一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会

コラム

ホップを摘むと、ビールの香りが見えてくる。京都・与謝野町で体験した手摘み収穫と真空パッキング【JBJAChannel】

ビールに愛された皆さまへ。

ビールを飲んだとき、「ホップの香りが華やか」「柑橘のようなアロマがある」「青々しい香りが感じられる」と表現することがあります。

しかし、その香りの源であるホップが、畑でどのように実り、どのように摘み取られ、どのような状態でブルワリーへ届けられているのかを、実際に見たことがある人は、まだそれほど多くないかもしれません。

京都府北部の与謝野町にある、日本ビアジャーナリスト協会・藤原ヒロユキ代表のホップ圃場を訪ねるシリーズ。

前回は、圃場で育つホップの様子や、毬花の中にある黄色いルプリンを観察しました。

今回は、いよいよホップの摘み取りです。

畑で毬花を一つひとつ手で摘み、選別し、真空パックにするまでを体験しました。

ホップが「農作物」から「ビールの原料」になる、その境目に触れます。

与謝野町のホップは、一つひとつ手で摘み取る

ホップは、支柱から張られた誘引線に沿って、空へ向かって長くツルを伸ばします。

藤原代表の圃場では、ホップ棚の最も高いところは、およそ5.5m。

人の手が届く高さをはるかに超えています。

与謝野のホップ収穫は、基本的に手摘みで行います。

手の届く場所にある毬花は地上から摘み、高い場所に実ったホップを収穫するときには、圃場内に乗り入れられるコンパクトな高所作業車を使用します。

作業床を上昇させ、ツルに沿って実った毬花を順番に摘んでいきます。

ホップばかりを見上げていると、つい自分の立っている位置への注意が薄れてしまいます。収穫に夢中になるほど、落ち着いて動くことが大切です。

実際に乗ってみると、地上から見上げているときとは景色が変わりました。

目の前には、葉の間に隠れるようにして実ったホップの毬花があります。

遠くから眺めていたホップが、手を伸ばせば摘み取れる距離にある。

いよいよ収穫です。

毬花だけをつかみ、軸の根元から摘む

ホップの収穫は、毬花を軸の根元から軽くちぎるようにして摘み取ります。

大きく育った毬花は見つけやすいのですが、葉の陰やツルの裏側には、小ぶりなものが隠れていることもあります。

鈴なりに育ったホップを摘んでは、次の毬花を探す。

単純な作業のようでいて、実際には毬花の状態を見ながら、手際よく、しかも丁寧に進めなければなりません。

作業に慣れてくると、摘み取る速度も少しずつ上がっていきます。

ところが、ここに落とし穴があります。

夢中になって手を動かしていると、毬花だけでなく、長い軸や葉まで一緒にちぎってしまうのです。

葉や茎が収穫用のポケットに入れば、あとで取り除かなければなりません。

収穫量を増やそうと急ぐほど、その後の選別作業を増やすことにもなります。

速さだけでなく、毬花だけを正確に摘むこと。手摘みの現場では、その両方が求められます。

ホップを摘む手に残る香り

摘み取ったばかりの毬花を手にすると、まず感じるのは、その軽さです。

見た目は小さな松かさのようですが、収穫時期を迎えた毬花は、ムチッと押し返すような弾力があります。成熟の証です。

毬花を割ると、内部に黄色い粉状のルプリンが見えます。

指で触れるとわずかに粘りもあり、鼻に近づけると、鮮かな香りが立ち上がります。

青々とした草の香り。

樹脂のような香り。

柑橘や果実を思わせるニュアンス。

品種や熟度、育った環境によって、感じられる香りは異なります。

グラスの中で感じてきた「ホップ香」が、目の前にある植物と初めて結びついた瞬間です。

もちろん、収穫したホップの香りが、そのまま完成したビールに現れるわけではありません。

ホップを投入するタイミングや温度、量、醸造設備、酵母の種類に発酵過程、ほかの原材料との組み合わせによって、ビールの香りや苦味は大きく変わります。

それでも、この植物がビールの香りの出発点であることは間違いありません。

ホップを自分の手で摘み、割り、ルプリンを見て、その香りを直接確かめる。

この体験によって、今まで言葉だけで理解していた「ホップの香り」が、身体の記憶として残っていきます。

小雨が降る前に、収穫を切り上げる

この日は、まだ梅雨の終わり。

収穫を続けていると、空から細かな雨が落ち始めました。

せっかく圃場まで来たのだから、もう少し摘み取りを続けたい。

そう思う一方で、ホップにとって水分は、収穫後の扱いを左右する問題になります。

雨に濡れたホップは、そのまま包装することができません。

余分な水分を含んだ状態でパッキングすれば、品質の低下につながる可能性があります。一度乾かす工程が必要になり、そのぶん手間と時間もかかります。

雨足が強くなる前に、収穫を切り上げることになりました。

農作物の収穫は、人間の都合だけでは進められません。

天候、気温、ホップの熟度、作業人数、収穫後の処理能力。

さまざまな条件を見ながら、その日の作業を判断していきます。

「もう少し摘みたい」という体験者の気持ちよりも、ホップを良い状態で届けることが優先されます。

私たちは、摘み取ったホップを持って、パッキングを行う作業所へ移動しました。

収穫したホップを選別する

摘み取ったホップは、まずバケットに集めます。

作業所では、パッキングする前に、収穫物の状態をあらためて確認します。

毬花の中に葉や茎が混ざっていないか。

枯れた部分や傷んだものが入っていないか。

そのほかの異物が混入していないか。

一つひとつ目で確認し、不要なものを取り除きます。

圃場で丁寧に毬花だけを摘んでおけば、この選別作業は早く進みます。

反対に、急いで軸や葉まで摘み込んでしまえば、ここで取り除く作業が増えます。

圃場での一つひとつの手の動きが、次の工程につながっていることがよく分かります。

ホップは、摘み取った時点で仕事が終わるわけではありません。

むしろ、収穫後は鮮度を守るため、速やかに次の工程へ進む必要があります。

京都与謝野ホップ生産者組合では、収穫したホップをすぐに真空冷凍する方法を採用しています。与謝野町の公式サイトでも、ホップを一つひとつ手摘みし、その日のうちに真空冷凍することが紹介されています。

目安は1パック500g。ホップを袋に詰める

特売スーパーの詰め放題…ではなく、しっかりと詰め込んでいきます

選別を終えたホップは、専用のパックに詰めていきます。

通常は、1パックがおよそ500gになるように計量します。

ところが、ホップは非常にかさがあります。

毬花は内部に空気を含み、ふんわりとしているため、袋に入れると見た目以上の体積になります。

今回、私たちが短い時間で収穫したホップは344g。

500gには届きませんでしたが、自分たちで摘んだホップがまとまって袋に入ると、確かな収穫の重みを感じました。

圃場では一つひとつの小さな毬花だったものが、集めることでビールの原料らしい姿になっていきます。

空気を抜き、香りを閉じ込める

パックに入れたホップを機器にセットします。

ホップを詰めた袋は、専用の真空包装機にセットします。業務用冷蔵庫などで知られる、ホシザキの機器です。

機械が作動すると、ふんわりとしていたホップが、ギュッと圧縮された一つのパックになっていきます。

真空包装には、ホップが空気に触れる量を減らし、酸化による品質の変化を抑える意味があります。

特に、収穫直後のホップを生の状態で使用するフレッシュホップビールでは、摘みたての香りをどのように保つかが重要です。

畑で摘んだときには、青々とした植物そのものだったホップ。

それが真空包装されると、ブルワリーへ届けられる原料としての姿になります。

わずかな時間のうちに、農作物から醸造原料へと表情を変えていくようでした。

ビールの魂になる準備

収穫してパッキングしたホップに、収穫した圃場と種類を示すQRコードのシールを貼って管理します

ホップは、しばしば「ビールの魂」と呼ばれます。

麦芽、水、酵母と並ぶビールの主要な原料であり、苦味や香りを与え、ビールの輪郭をつくる存在です。

しかし、圃場を訪れると、ホップが最初から「ビールの魂」として存在しているわけではないことに気づきます。

春に芽を出し、ツルを伸ばし、葉を広げ、花を咲かせる。

生産者がツルを誘引し、圃場を管理し、収穫の時期を見極める。

毬花を一つひとつ摘み、異物を除き、計量し、真空包装し、冷凍する。

数多くの作業を経て、ホップはようやくブルワリーへ届けられる原料になります。

今回、収穫からパッキングまでを体験したことで、与謝野のホップが丁寧に育てられ、収穫され、ビールの原材料としてデビューする準備を整えていく過程を、自分の目と手で確認することができました。

ビールになるのは、まだ先です。

それでも、真空パックになったホップを見たとき、すでにその先にあるビールの香りを想像していました。

ホップ圃場へ行くと、ビールの飲み方が変わる

ホップ圃場を訪ねたビールファンの多くが、「ビール好きなら、一度はホップ畑へ行ったほうがいい」と言います。

今回、その理由が分かりました。

ホップのツルが頭上まで伸びている風景を見る。

葉の間に実った毬花を、自分の手で摘み取る。

毬花を割り、中にあるルプリンを見る。

指についた香りを嗅ぐ。

真夏の太陽の暑さ、あるいは雨や気温を気にしながら収穫し、葉や茎を取り除き、袋に詰め、真空包装する。

ホップを五感で体験すると、その後に飲むビールの感じ方が変わります。

次にグラスを口元へ運んだとき、これまでよりも確実に、ホップの存在を意識しました。

立ち上がる香りの中に、圃場で触れた青々しさを探す。

苦味の奥にある植物の輪郭を想像する。

そのビールに使われたホップが、どこで育ち、どのような手を経てブルワリーに届いたのかを考える。

もちろん、一度の体験ですべてのホップ品種を判別できるようになるわけではありません。

香りの表現が、突然上手になるわけでもありません。

それでも、頭の中だけで理解していたホップが、香り、手触り、風景を伴った具体的な存在になります。

ビールと農業が、自分の中でつながるのです。

ホップ収穫体験は、ビールマニアの必修科目

ビールは、工場や醸造所の中だけで生まれるものではありません。

その始まりには、畑があります。

土があり、太陽があり、水があり、作物を育てる人がいます。

醸造技術やビアスタイルを学ぶことも、もちろんビールの理解を深めてくれます。

しかし、原料が育つ場所に立ち、実際に手を動かすことでしか得られない理解もあります。

ホップ圃場での収穫体験は、単なる農業体験ではありません。

自分が普段飲んでいるビールを、原料の側から見直す体験です。

初心者であっても、長年ビールを飲み続けてきた人であっても、造る側・提供する人、様々な立場の違いがあったとしても、それぞれに新しい発見があるでしょう。

そして、ホップを摘んだあとに飲むビールは、きっと、それまでとは少し違って感じられます。

私たちも、声を大にしてお伝えしたいと思います。

ビールが好きなら、ぜひ一度、ホップ圃場へ。

ホップの収穫体験は、ビールマニアにとって体験すべき必修科目です。

グラスの中の香りが、畑の風景とつながる瞬間を、ぜひ味わってみてください。

動画でも楽しくご紹介しています!

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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MJ

ビアジャーナリスト/Youtube JBJA Channelプロデューサー

ビールと昆虫とリコーダーと天然石が大好きです。JBJAではイベントサポートやBJAチューターも楽しんで取り組んでおります。人に寄り添う記事作成を心がけ、JBJA公式動画サイトJBJAchannelではMCを担当しております。
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