所が点在する歴史の濃密なエリアでもある。

江戸時代の町屋とその街並みが残る今井町

江戸時代の町屋とその街並みが残る今井町

明日香村の日本最大級の巨石墳、石舞台古墳

明日香村の日本最大級の巨石墳、石舞台古墳

Farmentryへのアクセスは、大阪、奈良市内、京都のいずれからも近鉄線が便利だ。例えば大阪難波駅からなら、特急で約30分の大和八木駅が拠点となる。そこから路線バスやタクシー、あるいは歴史の面影を残す街並みを散策がてら歩けば、大阪中心部から1時間ほどで到着する。周辺の歴史探訪とタップルームでの一杯を組み合わせれば、充実した「歴史とビールの小旅行」が完成する。

ファーメンタリーのタップルームに集うランニングイベント参加者

タップルームに集うランニングイベント参加者

筆者が訪問した日は、併設タップルームの営業日であり、定期的に開催されているランニングイベントの日でもあった。午前11時のオープンに合わせて伺うと、走り終えたばかりの参加者たちが晴れやかな表情で戻り、早くも「至福の一杯」を楽しんでいた。
さらにこの日は、共同経営者の一人である西崎さんによる醸造所のツアーも行われた。現在稼働中のタンクを前に伺った解説の中で、特に印象深かったのが、醸造設備の設計から搬入、組み立てまで、すべて自分たちの手で行ったとのことだ。

Farmentryの醸造所内を案内する西崎さん

Farmentryの醸造所内を案内する西崎さん

Farmentryの醸造設備を見学する参加者達

Farmentryの醸造設備を見学する参加者達

午前中の賑わいもひと段落し、客足が落ち着いたタイミングで、西崎さんに詳しく話を伺う時間をいただいた。

受賞ビール「スペシャルハウスラガー」の正体

スペシャルハウスラガーのボトル(※販売はタップルームのみ)

スペシャルハウスラガーのボトル(※販売はタップルームのみ)

筆者:2025年2月にJapan Brewers Cupの淡色ラガー部門で1位を獲得しています。このスペシャルハウスラガーの特徴を教えてください。
西崎さん:このスペシャルハウスラガーの何がスペシャルなのか?という質問をよく受けます。僕の中で実は圧倒的なスペシャルがこのビールにはあって、硬水で作ってるラガーなのです。一般的には軟水でピルスナー、ラガーを作るのが一般的なのですが、そうすると魚の臭みに負けてしまうんです。うちでは海洋系のミネラルを足すので魚の臭みに負けません。
もう一つは、フランス産のホップをベースに使っているところです。フランス産のホップはドイツ産と比べて地域は似ているのですが、土壌の性質が異なります。土壌の違いによってチオールなどの生成がかわることで、和食に合わせやすいホップアロマを得ることができます。フランスホップを使ったピルスナーと生魚をペアリングしてみると驚くほど、臭みなく食べれます。魚料理の多い日本人の食文化との相性は良いと思っています。
最後に、このスペシャルハウスラガーだけは、ここでしか購入することができません。いろいろな意味を込めたスペシャルビールなので、自分達が飲み手に届くまで味をコントロールしたいと思う唯一のビールです。

「農」の入り口、そして奈良と世界をつなげるシンボル

ファーメンタリーのロゴ
筆者:Farmentryという独創的でスタイリッシュな名前、そして印象的なロゴには、どのような想いや背景が込められているのでしょうか。
西崎さん:Farmentryは、FARM(農)とENTRY(入口)を組み合わせ、発酵を意味するfermentを掛け合わせた造語です。

ファーメンタリーのロゴ

ロゴについては、かつてここ橿原市にあった古都、藤原京の碁盤の目を基本とし、世界に広く通じる記号「. : !」(時間、すなわち、感嘆符)で構成している。ファーメンタリーが掲げる理念である「奈良から世界へ、世界から奈良へ」を具現しています。

「秘伝のタレ」で受け継ぐ味。野生酵母と挑む、次なるビール造り

野生酵母の部屋に並んだ木樽と西崎さん

野生酵母の部屋に並んだ木樽と西崎さん

筆者:受賞されたラガーの素晴らしさはもちろんですが、今後、醸造として新しく挑戦したいこと、特に力を入れて取り組んでいることは何でしょうか。
西崎さん:今後、推して行きたいのがミックスカルチャーです。野生酵母の部屋で試みているミックスカルチャーも現在は第三世代目に入っています。
第一弾は、ラクトバチルスなど決まった菌のシリーズを買って集め、ミキシングするという感じでした。酵母はある程度の味がわかった状態で地元のホップ100%で出したファームハウスエールが第一弾でした。第二弾は、さらにプラスアルファの自分がピックアップした酵母も混ぜています。それはラカンセア系の乳酸と発酵を同時にできる酵母です。そして今の第三世代に至るのですが、実はタンクは洗い替えしていません。タンクの壁面に酵母がついた状態を維持しており、僕たちの間では「秘伝のタレ方式」と呼んで、味の系統を継承させています。

野生酵母の部屋に設置された醸造タンク

野生酵母の部屋に設置された醸造タンク

明日香村側からみた大和三山のひとつ畝傍山

明日香村側からみた大和三山のひとつ畝傍山

また、並んでいる木樽はすべてあえて菌がついた状態の「旧樽」を選んでいます。奈良でゼロから菌を増やすのは難しいという面もありますが、旧樽の酵母と地元由来の菌が相互作用で新たな進化をとげることにロマンを感じているからです。日本酒造りの自然淘汰的な考え方に近いかもしれません。個人的には野生酵母のピックアップが好きなので、近くの畝傍山(大和三山の一つ)の菌を使用するなど、ストーリーのあるビール造りにも可能性を感じています。

1月上旬にリリースされるミックスカルチャーのシリーズ第一弾

2026年1月上旬にリリースされるミックスカルチャーのシリーズ第一弾!

※上記、ミックスカルチャーのシリーズ第一弾については、Farmentryの公式Instagramをご参照ください。

目指すは「ビール人口15%」。この地から新たな文化が醸されていく?

筆者:今後の新しい試みや目指していることなどを教えてください?
西崎さん:元々スタートした時の考えとしては、地元に根差したファームハウスなんです。今後はさらに地元の素材を使い、美味しいビールを出していきたい。当面は麦芽、ホップ、水、酵母のすべてで地元産のものを活用していきながら、ユニークなビールを作って行きたいと思っています。例えば、自分たちの畑を含め、地元産のフルーツを使ったビールで世界レベルを目指すようなことも視野にいれています。
また、僕はビールだけが好きというわけではなく、お酒自体の文化が広がるようなお店を持てたらいいなと思っています。造り手が造って終わりというのは、今の時代的に合ってない。造る側が「伝える側」になることも重要ではないでしょうか。
飲む人、造る人、提供する人の「三方良し」みたいな環境が、これから5年ほどで広がってくれれば。そして10年が経ったとき、橿原市のクラフトビール人口が全体の15%とか言われるような未来になれば最高ですね。
 


<あとがき>

タップルームで頂いたスペシャルハウスラガー

タップルームで頂いたスペシャルハウスラガー

今回は訪問取材を快諾していただいたFarmentry共同代表の西崎さん、また当日お会いすることは叶いませんでしたが、丁寧に取り次いでくださった奥田さんには大変感謝しています。冒頭で触れた「スペシャルハウスラガー」を筆者もタップルームで実際に味わわせていただきました。非常にクリアでスッキリした味わいの中に、爽やかな炭酸のクリスプ感が際立っており、非常に印象的な一杯でした。西崎さんのお話を伺い、次回はぜひ、旬の魚料理とのペアリングを楽しんでみたいと思いました。

筆者おすすめのFarmentry訪問モデルルート

  1. 09:30 飛鳥駅スタート:明日香村観光 レンタサイクルやバスを利用し、石舞台古墳や飛鳥寺など、日本の黎明期の息吹を感じる名所を巡ります。
  2. 12:30 橿原神宮を参拝 明日香村から北上し、日本建国ゆかりの地へ。
  3. 14:30 今井町の街並み散策 江戸時代の町屋が残る今井町へ。
  4. 15:30 Farmentry タップルームへ 旅の締めくくりは、今井町からほど近い醸造所へ。歩き疲れた体に、ここでしか飲めない最高の一杯「スペシャルハウスラガー」を。そしてお土産ビールも忘れずに!

歴史深いこのエリアをじっくり巡った後に、ここでしか飲めないラガーで旅を締めくくる。そんな贅沢な一日を過ごしてみてはいかがでしょうか。

醸造所・店舗紹介

Farmentry 醸造所・併設タップルーム
住所:〒634-0832 奈良県橿原市五井町197-5
地図行き方:近鉄橿原線 八木西口駅より徒歩20分
Instagram
営業時間:※公式Instagramをご確認ください

–Farmentryのビールが買えるお店–
マルホ酒店 九条本店
住所:〒550-0025 大阪府大阪市西区九条南2-16-11
地図行き方:大阪メトロ 中央線または阪神電車 九条駅より徒歩8分
Instagram
営業時間:月・水・金 11:00 – 22:00、火・木 11:00 – 20:00、土 11:00 – 18:30、祝日 不定休・日曜は定休

北沢小西
住所:〒155-0032 東京都世田谷区代沢5-28-16
地図行き方:小田急線または京王井の頭線 下北沢駅より徒歩8分
Instagram
営業時間:平日14:00 – 22:00 / 金・土14:00 – 23:00 / 日・祝11:00 – 21:00

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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モリイクオ (ikuo mori)

ビアジャーナリスト / Beer journalist

大阪出身。東京在住。ビアジャーナリスト&ビアテイスター。
学生時代に滞在した北米やヨーロッパで初めてピルスナー以外のビールと出会う。まだ見ぬビールの世界があると思うとワクワクする。主に旅先で出会ったビール、ビールにまつわる話を紹介している。