【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 155~蔵の才人と傾奇ブルワー、時を超えた仕込み 其ノ拾捌
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、完成間近!物語完結時に販売する予定です

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つるが出発するのは、あえて日の高いうちにした。つるは処刑されたことになっている身。どれだけ顔を隠したとて、何があるかはわからない。万が一に備えて闇に紛れられる夜の方がいいのでは……という意見もあったが、それでは別の危険性がある可能性もある。なにせ目立たぬよう、最少人数で行動をするのだ。
――誰がつると一緒に行くか。
散々話し合った結果、夏を呼び出すことにした。源蔵に憎悪を抱かれている直は論外。しかしそれは同様に小西にも幸民にも言えることだった。自分たちが酒蔵で“何かをしている”ことは、下の町に出入りしている源蔵の耳に入っている可能性がある。消去法的に、そして源蔵とも面識のある夏が選ばれたというわけだ。
「……夏を巻き込みたくはない」
つるは最後まで頑なに「一人で行く」と言い張っていたが、さすがにそれを許すものは誰もいなかった。村岡たちだってどう動いてくるかわからない。もしも何かあったとき、状況を知らせることができる誰かは絶対に必要だった。
「きっちゃあああああん!もうずっとずっとずっと会いたかったよーーーーー」
迎えに行った直と共に、夏は蔵にやってきた。扉を開けるなり、甲高い声で叫ぶ。
「わたし、ずっと我慢してたんだから。きっちゃんが泊まり込みで頑張ってる、だから邪魔しないようにしなきゃって……本当は毎日この近くまで来てたんだよ。でも覗いたら迷惑かなって思って、影からずっと入口だけ見ていたの」
鼻息荒く、夏は蔵の中を見渡した。
「でも全然会えなかったね……寂しかった。このあたりの道を歩いたりしたのかな、って砂を拾い集めて一緒に寝たりしてたんだから。でも!やっと会えるね」
「実はそのことなんだけど……」
直は、喜兵寿に関することの顛末を夏に話した。喜兵寿が牢座敷に捕らえらていることは、公にはなっていない。始めて耳にした事実に、夏の顔からは一気に血の気が引いていった。真っ白な肌は青くくすみ、唇は震え出す。
「……んな……えない」
「今まで黙っていて悪かった。心配させるだけだと思ったんだ。でも助けられるように全力を尽くしているから」
「……許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
夏は爪を激しく噛みながら、ぶつぶつと独り言を言い始めた。
「国の宝であるきっちゃんを、あんな不潔な場所に、あんなひどい場所に閉じ込めるなんてありえない。あの滑らかな肌を汚すなんて、お釈迦様の顔に泥を塗るようなもんじゃない
ああ、ありえない。小伝馬の牢座敷がなんだってのよ。どうやったら脱獄を手伝えるかしら。そもそもきっちゃんに危害を与える奴は、みんな滅びるべきなのよ……」
尋常ではない様子に、思わず幸民が話しかける。
「夏、喜兵寿を助けたければ、まずは正攻法で……」
「そうだよ、夏。脱獄なんて無謀だから!お兄ちゃんを助けるために、まずはびいるを造る必要があって……」
強く噛みすぎて、夏の指先からは血が流れていた。つるがその手を取ると、夏はハッとしたようにその目を見つめた。「落ち着いて」、そう訴えかけるつるの視線に、小さく頷く。
「うん、わかった。まずは源にいちゃん説得して酒樽をもらうことだね。そうしたらみんながびいるを造ってくれて、きっちゃんは牢座敷から出られる」
夏は、にっこりとほほ笑む。
「その後のことは、また考えておくね。じわじわ肌が崩れていく毒とか、だんだん声が出なくなる毒とか、今はいろいろあるらしいから……きっちゃんを貶めるやつには、ちゃんと罪を償わせなきゃね!」
夏の言葉が物騒はなはだしかった。お尻のあたりがぞわぞわして、直は思わずぶるりと身を震わせる。
「酒樽の件は任せて。必ずつるちゃんと一緒に、任務を遂行してみせるから」
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









