【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 129~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ弐拾参
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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ビール醸造のために、麦汁の代わりとなる甘い汁があればと思っていた。日本酒の醸造工程でそれを見つけることが出来ればと思っていたが……そうだ甘酒があるじゃないか。
大きなピースが頭の中でパチリとハマる。それと同時に自分の中の醸造知識や経験がものすごい勢いで回りだすのを感じた。
直はその場でぴょーん、ぴょーんと飛び出した。最初はゆっくりと、次第にリズムを刻む。
麦芽を糖化し麦汁にするのは、麦芽に含まれるでんぷんを酵母が食べられる糖にするためだ。では甘酒はどうだ?
「なあ喜兵寿、甘酒はどうやって造るんだ?」
直は目をつぶったまま、喜兵寿に話しかける。
「お前はいつも突然……甘酒って、甘酒売りの売っている甘酒か?」
「甘酒売りなんてのがいるのか!よくわからないけど、甘酒は甘酒だろうから……それで」
「俺たちが今つくっている米麹があるだろ。これに水を混ぜて、いい温度で置いておけば麹甘酒ができる」
全く訳がわからない、といった感じながらも喜兵寿は答える。
「ん、さんきゅ」
直はジャンプを続けながら、ここ数日付きっきりになっていた米麹つくりの工程を思い出す。
米を洗い、蒸す。そしてそこに種麹を振り掛けることで発熱する。そうやって出来上がるものが米麹であり、それに水を加えることで甘酒になる。
この過程で砂糖などの類全く出てこない。でも甘酒はあまい。つまり……
直は口の中でブツブツと言いながら、ひときわ高く飛んだ。
米麹になった時点で、米に含まれているでんぷんが糖に代わっているのかもしれない。推測でしかないが、麹にはそれができる酵素があるのだろう。
だとしたら、甘酒に酵母を入れることで二酸化炭素とアルコールが発生する可能性があるということだ。
麦汁は甘酒に置き換えることができる。そこにホップと酵母をいれば「江戸ビール」が理論的にはできることになる。
「よっしゃ、がっつりイメージできた!」
直は大きくガッツポーズをすると叫んだ。
「みんな喜べ!これでビールができるぞ!」
しかし直の盛り上がりに対し、麹室にいる全員が困惑顔だった。それもそうだ。いきなり「甘酒だ!」と騒いだかと思えば、何度も跳ね、そしていきなり「みんな喜べ!」だ。
何がなんだかわからず、ぽかんと見守るしかなかった。
「直よ、なにやらすごい発見をしたようだが……ワシらにもわかるように説明してくれんか」
小西が唇を噛みながらいう。直の百面相がツボに入ったらしく、笑いを堪えるのに必死だった。
「もちろん!ってか聞いてくれよ!そもそもビールっていうのは……」
直が江戸ビールについて説明を続ける。それは突拍子もないものだったが、皆の目はどんどんと輝いていった。醸造知識のない、ねねと甚五平でさえも「なんだか面白そうだな」と前のめりになる。
「つまり甘酒が、あのしゅわしゅわと跳ねる液体になるということなのだな?」
喜兵寿が信じられない、といった表情でつぶやく。
「そうそう!あ、味は甘酒のように甘くはないけどな。甘酒の甘い部分は酵母が食べて、しゅわしゅわを生み出すわけだから」
「お前の話すことはすべて夢物語のようだな。でもびーるとはそもそも我らが飲んだこともない飲み物。夢物語も夢ではないのだろう」
小西は大きくひとつため息をついた。
「あぁ、こんなにも胸が躍るのは久しぶりだ」
その言葉に喜兵寿も、つるも深く頷く。
「それでは、まずはこの麹を完成させてしまおう」
楽しそうに跳ねる直に、興奮をぐっと抑え込むように背筋を正す喜兵寿たち。心なしか麹室の温度も少し上がったような気がした。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









