【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 152~蔵の才人と傾奇ブルワー、時を超えた仕込み 其ノ拾伍
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、完成間近!物語完結時に販売する予定です

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「ちょっと、いきなり何言ってんの……?」
みるみるうちに、つるの顔が青ざめていった。
「びいるが出来なかったら、お兄ちゃんはどうなるの!殺されちゃうんだよ?造れない、じゃだめなんだよ?!」
取り乱したつるを、小西は抱きかかえるようにしていった。
「直、ワシたちにもわかるように説明してくれ」
全員を前にして、直は現状を話した。「酒の神」である酵母について。ビールの発酵に蔵つき酵母を使用しようとしていたこと、そしてこの蔵には酵母が存在しないこと―……
各々が考え込むように口を閉ざし、重い空気が蔵に満ちた。時刻は丑三つ時。暗闇がじわじわと室内までも浸食してくるようだ。
「……ま、じゃあどうするかを考えるしかないな」
幸民が腰にぶら下げた徳利の栓を抜いた。ぽんっと跳ねる音が、暗澹とした空気に穴をあける。
「正直、ワシは日本酒造りのことはよくわからん。しかし小西は商人とはいえども酒造り経験者、そしてつるは酒蔵の娘だろう。種類は違えど直は酒を造っているわけで、皆が頭を捻ればなにか案も出てこよう」
そういうと、袖の下から木の棒と火打石を取り出し、こすりつけた。ぼっとという音と共に、鋭い炎が立ち上がる。唐突な幸民の動作、そして闇を切り裂くような光に皆驚き、そして息を飲んだ。
「これは黄燐まっち、というものだ。発明者はワシということになっておるが、なあに、すべてをワシが考えたわけではない。西洋の文献を読み、応用しただけだ。それでも出来てしまえばワシのもの」
幸民はにやりと続ける。
「これをつくるために、ワシは100以上の実験をした。文献通りじゃうまくいかんかった。結局、自分で工夫してようやく火がついたんじゃ。新しいものを生み出す、なんて所詮そんなもんだろう。ちょっと躓いたからって、葬式みたいな顔をするな」
確かに幸民の言う通りだった。酵母という存在が認識されていないこの時代。見えない酵母を使用するには「蔵付き」しかないと思い込んでいたが、他の選択肢だってありえるのかもしれない。
「……そうだな。師匠、めっちゃいいこと言うじゃん!」
「まあな。そこにいる、蘭学をちょっと齧った誰かさんとは違って、ワシは本物の蘭学者だからな」
しかしどや顔をしていた幸民のまっちは、大きく燃え上がり、近くに置いてあったワラへと燃え移った。
「ちょっと!火が!!!」
「急いで消せ!」
「幸民、その手のものを消せ!」
「この火、すぐ消せるような仕掛けはないんじゃ……」
「ちょっとおおおおおお」
無事鎮火した時には、すっかりみんな煤まみれになっていた。お互い顔を見合わせ、思わず吹き出す。
「まじで師匠!いいこと言ったあとに、あれはやばいって。ビール無事でまじよかったよ」
気づけば、絶望した気持ちはもうどこにもなかった。ここまで来たら、どうにかするしかないのだ。
「直の話を聞いていて思ったことがあるんだが……」
小西が口を開く。
「酵母とやらは、酒を造っているから蔵にいるのだろう?だとしたら酒造り用の桶や、柄杓にもいるとは考えられないだろうか?」
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









