【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 130~守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ弐拾肆
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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出来上がった米麹は、それはそれは美しかった。白みがかった小さな世界に、力強い命が宿っている、そんな何とも言えない不思議な美しさだった。
つるは最後の手入れをしながら、うっとりと指先から零れ落ちる米麹を見つめた。それはまさに「生き物」だった。自ら動くことも、言葉を発することもなかったが、そこには確かに命があった。
(あぁ、なんて幸せなんだろうか)
ずっと麹をつくってみたかった。ふと、幼き頃にこっそり覗いた酒蔵を思い出す。熱気あふれる男たちの姿、掛け声。見ているだけしかできなかった酒造りに、形は違えどいま参加することができているのだ。その事実が震えるほどに嬉しかった。
「ってかつるさぁ、さっきからめちゃくちゃニヤニヤしてんじゃん」
直が嬉しそうにつるの顔を覗き込む。
「よかったなぁ~酒造りできて。俺のおかげだよなぁ」
「調子に乗るな。ちなみに危険な目にあったのもお前がきっけだろ」
甘酒に必要な蒸し米をつくるため、竈に行っていた喜兵寿が戻ってくる。
「ってか、そろそろ見張り交代の時間だろ。ねねたちと変わってやれ」
居場所がわかってしまった以上、また誰かがやってくることも十分に考えられる。どこかから忍び込んでくる可能性も考え、交代で見張りをすることにしたのだ。
「もうそんな時間か。おっけー!行ってくるわ」
「竈に握り飯をつくっておいた。ねねたちと一緒に食べたらいい」
「やった!ひさびさの喜兵寿の飯~」
目を輝かせる直に、喜兵寿は「いやいや」と首を振る。
「ただの塩むすびだ。誰がつくっても変わりはないだろ」
「しおむすび~!しおむすび~!」
るんるんで部屋を出ていこうとする直に、小西も声をかけた。
「見張りは一人より二人がいいだろう。ワシも一緒に行こう」
直と小西は連れ立って麹室を出た。ずっと室温の高い麹室にいたからだろう、ひんやりとした蔵の空気に盛大に身震いをする。いつの間にか夜は明けていたようで、蔵の小窓から見える空はぼんやりと明るかった。
蔵の中を見回っていたねねと甚五平は、直たちを見つけると「何事もなかったよ」と小さく手をあげた。
「悪いんだけど、うちの船はもうすぐ出港しなくちゃあならない。本当は甚五平を置いていてたらいいんだろうけど……そういうわけにもいかなくてね。あんたたちだけで大丈夫かい?」
心配そうに麹室を気にするねねに、小西は深く頭を下げた。
「こちらのことは大丈夫だ。今回のこと、本当に恩に着る」
「ちょっ!もういいですって!」
ねねは慌てて自分も頭を下げる。
「むしろわたしのほうが返しようのない、でかい恩もらってるんで!あの日、助けていただかなかったら、今頃まだ堺で吊るされてたかも……」
「こわやこわや」とねねは肩をすくめる。
「まだまだこのご恩、返していきますからね!大したことはできませんけど、新川屋の樽廻船ならいつでも出しますよ」
「ねねにはここまで乗せてきてもらった。もう別になにもいらないよ。でも堺に帰る時にはまたよろしく頼む」
小西はそう言って、まっすぐにねねを見つめた。
「この時期の海は荒れる。気を付けて行きなさい。次にまたここに戻ってくるときには、うまいびーるを共に飲もう」
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