【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 157~蔵の才人と傾奇ブルワー、時を超えた仕込み 其ノ弐拾
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、完成間近!物語完結時に販売する予定です

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「源にぃ……ごめんなさい」
近づくと、源蔵はつるをかき抱いた。何度も腕の中のつるを確認するように力を込め、そのたびに「よかった」と呟く。泣き続ける源蔵の腕の中は、びっくりするほどに熱かった。
どれくらいそうしていただろうか。源蔵は深く息をつくと、つるの目を見ていった。
「伊丹に帰ろう」
握りしめたままだった手に、痛いほどの力が入る。
「え……?」
「家へ帰るんだ。ちょうどもうすぐ、伊丹へと向かう船が出る」
「ちょっと待って。わたし帰らない!」
つるは慌てて源蔵の手を振りほどこうとするも、びくともしなかった。
「離して!今日はそのために来たんじゃない!わたしは伊丹へは帰れない。びいるを完成させなきゃいけないの。話を聞いて!」
びいる、という単語を聞いた途端、源蔵の気配が変わった。
「ふざけるな」
声に明らかな怒りが滲み、口調が荒くなる。
「こんな状況なのに、まだ酒造りの話をしているのか!この馬鹿者が!自分がどれほど危ない目に遭ってるか、よく考えろ。ふらふらしてるから、こんなことになるんだ!」
源蔵の怒鳴り声は恐ろしく、空気さえ震えるようだった。それでも、つるは唇を噛みしめ、顔を上げる。
「考えてるよ!考えているからこそ、びいるを造らなきゃいけない。お兄ちゃんが捕まってるんだよ。助けなきゃ」
「はあ?何を言っているんだ、お前は」
「だから喜兵寿が捕まってるの。小伝馬の牢座敷に!」
「それと酒造りとは関係ないだろう!わけのわからんことを言うな!」
「わけわからん事いってんのは、あんたでしょうが!」
二人の言い合いを切り裂くよう、ドスの効いた声で叫んだのは、夏だった。普段のかわいらしい声が嘘のように、低く唸るようにつなげる。
「びいるが完成しなきゃ、きっちゃんが殺されるんだよ。国の宝、神にも勝る造形美。そのきっちゃんが死んだら、あんたどう責任とれるの?とれるわけないよね」
夏はじりじりと源蔵に近づき、下から睨みつける。獰猛な獣が獲物を射抜く寸前のような眼光。一歩でも遮ったら噛みつかんばかりの気迫で、言葉を畳みかけるように続ける。
「まずさ、つるちゃんが危険を冒してまでなぜここに来たか、その理由を考えてみなよ。人の話を一つも聞かないで、力と怒鳴り声でねじ伏せようとする。……はっ、頭、沸いてんじゃないの?
いい?びいるを仕上げることと、きっちゃんを助けることは、もう切っても切れないの。
あのイカれた村岡のせいでね。だからその話をするために、ここまで来たの。つるちゃんもきっちゃんも、あんたの大事な兄弟でしょう?だったらまずは黙って話を聞けよ」
「わ、わかった……」
夏に威圧され、源蔵は頷いた。
「よかったぁ」
すると夏は態度をくるりと変え、にっこりとほほ笑む。
「さすがきっちゃんのお兄様。よかったね、つるちゃん!あ、改めまして将来きっちゃんのお嫁さんになる予定の夏と申します。どうぞお見知りおきを。では、わたしは角のお茶屋さんにいるので。二人でゆっくりと話してくださいね」
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
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