【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 146~蔵の才人と傾奇ブルワー、時を超えた仕込み 其ノ
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、現在醸造中!物語完結時に販売する予定です

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ひさびさに会った幸民は、薄暗い部屋で不機嫌そうにひとり書物を読んでいた。酒は飲んでいないのだろう。直が入ってきたのを見ても、俯いたままボソボソと何か呟き、また書物へと目を戻す。
「師匠!大変だ。喜兵寿がさらわれた!」
直は台所に駆け込むと、酒の入った徳利を幸民へと手渡した。
「小伝馬の座敷牢に入れられたって!なあ、師匠何か知ってるか?!」
捕まってからまだ数時間。さすがに打ち首などにはなっていないだろうが、状況がわからない以上不安で仕方がなかった。
「うるさい。落ち着け」
酒をひと煽りした幸民がぴしゃりと言い放つ。
「わしは何も知らん。でも状況は今理解した」
幸民は手元にあった書物をどけると、大きな湯飲みに酒をなみなみと注いだ。平然を装ってはいるが、その手の震えから動揺が伝わってくる。
「相手は間違いなく村岡だろう。おそらくつるの件なのだろうが……喜兵寿を捕らえてどうするつもりだ」
「なぁ、師匠はつるを助けたんだろ!喜兵寿も今ならまだ間に合うはずだ。助けに行こう」
「それは無理だ」
今すぐにでも出て行こうとする直に、幸民は頭を振った。
「つるの一件で、座敷牢の警備はより強固になっているだろう。前回賄賂を受け取ったやつだって、処罰されている可能性もある。今座敷牢に向かうのは、こちらから捕まりに行くようなもんだ」
「じゃあ、どうすんだよ!」
「今は情報が少なすぎる。まずは何が起こっているのかを把握する必要が―……」
その時、引き戸を叩く音がした。咄嗟に直と幸民は口をつむぐと、お互いに顔を見合わせた。再び数回戸を叩く音の後に、薄気味の悪い声が響いた。
「ひっひっひっ……夜分遅くに申し訳ない。なぁに怪しいもんじゃありません」
幸民は、直に「隠れていろ」と手ぶりで伝えると、ゆっくりと引き戸を開けた。
「……何の御用でしょうか」
痩せた身体に落ちくぼんだ目。貧相な身体に似合わぬ、立派な羽織を着た男だった。
(同心か!)
その身なりと帯刀を見て、幸民は歯ぎしりをした。なんだって、今ここに同心が現れるのか。手の先、足の先から芋虫のような嫌悪感が這い上ってくる。それと同時に、つるのことを聞かれていなかったかと、心臓が早鐘のように鳴り出した。
「大したことじゃないんですがね……ひっひっひっ……ちょっと村岡さまのお屋敷まで来ていただきたく、お迎えに参りました」
幸民は男の言葉に耳を疑った。なぜ村岡の屋敷?処罰を下すというのならば、座敷牢にぶち込む、もしくは町奉行に連行されるのが常だ。同心の家に行くなど聞いたこともない。
「……それは、わたくしが何か罰せられるようなことを、したということでしょうか」
「いえいえいえ!ただ、村岡様がお話したいことのでして……ひっひっひっ……あぁ、もちろんそちらにいらっしゃる方もご一緒に来ていただきます」
男は目を大きく見開くと、台所に隠れていた直をまっすぐに見た。
「そう遠い距離ではございません。ご足労をおかけしますが、どうぞ今すぐ出発してくださいませ。でないと弥彦の首が飛んでしまいます故……ひっひっひっ……」
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。









