生まれ変わったワールドKANPAIビール🍻サントリーの担当者直撃&実飲リポート

あなたは、どんなビールが好きですか?
世界中の人に好みを聞き、その声をもとに新商品を造る。そんな大がかりなプロジェクトが、大阪・関西万博を記念して行われました。
手がけたのはサントリー。93の国・地域に暮らす2万8521人へのアンケートをもとにビールを醸造し、9月に「ワールドKANPAIビール」を発売しました。
世界の人は、どんなビールが飲みたいと答えたのか?そして完成した製品の味は?ビール開発の裏側に迫ります。
始まりは「ベースのビール」

今回、話を聞いたのはサントリー (株) 未来開発部の瀬尾梨紗子さん。未来開発部は新しい需要やビジネスの創出を目指す部署で、ワールドKANPAIビールをつくるプロジェクトの司令塔です。
まず商品の特徴を聞くと…
これまでもお客様参加型の商品はありましたが、今回は物づくりに参加しやすくするため「ベースのビール」があったことがポイントです。
実はワールドKANPAIビールには、世界の人の声を集めるために大阪の万博会場や羽田空港などで限定発売されたベースのビールがありました。それがこちら。

ワールドKANPAIビール(ベースのビール)
筆者が驚いたのは、味や香りを示すレーダーチャート(六角形)がまっさらなこと。反対側には「あなたの声で生まれ変わるよ」というメッセージが書かれています。
つまりベースのビールは、生まれ変わる前にお客さんの声を聞くための“叩き台”なのです。

飲んでみると、麦芽やホップの香味はかなり控えめでした。ベース(叩き台)なので、あえて突出していないものを造ったのでしょう。
唯一、炭酸の刺激が少し強めで、造りかえるとしても「同程度」か「少し弱い」くらいがいいなと感じました。
ベースのビールを飲んだ人は、缶のQRコードから専用サイトにアクセスできます。

ここに、香りや味など6項目について「少し爽やかに」や「かなり濃く」など、どう造り替えてほしいか入力していきます。
すると六角形のレーダーチャートに「自分の回答」「平均回答」「ベースのビール」が表示されます。

ピンク=筆者の好み。しっかりした香味が好きなので、大きな六角形になっています。
青の線=ベースのビールは、やはり全ての要素が「中ぐらい」です。
黄色の六角形=回答者の平均値。この画像は日本人の平均です。
日本人の平均はベースのビールに近い六角形。唯一、チャート右上の「刺激(炭酸)の強さ」が少し飛び出しています。
サントリーでは「日本人は限りなくベースのビールに近くなるのでは」と予想していましたが、強い刺激を求める声が多かったのは「けっこう意外だった」と打ち明けてくれました。
こうしてアンケートに答えた人は、サントリー側とLINEでつながることができます。すると商品開発レポートなどの限定コンテンツが送られてきます。

商品開発レポート第1弾 アンケート集計の中間発表
ビールを飲み、アンケートに答え、新商品づくりの進捗がメーカーから送られてくる。こうした仕組みで「よりお客様の愛着がわいて、エンゲージメント=つながりを高める」ことを目指したと瀬尾さんは言います。
世界のビール好きの意見は?
上の画像(商品開発レポート)は5月7日時点の中間発表ですが、取材でアンケートの最終結果を聞くことができたので紹介します。
◆ 回答者数: 2万8521人
◆ 国・地域数: 93
参加者の多い順に並べると
1.日本
2.韓国
3.アメリカ合衆国
4.台湾
5.オーストラリア
6.中国
7.カナダ
8.ドイツ
9.シンガポール
10.アルゼンチン
日本人の回答結果は先ほど紹介したので、今度は海外の人の好みを分析してみます。
まずは2位の韓国と3位のアメリカ。それぞれの平均値(黄色の六角形)は、似ているようで少し違います。

共通点は「刺激(炭酸)を少し強く」と答えたこと。そして「苦みが控えめ」なビールを求めていること。それ以外は、右のアメリカ人の六角形が大きく、少し香味や味の濃さ、アルコール感が強いのが好みのようです。
続いて4位の台湾と5位のオーストラリア。

ここでもチャート右上の「刺激の強さ」は、ベースの青い線より少し飛び出しています。ただ台湾は「味の濃さ」以外は、ぐっと控えめなビールがお好きな様子。
6~10位も同じ傾向で、アジア人は少し控えめなビールを求め、欧米の人は少し強い香味が好きだと回答していました。
※ビール大国のドイツ・チェコ・ベルギーの分析結果は、前回の記事に掲載してあります
ちなみに10位以内に入っていませんが、目をひいたのはこちらの国々。

いびつな六角形ですよね。普段どんなビールを飲んでいるのでしょうか… 一緒にベースのビールを飲んで語り合いたくなりました。
※アンケートは英語版もありましたが、英語が母国語でなかったり、回答者が少なかったりした国は偏った結果になった可能性もあると思います
アンケート分析で思わぬ発見が
こうして様々な人にアンケートを行ったサントリーの瀬尾さんたち。なるべく多くの声を反映させるために参考にしたのは「参加者全体の平均回答」です。そうしないと収拾がつかなくなりそうですもんね…

黄色線=参加者全体の平均
当然、平均値は回答数の多かった日本人のものに近くなります。ただ気になるのは、サントリー側も意外だったという刺激(炭酸)の強さを求める声の「真意」。
そこで瀬尾さんたちが活用したのが、アンケートにあった「自由記述」。味や香りについてコメントを書いてもらっていたのです。

日本語だけでなく、英語や現地の言葉で書かれたコメントを翻訳。ビールの開発担当者とデータ分析の部署でひとつずつ丁寧に読み込んだところ、ある発見が!
サントリー未来開発部 瀬尾梨紗子さん
お客様が「刺激」と捉えていたのは、炭酸だけではありませんでした。コメントを読んでいくと「香り」や「飲み応え」も刺激と捉えていることが分かったのです。
「いや…香りと刺激は別モノだよ」と思う人もいるでしょう。さらに、詳しい方ならアロマとフレーバーの違いや、麦芽・ホップ・酵母それぞれに由来する香りを感じ分けられます。
ただ普通の人は「もっとガツンときてほしい」ぐらいの感覚で「強い刺激を」と回答した可能性はあると思います。
※アロマは鼻で感じる香り。フレーバーは「舌で感じる味」と「口から鼻に抜ける香り」を合わせた感覚です
そこでサントリーでは、自由記述で「爽快感が良い」という意見も多かったこともあり、ベースのビールの刺激=炭酸は強化せず同程度に維持することを決めました。
また感覚的に書かれたコメントを手がかりに、お客さんは「より芳醇な香り」と「飲みごたえ」を求めていると読み取りました。

こうした分析を踏まえ、ビールの開発担当者は使用するホップの品種を見直し、麦芽の量などを調整。試作や官能検査を経て、ワールドKANPAIビールを生まれ変わらせたのです。
徹底比較!新旧ワールドKANPAIビール
それでは、新旧のワールドKANPAIビールを比べていきます。名前はどちらも同じなので、写真右の生まれ変わった方を「完成品」と呼びます。

左:ベースのビール 右:完成品
まずは缶のデザイン。ベースのビールは薄いシャンパンゴールドが基調で、シンプルな見た目です。
一方、完成品は同じ金色でも濃いゴールド。そこにパッチワークのように「少し豊潤に」「苦く」といった声が、回答の割合に応じて様々なサイズで配置されています。まさに世界の人の声を集めて造ったビールというデザインです。

左:ベースのビール 右:完成品
アルコール分は、完成品の方が少し高い5.5%。これはアンケートで「アルコール感を強く」という回答が多かったわけではなく、飲み応えを強化したことで0.5%増になったとのこと。なお、カロリーや糖質などは微妙に減っています。

左:ベースのビール 右:完成品
缶底の製造所固有記号は、いずれも「+E」なので京都の工場で造られています。大阪・関西万博を記念したビールなので、近くで醸造しているのでしょう。
それではお待ちかね、「中味」の比較です!ベースのビールと完成品は製造が5ヶ月離れているので、そこは差し引いてお伝えします。

【ビールの色】全く一緒に見えます。
【香り】ベースのビールは控えめながら、どちらかというと麦芽の香り。完成品はホップを多く使ってそうな、華やかなアロマがほのかに漂います。
【炭酸】炭酸の強さは「維持した」と聞いていたとおり、どちらも同じぐらいで若干強めに感じます。
【フレーバー】ベースのビールより完成品の方がホップが効いていて、軽く苦みがあります。飲み込んだ後にフワーッと華やかさを感じます。
なお完成品は適温が高そうです。冷蔵庫から出して少し時間を置くと、南国フルーツのようなフレーバーが出てきました。冷えている時とは「違うビール」のようで驚きました。
もう飲んだ方も、まだの方も、完成品を2つ買って温度違いの飲み比べをすると面白いと思います。
【販売場所】ベースのビールは販売終了ですが、完成品は大阪・関西万博の会場を始め、全国のスーパー・コンビニ・ドラッグストアで発売されています。
また楽天市場でも購入できます。
【容量】ベースのビールは350mlのみでしたが、完成品は350mlと500mlで展開されています。いずれも数量限定なので、気になる方はお早めに!

サントリー (株) 未来開発部 瀬尾梨紗子さん
最後に、今回のプロジェクトを率いた瀬尾さんにメッセージを頂きました。
まずは、ベースのビールを飲んだことが「ある」方へ。
ぜひ完成品を買ってほしいと思います。皆さんが感想を寄せてくださったビールが、どう生まれ変わったのかを確かめて楽しんでください。
そして、ベースのビールを飲んだことが「ない」方へ。
世界2万8千あまりの人がどういうビールを求め、どう生まれ変わったのかをぜひ体験してください。「お客様参加型」のプロジェクトは第2弾も行う予定なので、次回はぜひ参加して自分の声を物づくりにいかしたいと思ってもらえれば嬉しいです。
プロジェクトの第2弾はビールを扱うのか、それともウイスキーか、はたまた… サントリー未来開発部の新しい試みを、楽しみに待とうと思います!
プロジェクトのHPはこちら
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。







