【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 128~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ弐拾弐
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

「やっぱり村岡の手下か……」
喜兵寿が怒りで顔を真っ赤にしながらいう。つるに罪を被せ、座敷牢に閉じ込めた張本人。堺からの船で嫌と言うほど味わった気持ちが、再び蘇ってくる。
「ふざけんなよ。つるが一体何をしたっていうんだ!」
怒りで震える喜兵寿を見て、小西はその肩をそっと叩いた。そして金ちゃんに向かって頭を下げる。
「つるがここにいるかもしれない、と向こうが思っている以上、下手に動くのは危険だ。すまんがここで寝泊まりさせてもらえないだろうか?」
「そうねぇ~どうしようかしら」
金ちゃんはめんどうくさそうに伸びをする。
「金が必要ならワシが出す。条件を提示してくれ」
その言葉に金ちゃんは「ちょっとぉ~」と声をあげて笑いだした。
「わたしだって金の亡者じゃないんだからぁ。この蔵を貸し出すお金はもらっているわけだし、好きに使ったらいいわよ~。泊まろうと、何しようと勝手にどうぞ♡」
「かたじけない」
「あ、ただし布団はないわよ~?まぁ屋根はあるわけだし、問題ないわよねぇ」
にっこりと笑う金ちゃんを横目に、直は喜兵寿にそっと耳打ちをする。
「いや、どう考えたって金の亡者だよな」
「……」
「だって300両ってすごい金額なんだろ?布団ぐらい貸してくれたっていいのにな」
「……うむ」
「ちょっと!そこ聞こえてるわよ!」
身体の大きな金ちゃんがすごむと、なかなかの迫力がある。おまけにド派手な衣装を着ているからなおさらだ。直と喜兵寿は怒られた子供のように姿勢を正した。
「まったくぅ。あんたたちといると本当疲れるわぁ~。こんな夜更けに叩き起こされるし、お肌に悪いったらありゃしない」
「でもまあ、いい男には出会えたけど♡」甚五平にうふふっと笑いかけると、金ちゃんは麹室の戸を開け出て行った。
「わたしは甘酒でも飲んで寝るわ。あとは勝手にやってちょうだい」
金ちゃんが出ていくと、部屋の中の空気が一気に緩むのがわかった。別に金ちゃんに威圧感があったわけではないが、身内だけになったことでやっと「終わった」と胸を撫でおろすことができたのだ。
「本当につるが無事でよかった」
「ねね、甚五平本当にありがとう」
そんな会話が繰り広げられる中で、直は頭の中に生まれた「ひっかかり」に集中していた。今の一連の流れの中で、必要だと思ったものがあったのだ。それは小さな違和感だったが、絶対に無視してはいけないものだと直感が言っていた。
「あら、わたしと麹の作り方ちょっと違うのね~」「でもさすがうちの種麹」……直は先ほどの会話を思い出していく。
作りかけの種麹に、少し汗ばむくらいに暑い部屋。つるは狙われていて、でも生きていてここに泊まり込みで麹をつくることになって
しばらく逡巡した後、直は「あ!」と大きな声をあげた。
「そうだ!甘酒だ」
突拍子もない発言に、皆は何事かと直を振り返る。
「この時代にも甘酒はあるんだな!ってか喜兵寿、甘酒ってあまいよな!?」
「いきなりなんの話だ?」
「いいから!甘酒ってあまいよな?」
「……そりゃあ甘酒っていうくらいだからな」
「だよな!」
直はガッツポーズをすると、喜兵寿に駆け寄った。
「甘酒だよ!ビール造りに必要なのは甘酒なんだよ!」
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
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