一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会

コラム

求められるホップを届け続けるために――与謝野ホップの現在地と次の挑戦・藤原ヒロユキ代表へのインタビュー後編【JBJAChannel】

ビールに愛された皆さまへ。

京都府与謝野町でホップを栽培する、日本ビアジャーナリスト協会代表・藤原ヒロユキさんへのインタビュー。

前編では、藤原さんがホップ農家になった経緯と、ビアジャーナリストとして培ってきた知識やネットワークを生かし、与謝野ホップとブルワリーをつないできた歩みを紹介しました。

後編では、さらに踏み込んで尋ねます。

ホップ栽培で、農業として収益を得ることはできるのでしょうか。

与謝野ホップの生産量を増やし、産地を続けていくためには、何が必要なのでしょうか。

取材中、「ここまで聞いてしまってよいのだろうか」と思うほど率直に語られた、ホップ農業の現実と今後の展望を紹介します。

ホップだけで生計を立てるのは、まだ難しい

「ホップ栽培で、十分な収益を得ることはできるのでしょうか」

率直に尋ねると、藤原さんの答えもまた、率直なものでした。

現在の栽培面積と作業方法のまま、ホップだけで生計を立てようとするなら、仕事量に見合う収益を得るのは難しいといいます。

ホップ一本で農業経営を成り立たせるには、栽培面積を広げるだけでなく、反収、つまり一反当たりの収穫量を増やす必要があります。さらに、機械化や作業方法の見直しによって、栽培にかかる労力を減らしていかなければなりません。

ホップ栽培には、株ごしらえ、誘引、芽の選別、除草、防除、施肥、収穫など、多くの工程があります。

与謝野ホップはすべて手摘みで収穫され、収穫後は鮮度を保つために真空包装して冷凍保存されます。農林水産省近畿農政局も、手摘みによる収穫と真空冷凍を与謝野ホップの特徴として紹介しています。

品質を守るためには、畑での作業だけでなく、収穫後のパッキングや保管にも人手、設備、電気代が必要です。

新たにホップ栽培を始め、それだけで十分な利益を得ることは、現状では簡単ではありません。

一方、与謝野の生産者たちがホップ栽培を続けられている背景には、それぞれがもともと高い農業技術を持っていることもあると、藤原さんは話します。

土や天候、株の状態を見ながら、その時に必要な作業を判断する。そうした農家としての経験が、与謝野ホップの品質を支えているのです。

二人なら、二倍以上の仕事ができる

藤原さんが実際にホップ農家となって感じたのは、農作業における人手の重要性でした。

個人事業として農業を営む農家は、日々の作業を一人で賄いがちです。

しかし農作業には、一人で行うよりも、二人で役割を分担することで、三倍以上の作業量をこなせるものが少なくないといいます。

一人が資材を運び、もう一人が設置する。

一人がつるや株の状態を確認し、もう一人が処理する。

収穫する人と、運搬や選別を行う人に分かれる。

人数が増えれば、単に手が増えるだけでなく、移動や準備にかかる時間を減らせます。高所での作業など、安全面でも複数人で取り組む意味があります。

農家がそれぞれの圃場ですべてを抱えるのではなく、作業日を合わせ、互いに協力できれば、生産性をさらに高められるのではないか。

それが、藤原さんが与謝野でホップ栽培を経験して得た実感でした。

生産者組合による協力体制

京都与謝野ホップ生産者組合には、取材時点で7軒の農家と1つの農業法人が参加しています。

農家同士が同じ組合に所属していることで、必要に応じて助けを求められる関係があります。

例えば、耕運機や高所作業車、農薬や肥料を散布するための機器など、個人では用意することが難しい高額な農業機械を、同じ組合員である農業法人などから借りられる場合もあるそうです。

収穫後のホップのパッキングと冷凍保存は、組合の作業所で行われます。こうした作業では、組合の水口真友さんが中心的な役割を担っている部分が大きいといいます。

また、販売と出荷も組合に一本化されています。

各農家が個別にブルワリーと交渉し、在庫管理や発送を行うのではなく、組合が産地全体のホップをまとめて販売します。

この体制が、与謝野ホップの生産と流通を支えています。

生産量をもう一度伸ばしていくために

与謝野町で地域を挙げたホップ栽培が始まったのは、2015年です。

近畿農政局によると、与謝野ホップの生産量は、一時は年間約2トンに達しました。その後は、生産者の世代交代や人手の確保、コロナ禍による市場環境の変化などもあり、栽培規模は変動しています。

一方で、与謝野ホップの品質は高く評価され、現在も多くのブルワリーから購入を希望する声が寄せられています。

つまり、課題は需要を生み出すことではなく、その期待に応えられる生産体制をどう整えていくかということです。

反収の向上や作業の効率化、農家同士の連携、さらに加工や流通方法の工夫によって、与謝野ホップの生産量を再び伸ばしていく余地はあります。

これまで築いてきた評価を土台に、次の成長へどうつなげていくか。与謝野ホップはいま、その段階に差しかかっています。

最初の5年間、販売先を選んだ理由

与謝野で初めて収穫されたホップを確認した藤原さんは、その品質に大きな手応えを感じたといいます。

しかし、収穫量が限られていた最初の5年間、与謝野ホップを広く販売することはしませんでした。

藤原さんが選んだのは、品質を信頼できるブルワリーにだけ卸すという方針です。

ホップは、そのまま飲み手が口にするものではありません。ブルワリーでビールとなり、その完成品を通して評価されます。

原料の品質が高くても、完成したビールの品質が伴わなければ、ホップの良さは伝わりません。それどころか、「与謝野ホップを使ったビール」という名前と、ビールの好ましくない印象が結び付いてしまう可能性もあります。

藤原さんはビアジャーナリストとして、多くのブルワリー、醸造家とのつながりを大切にしてきました。

どのブルワリーが品質の高いビールを造っているのか。

原料の特徴を理解し、ビールの香味として表現できる醸造家は誰なのか。

それまでに培った知識と人脈を生かし、信頼できる造り手に与謝野ホップを託しました。

そこから良質なビールが生まれたことで、与謝野ホップは「国産だから珍しい」だけではなく、「おいしいビールを造ることのできる原料」として実績を積み重ねていったのです。

現在も、日本産ホップの希少性や地域性をビールに生かしたいと、多くのブルワリーから購入希望が寄せられています。

その要望に応えられるよう、収穫量を増やすことが、藤原さんのこれからの挑戦です。

収穫量の拡大と、加工の可能性

与謝野ホップの今後について、藤原さんが挙げたのは、栽培面積や反収の拡大だけではありません。

収穫したホップを、どのような形で加工し、出荷するかという可能性についても言及しました。

現在の与謝野ホップは、収穫後に真空包装し、冷凍した毬花の状態で販売されています。

一方、醸造所で使用されるホップには、粉砕して成形したペレットなどの加工品も多くあります。

それならば、与謝野でもあらかじめ粉砕するなど、ブルワリーが扱いやすい形に加工できないか。あるいは、ホップから香りや成分を取り出し、別の形の原料にすることはできないか。

加工によって容積を小さくできれば、保管場所や流通、取り扱いの負担を軽減できる可能性があります。冷蔵・冷凍にかかる費用の削減にもつながるかもしれません。

もちろん、加工設備の導入や、香味と品質を保つ技術、加工後の保存方法など、検討すべきことは多くあります。

それでも、栽培面積を増やすだけでなく、同じホップに新しい価値を加えることも、産地の収益性を高める一つの方法です。

飲み手も産地に参加する「ホップ株主制度」

京都与謝野ホップ 株主募集 Local Flag 公式サイトより

生産者だけでなく、飲み手もホップ産地に関われる仕組みとして始まったのが、「京都与謝野ホップ株主制度」です。

ここでいう株主は、企業の株式を購入する投資家ではありません。

会社の「株」と、畑で育つホップの「株」を掛け合わせた、参加型の応援制度です。

株主になると、与謝野町でのホップ収穫体験に参加でき、自分たちが応援したホップで造られた専用ビールも届けられます。

近年、大手ビール会社でも株主優待制度の見直しが進み、株主向け限定ビールの醸造を終了する例がある中で、自分が関わったホップから造られるビールを受け取れるのは、とても貴重な体験です。

近畿農政局も、株式会社ローカルフラッグによるホップ株主制度を、与謝野ホップのファンを増やすための取り組みとして紹介しています。

畑でホップに触れ、農家の仕事を知り、収穫したホップがビールになるのを待つ。

その体験を通じて、飲み手は完成したビールを購入するだけの存在から、産地をともに支える仲間になります。

ホップ株主制度 与謝野ホップの株主になって 自分たちのホップで作ったビールで乾杯しよう!|株式会社ローカルフラッグ

与謝野ホップの次の10年へ

2015年に始まった与謝野のホップ栽培は、10年を超える歩みを重ねました。

最初の5年間は販売先を絞り、信頼できるブルワリーに使ってもらうことで、与謝野ホップの評価を築いてきました。

次に必要なのは、その品質を守りながら、生産者が栽培を続けられる仕組みをつくることです。

農家同士が協力し、作業を効率化する。

反収を高め、収穫量を増やす。

組合員同士のつながりを生かし、必要な機械や人手を補い合う。

さらに、ホップを使いやすく、保管や流通の負担が少ない形に加工し、新しい用途や販路を探る。

そして、ホップ株主制度を通じて、飲み手にも産地へ参加してもらう。

与謝野ホップが次の10年へ進むために必要なのは、単に畑を広げることだけではありません。

栽培、加工、流通、醸造、販売までをつなぎ、ホップから生み出せる価値を広げていくことです。

国産ホップの未来は、農家だけがつくるものではありません。

ホップを使うブルワリーと、そのビールを選ぶ飲み手も、産地を支える一員です。

与謝野ホップの株主になって、自分たちのホップで造られたビールで乾杯してみませんか。

畑で摘んだ緑色の毬花を思い浮かべながら飲む一杯は、きっと、これまでとは少し違う味がするはずです。


主な参考資料

・農林水産省近畿農政局「与謝野ホップで造る『遊び心あふれるクラフトビール』」
与謝野町でのホップ栽培の開始年、生産量の推移、手摘み、真空冷凍、在庫管理、ホップ株主制度について参照。

・Journal of Stored Products Research
「Evaluation of the stability of hop pellets subjected to different storage conditions during three years」
ホップ加工品の品質と保存温度、包装条件との関係について参照。

・『Hops and Hop Products』収録「The processing of hops」
ホップを加工する目的や、保存、輸送、取り扱いにおける特徴について参照。

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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MJ

ビアジャーナリスト/Youtube JBJA Channelプロデューサー

ビールと昆虫とリコーダーと天然石が大好きです。JBJAではイベントサポートやBJAチューターも楽しんで取り組んでおります。人に寄り添う記事作成を心がけ、JBJA公式動画サイトJBJAchannelではMCを担当しております。
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