一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会

コラム

【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 153~蔵の才人と傾奇ブルワー、時を超えた仕込み 其ノ拾陸

ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、完成間近!物語完結時に販売する予定です

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「それだ!」

青天の霹靂とは、まさにこのことか!直は小西に飛びついた。目の前の靄が晴れていき、進む道が一気に見えてくる。

「にっしーまじ天才!そうだよ、この蔵にいないのなら、酵母のついた道具をここに持ってくればいいんだ!」

なぜこんな簡単なことに気づかなかったのだろう。「蔵付き酵母」という言葉から、天井や壁についているものだと想像していたが、酒造りの道具に付着している可能性だって十分にあるわけだ。

日本酒造りを日々行っている、そんな蔵の桶にはビールを移し替えれば、そこに付着していた酵母によって発酵が始まる可能性は十分にある。

「そうとわかれば、さっそく他の酒蔵にもらいに行こう!にっしーも来てくれ」

直が蔵を飛び出そうとすると、「うそでしょ?」と金ちゃんが立ちふさがった。

「もらいに行くってどこに行くつもりなの~?」

「どこって……酒蔵だよ。片っ端から声かけてみたら、どっかは貸してくれるだろ」

「あんたはニワトリなの~?都合が悪いことは全部忘れちゃうの~?」

金ちゃんは盛大にため息をつく。

「なんであんたたちがここに来たか、思い出しなさいよ~♡下の町のどこの酒蔵にも、息がかかってるの。あんたたちを入れるな、関わったらただじゃおかないぞ、ってね」

「……でももっと先まで行ったらわからないだろ。やつらが来ていないところだってあるかもしれない」

「もっと先ってどこのことかしらん。少なくともこのあたりの酒蔵は、下の町周辺に集まっているわよ~。関所を超えて、別の国に行く?何日もかけて行って、それでダメでした、ってなったらどうするの~?」

金ちゃんの言葉は正論だった。手あたり次第あたってみる、そんなのは賭けだと直にだってわかっていた。でもこの蔵に酵母がいない以上、他に出来ることはなにもないのだ。

「やってみなきゃ……わからないだろ!ここで何もせず、酒が腐り、喜兵寿が殺されるのを待つよりも百倍マシだ」

残りは12日。発酵が始まった後のことも考えれば、本当にもう時間がないのだ。いまかすかに見えている光のしっぽをどうにかして掴みたかった。

「直、落ち着け」

小西が静かに、でも力を込めて直の肩に手を置いた。

「金ちゃんの言う通りだ。恐らくこの周辺にある蔵は無理だろう。それにもし話を聴いてくれたとしても、長年使いこんできた道具は、蔵にとっての宝だ。見ず知らずのやつに、おいそれと貸してくれるものではない」

「……じゃあどうしたらいいんだよ!」

直は奥歯を強く噛みしめた。爪が手のひらに食い込むのを感じる。

「だからそれを今から皆で考えるんだ。状況を見極め、勝ち筋を探す。戦術、交渉術の基本だ」

小西の言葉が穏やかだったが、その目の奥には青い炎が燃えているようだった。

「……わかったよ」

その迫力に気おされ、直は床に胡坐をかいた。そうだ、焦っているのは自分だけではない。ここにいる全員が喜兵寿の安否を気にし、そしてビールの発酵を待ち望んでいるのだ。

「あー!堺が近ければなあ。にっしーの使ってる蔵とか道具とか借りられるのに」

直が思いっきり宙を仰ぐと、暗い顔をしたつるが目に入った。何か言いたそうに、口をもごもごさせている。

「ごめんな、つる。心配だよな……でも大丈夫、絶対方法を見つけるから。そんな顔するなって」

直が笑顔を向けるも、「……違うの。そうじゃなくて……」つるは小さく首を振る。

「うちの蔵の酒樽……下の町に保存してるの。酒造りの道具じゃないんだけど……」

ぼそりと呟いたその言葉。その続きに皆が注目した。

「日本酒って普通寒い季節に造るでしょう?それを春から夏にかけて売る。だから秋は日本酒がなくなっちゃうことも多いんだけど、下の町のご家老様が一年中同じ量を上納しろ、って無理をいってきて。それで柳やでは、ある時から火入れしていない“生酒”を運んできて、土の中で熟成させるようになったの」

「……なるほど。実に興味深い」

小西が唸るように言った。

「氷室のような保存法か。火入れをしない生酒は、本来長持ちしないが──土中であれば温度も湿度も一定。これなら秋までうまい酒を提供できるというわけか」

「わたし酵母についてちゃんとわかってるか不安だけど……たしか直、言ってたよね。酵母は火に弱いって。でもうちの生酒が入っていた酒樽なら、酵母いたりしないかな」

※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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ルッぱらかなえ

ビアジャーナリスト

ビールに心臓を捧げよ!
お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター。
和樂webや雑誌「ビール王国」など様々な媒体での記事執筆の他、クラフトビール定期便オトモニでの銘柄選定、同梱物執筆などといった業務も行っています。
朝から晩まで頭の中はいつだってビールでいっぱい!

ビールの面白さをより多くの人に伝えるため、ビールをテーマにした小説「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗」を連載中。小説内で出来上がる「江戸ビール」は、実際に醸造、販売予定なので、ぜひオンタイムで小説の世界を楽しんでいただきたいです!

その他、ビールタロット占い師としても活動中(けやきひろばビール祭り、ちばまるごとBEERRIDE等ビアフェスメイン)
占い内容と共に、開運ビアスタイルをお伝えしております。