音楽を誘うビールVol.3 甘夏ペールエールが運ぶ故郷の声
水俣で育った甘夏(あまなつ)を使い、故郷の温もりが詰まった「甘夏ペールエール」。香り高く甘夏のほろ苦さが広がるビールは、離れて暮らす私へ優しく語りかけてきました。

満開の桜に抱かれた福田農場から、春色にきらめく海を見下ろす 画像提供・Halca
春の不知火海を見下ろして
四月の初めに訪れた、故郷・熊本県水俣市の福田農場。不知火海(しらぬいかい)を望む急峻な斜面には、みかんや甘夏の果樹園と、満開の桜が広がっていました。
前回、この福田農場のビール「不知火海浪漫麦酒」を取材したのはもう五年前のことです。
私が子どもの頃から、ここはみかん狩りや遠足の定番スポットとして親しまれてきました。
やがて果物を使った加工品づくりが進み、先代の福田興次社長は、地中海を望むスペイン・アンダルシア地方と、不知火海を望む福田農場の風景や気候がよく似ていることに着目。水俣を明るい街にしたいという思いを込め、この地を「スペイン村」と名付けました。
今では、「スペイン村」は市民に広く知られ、水俣の外せないスポットとして定着しています。白壁の建物が並ぶレストランやパン屋、売店、と、不知火海の絶景が調和するこのエリアは、多くの人が訪れる人気の観光地となりました。
さらに、4種類の「不知火海浪漫麦酒(しらぬいろまんビール)」が発売され、水俣の魅力が詰まったビールとして、愛されてきました。

左から、ソレイユ(ヴァイツェン)、カルメン(アンバーエール)、ケセラセラはちみつ浪漫(ハニービール・発泡酒)、ケセラセラあしきた黒糖浪漫(スタウト)
そこに、一昨年新しく加わったのが甘夏ペールエールです。
「元気でいるか」と問いかける、黄金色のビール
甘夏ペールエールは、水俣産の甘夏ストレート果汁を贅沢に使い、シトラスの香りとほどよい苦味が楽しめるビールです。

甘夏ペールエール
原材料:麦芽(英・独製造)、甘夏果汁、ホップ
Alc:5.0%
不知火海浪漫麦酒の醸造を担うのは、服田(はらだ)浩明さん。
「これからの季節は甘夏ペールエールをたくさん楽しんでいただきたいですね」と、優しい笑顔で語ってくださいました。

醸造担当 服田(はらだ)浩明さん 画像提供・Halca
敷地内にあるレストラン、バレンシア館で、甘夏ペールエールを味わいました。

甘夏ペールエールは、シトラスを思わせる3種のアロマホップと、自社加工所で搾った甘夏ストレート果汁を贅沢に使用し、果実感がしっかりと感じられる一杯。
甘夏特有の爽やかな柑橘香と、ホップの心地よい苦味が重なり合います。
特に「ムール貝のあまなつサングリア蒸し」との相性は抜群で、思わずグラスが進みます。
窓の外を見ると、そこに広がるのは、懐かしい故郷の海と桜。
その景色に重なるように、さだまさしの「案山子」のメロディがふと浮かび、まるで目の前の海と桜から優しく呼びかけられているような気がしてきました。

画像提供・Halca
「元気でいるか……。寂しかないか……。」
「案山子」で歌われるのは、都会へ出た子供を想う親の心。ただただ真っ直ぐな、故郷からの「愛」です。
東京に戻って、慌ただしい一日を終えて、冷蔵庫の甘夏ペールエールを開けた瞬間、私は思い出すに違いないのです。
今見ている海の青さと、桜の淡い色──私を育ててくれたこの風景。
その一杯は、学生の頃、母から届いた手紙のように、静かに体に染みていくのでしょう。
「元気でいますか。今度いつ帰るの」
遠く離れた場所にいても、甘夏ペールエールは、あの日の景色をまるごと思い出させてくれるのです。
“美味しいビール”には、人を一瞬で「あの時、あの場所」へ連れ戻す力があります。
水俣の海と桜の記憶を、そのまま瓶に閉じ込めたような一杯──それが甘夏ペールエールです。
「循環」という名の、明日への種まき
甘夏ペールエールは、福田農場が実施する「水俣応援プロジェクト」の対象商品です。
対象製品を1本購入するごとに10円が水俣の観光振興や景観保全のために寄付されます。

地元の素材でビールを作る→売上が地域に還元される→その利益でまた甘夏が育ち、次のビールへ繋がる。
地域を元気にする「循環」の仕組みです。
ビールを一杯飲む。その何気ない行為が、実は水俣の美しい山と海を守る一助になっている。そんな循環の輪に加われることも、このビールの大きな魅力と言えるでしょう。
そして、「自分たちにしかできないのは、生産者の『顔』が見える形で原料から作り上げることなんです」 —-そう語る、福田農場 代表取締役福田豊樹さんの言葉には、水俣という地が経験してきた苦難の歴史と、それを乗り越えて「安心・安全で、誇れる食」を育んできた自負が滲んでいました。
これは、単なるビジネスモデルの話ではありません。この土地の風景を守り、次世代に繋いでいくための「祈り」に近い活動です。
「昔来たときよりも、ずっと種類が増えましたよね」と、訪れるお客様も笑顔を見せます。ビール以外にも、サングリア、他にもパン・ジャム・100%ストレート果汁、など他にも加工品という形で、素材の可能性を広げる試みも、着実に実を結んでいます。
海と甘夏の物語へいざなう一杯
「甘夏ペールエール」をどんなふうに楽しんでほしいのか—-福田さんは穏やかに語ってくださいました。
「お客様に感じてほしいのは、単に『飲んで美味しかった』という味の感想だけではありません。このビールを造っている福田農場には、こんなに美しい景色があるんだということを知ってほしい。景色まで含めて、味わっていただきたいんです」
甘夏の爽やかな香りの奥には、水俣の風土とともに歩んできた福田農場の物語が息づいています。
このビールを飲むことで、いつでも私はこの風景の中に立つことができるのです。

画像提供・Halca
もしあなたが今、少し疲れているのなら。
あるいは、遠く離れた大切な誰かを思い出しているのなら。
福田農場の「甘夏ペールエール」を手に取ってみてください。
そこには、水俣の太陽を浴びて育った甘夏の輝きと、生産者の温かい手、そして「いつでもここに帰っておいで」と微笑む「案山子」の歌のような優しさが詰まっています。
「元気でいるか」
懐かしい人の問いかけに、無言で頷ける時間が、このビールの中に流れています。

画像提供・Halca
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









