[コラム,ビアバー,ブルワー]2021.6.9

音楽を誘うビールvol.1:Bar BACKYARDで飲む、ミュージシャンとの「Session」

ビールを飲んで、音楽を感じた経験はおありだろうか。「ブルーノート東京」にある「Bar BACKYARD」(裏庭、行きつけの場所)という名のバー。天井の特製スピーカー、壁一面の出演ミュージシャンのタイル、そしてオリジナルビール「Session」は、音楽を誘うビールだ。何がそうさせるのか。ジャズクラブに直結したバーで飲むビールの味とは。

BarBACKYARD エントランス

(画像提供 ブルーノート東京)

地下の非日常空間で待つオリジナルビール

「シンデレラはわざとガラスの靴を忘れた」――、と言ったのは作家の中谷彰宏氏だった。

「私は必ずここに戻って来る」。シンデレラにそう思わせたお城は、どんな非日常の空間だったのだろう。

東京・青山にある「ブルーノート東京」は、今秋33周年を迎える老舗ジャズクラブ。ここはまさに”都会の中のお城”といえるだろう。

通りに面したドアを開けた途端、トニー・ベネット、ハービー・ハンコック、B.B.キングといった、これまでに出演した大物ミュージシャン達の大きな顔写真に包まれる。ブルーノートに足を踏み入れた感慨に浸る間もなく、体は地下の非日常空間へと向かう目の前の階段に吸い込まれていく。

(画像提供 ブルーノート東京)

この階段を降りた先に、Bar BACKYARDが静かに佇んでいることをご存知だろうか。

ここではオリジナルビール「Session」が待っている。

サイドメンとしての「Session」

「Session」は、株式会社ブルーノート・ジャパンと木内酒造の共同開発で生まれた。開発に携わったバーテンダー、五十嵐康輔さんによると、多くの人に広く飲んでもらえるように低アルコールで、それでいてホップがきいた印象に残るビールをと、「セッションIPA」スタイルにたどりついたという。

オリジナルビールのほか、その日のミュージシャンのライブの時だけの思い出に残るオリジナルカクテル作りも、五十嵐さんが関わっている。
(画像提供 ブルーノート東京)

ビールの名として名付けられた「Session」は、音楽用語でいうアンサンブルの「SESSION」と、ビールでいうアルコール度数や苦みが穏やかなスタイルを指す「セッション」の二重の意味を持たせている。

「常陸野ネストビール」で知られる木内酒造の木内洋一社長は、ブルーノート側の意見を聞きながら「主張しすぎない、邪魔をしないビールを」イメージし、ビアスタイルやフレーバーを決めていった。社長自身は、インコグニートのファンだという。

ジャズクラブのビールは、どんなサウンドにも、どんなお料理にも合うようにと造られた。バンドで例えるならば、メインプレーヤーを支える「サイドメン」でいこう、ということだったのだろう。

木内酒造 木内洋一社長
(画像提供 木内酒造)

BACKYARDに包まれて

その日は、ブルーノートでのライブのない日の昼間だった。ライブがある日のBar BACKYARDはいつも、ライブ前後のひと時を過ごす人々で賑わっている。しかし、この日の店内は私が来るのを静かに待っていてくれているように見えた。まるで手招きされたかのように、私は空いていた奥の席に腰を沈めた。

横の壁には、ブルーノート東京に過去出演した、約300人のライブ中の顔写真がディスプレイされている。その中には、もう会う事は叶わないミュージシャンもいる。

目を惹くのは、ミュージシャンの写真だけではない。奥の席に座っても、音楽が心地よく響いてくる。スピーカーはカウンターにしか見当たらないのに、この音はいったいどこから聴こえてくるのか。そう思いながら店内を見回して驚いた。天井に仕掛けられたユニークな黒い物体が音源だったのだ。

このスピーカーは、「田口音響研究所」に依頼したオリジナルなのだという。楽器の暖かさを感じられるように、また、音に包まれる空間になるように配置されている。その日のライブのミュージシャンの曲はもちろん、お客様に合わせた曲をセレクトして流している。

Bar BACKYARDでは、時間がゆっくり流れるかのような錯覚を覚える。いま何時で、自分はどこの国にいるんだろう。不思議な気持ちになりながら、「Session」をオーダーする。バーテンダーの前田穂高さんが、口当たりのよいきめ細かい泡になるよう、丁寧に注いでくれた。

(画像提供 ブルーノート東京)

Bar BACKYARDでもブルーノートのフロアでも「Session」はとても評判がよく、ビールのオーダーのほとんどが、この「Session」らしい。その気持ちはよくわかる。柑橘系の華やかな香りに心が開き、ライブもより楽しくなる。

このバーには、キャンディ・ダルファーやインコグニートのメンバーなど、出演ミュージシャンがライブ後に立ち寄ることもあるという。故・かまやつひろし氏も、ひとりの客として時折現れていたらしい。壁面には古材を使い、まるでずっと前から存在していたかのようなこのバーに、氏が溶け込むように飲んでいたであろう姿が目に浮かぶ。奏でる側にとっても聴く側にとっても、一息つけるバーなのだ。

「Session」が聴かせてくれた音楽

ライブの前後も、ライブが無い日も、「Session」がテーブルに置かれると、いつも私の頭の中ではヘレン・メリルが歌う『YOU’D BE SO NICE TO COME HOME TO』のイントロが始まる。短いイントロが終わり、ヘレンが歌い出すと同時に私は「Session」をまず一口飲む。冷たく爽やかでちょっとだけ刺激的な訪問者に、私の喉と食道が主張し始める。それが、私とヘレンのSESSION(アンサンブル)が始まる合図だ。

その日もヘレンとのSESSIONに身を委ねながら、私はおととしブルーノートで堪能した、堺正章のファーストステージを聴いた日の事を思い出していた。ロックンロールメドレーで全力でシャウトする彼もかっこよかったが、ラストの歌には胸がしめつけられ、私の目に映るステージの彼の姿は次第にぼやけて滲んでいった。『街の灯り』は、数年前、母が亡くなる前日の夜、二人きりの病室で繰り返し母と聴いた歌だったから。

すぐには帰りたくなくて、終演後そのままBar BACKYARDに寄った。「Session」を一杯飲み、最後に少し残る苦みの余韻が心地よいまま、バーから一歩出た瞬間だった。セカンドステージで今、彼が歌っている『朝日のあたる家』が階下にあるライブ会場から聴こえてきて、足が止まった。その声はファーストステージのライブで正面から聴いたのとは違って、私を足元から優しく包み込んでくれるかのようだった。彼の歌声に後ろ髪を引かれながら、私は一段一段、現実世界へ戻る階段を上った。

こんな贅沢なお見送りのBGMがかかるバーを、私は他に知らない。

私がシンデレラなら、ガラスの靴を忘れるのはこの階段だ。

階段の真ん中を少し過ぎたあたり、左上にチック・コリアの笑顔を見ながら、右の靴をわざと忘れて駆け上がる。

王子様が迎えに来なくてもいい。

「忘れ物しちゃいました」と自ら、「Session」が待つバーに戻ればいい。

 

Bar BACKYARDに入れば、私にだけヘレンの歌声が聴こえてくる。

♪YOU’D BE SO NICE TO COME HOME TO

「ここにもどってきたから、ほら、あなたご機嫌(NICE)でしょ」

 

彼女が引退のライブで歌った、この曲の「HOME」とは、「Bar BACKYARD」のことだったんだ、きっとね。

 

ブルーノート東京オリジナルビール「Session」

【スタイル】セッションIPA
【アルコール度数】4.5%
【色】ゴールド
【印象】柑橘系のホップの香りと苦みが印象的。穏やかな甘みですっきりした味わい。
【提供時温度】7~8℃
【内容量】330ml
【価格】 ¥1,210(税サ込)
【提供場所】「ブルーノート東京」、「Bar BACKYARD」、他ブルーノート系列店でも飲むことができる。

<BlueNoteTokyoTV>


HELEN MERRILL – Farewell SAYONARA Concerts -@BLUE NOTE TOKYO

Special Thanks
ブルーノート東京・クラブマネージャー  田中奈津子氏

Bar BACKYARD https://www.bar-backyard.com

ブルーノート東京 http://www.bluenote.co.jp

木内酒造 https://kodawari.cc/

ライブについて、また、開店時間などはお確かめの上、お出かけください。

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この記事を書いたひと

順いづみ

ビアジャーナリスト

ミュージシャン(ピアニスト)。ライブ・作曲・CD等で活動。指導歴37年。ライブハウスで飲むうちにビールに取り憑かれ深みにはまる。

一昨年より、作家・中沢健氏の講座に通う。昨年「事実に基づく小論文・エッセー(北野生涯教育振興会主催)」でエッセー「魔法使いの弟子」が二位入賞、作品集「すぐそばにある『世界』」の中に収められ、出版。
今年二月には小説「OnCue!」を電子書籍(Amazon)にて出版。お約束で一行目はビールから始まる。

その他、Twitter、YouTube、クラブハウス、インスタグラム(毎日発信)等々、上のお家マークのリットリンクからご覧いただければ幸いです。

ジュンウエノエンタティメント所属。
熊本県出身東京都在住。
ミステリ、都市伝説、ジャズ、ビートルマニア。

CD 「and You」 2012年
  「3粒のぶどう家族」 2017年
   (朗読CD付き絵本、CD音楽担当)
  「あの青い糸」(二部合唱曲) 2020年

日本の世界の、まだ見ぬたくさんのビールとの出会いを楽しみに生きてます。

メール: i@junizumi.com

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