一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会

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題して「おじさんペアリング」ヒゲも髪もボウボウ!ベルギービールの名品「Barbe X」でペアリングしてみた【JBJAChannel】

ビールに愛された皆さまへ。

ベルギービールのボトルを眺めていると、ときどき「このラベル、誰なんだろう?」と手が止まることがあります。

今回のおじさんは、かなり強烈です。
髪はボウボウ。ヒゲもボウボウ。大きな「X」の真ん中から、なんとも味のある男性の顔がこちらを見ています。

このビールは、ベルギーの Brouwerij Verhaeghe(ブルワリー・ヴェルハーゲ) が造る 「Barbe X(バルブ・テン)」。
以前は「Barbe 10」の表記でも流通していましたが、現在の醸造所公式サイトでは「Barbe X」と紹介されています。

さて、このヒゲのおじさん。
日本人では、ここまでボウボウな人、そうそういません。海外ならではですね。

しかし、昔は日本人でも、ヒゲをたくわえる文化がありました。著名人でいうと。伊藤博文か、板垣退助か……。

いろいろ考えた結果、今回は雰囲気で、板垣退助伯爵とペアリングさせていただくことにしました。
もちろんラベルの人物が板垣退助だという話ではありません。伯爵に向かっておじさんとお呼びするのも失礼ですが、親しみを込めた「おじさんペアリング」です。

Barbe Xは、ベルギー産ハチミツを使った10%のストロング・ブロンド

Barbe Xは、アルコール度数 10% のゴールデン・ブロンド。上面発酵で、ヴェルハーゲ醸造所自身はスタイルを 「Heavy honey blonde」 と表現しています。

特徴的なのは、純粋なベルギー産ハチミツを使用していること。
醸造所公式サイトには、Barbe Xを「ベルギーのミツバチと家族経営の醸造所とのコラボレーション」と表現する、なんとも素敵な説明があります。

味わいについて醸造所は、フルボディでややフルーティー。ベルギー産ホップによる細かな苦味と、ベルギー産ハチミツの存在がこのビールを個性的なものにしている、と説明しています。
原麦汁エキスは21°Plato、容量は330ml、アルコール度数10%。しっかりした度数のあるベルギービールです。

飲んでみると、色から想像する以上に力強い。それでいて、ただ甘く重たいわけではありません。
黄色い果実や熟したバナナを思わせるニュアンス、モルトの厚み、スパイシーさ。そして後ろにハチミツを思わせる丸み。ハイアルなのに飲みやすい!

10%という数字は伊達ではありませんが、ベルギーのストロング系らしく、アルコールの力強さまで味わいの一部として楽しませてくれるタイプです。

冷やしすぎず、少し温度を上げながら、ゆっくり飲みたい一本です。

「Barbe」はヒゲという意味……だけではない

フランス語の「barbe」には「ヒゲ」という意味があります。
このラベルを見れば、「そりゃヒゲでしょう」と思ってしまうのですが、Barbeシリーズの名前には、もっと歴史的な由来があります。

ヴェルハーゲ醸造所によると、Barbeという名称は、かつてリエージュ旧市街に存在した中世の醸造所 「Barbe d’Or」 に由来します。
Barbe d’Orは、リエージュの古い家系である de Romsée家 が所有していた醸造所で、Barbeシリーズのロゴには同家の紋章が使われているそうです。

現在のBarbeシリーズには、Barbe d’Or、Barbe Ruby、Barbe Noire、そしてこのBarbe Xなどがあります。
つまり、このワイルドなおじさんのラベルにも、ちゃんとベルギーの歴史が詰まっているわけです。

「ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ」と同じヴェルハーゲ醸造所

木製のフーダーの並ぶヴェルハーゲ醸造所 photo by Jane

ヴェルハーゲと聞けば、ベルギービール好きの多くが最初に思い浮かべるのは、やはり 「Duchesse de Bourgogne(ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ)」 でしょう。
赤ワインのような酸味と複雑さを持ち、大型の木製熟成槽「フーダー」で熟成させるフランダース・レッド/ブラウン系の名品です。

そのドゥシャスを造っている醸造所が、こんなハチミツ入りの10%のブロンドも造っている。
ここがヴェルハーゲの面白いところです。

ヴェルハーゲ醸造所は、西フランダース州Vichte(フィヒテ)にある家族経営の醸造所。ベルギーの公的な文化遺産データベースによれば、1885年、Adolphe VerhaegheとPaul Verhaegheの兄弟によって創業しました。

現在も19世紀末から戦間期にかけての歴史的な建物や醸造設備が残されており、醸造所の建物そのものが文化遺産として保護されています。

醸造所の壁には、ハプスブルク家を思わせる双頭の鷲

ヴェルハーゲ醸造所の建物の外壁に取り付けられた紋章 Photo by Jane

ヴェルハーゲ醸造所を実際に訪れたジェーンさんによれば、建物の壁に残る双頭の鷲のような鉄製装飾について、現地ではハプスブルク家とのつながりを示すものとして説明を受けたそうです。

このあたりは、ドゥシャス・デ・ブルゴーニュの名前の由来を知ると、さらに面白くなります。
「Duchesse de Bourgogne」のモデルとなったのは、15世紀の ブルゴーニュ女公マリー。

彼女は1477年、ハプスブルク家のマクシミリアン――のちの神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世――と結婚します。
ブルゴーニュとハプスブルク。ベルギービールの名前からヨーロッパ王家の歴史までつながっていくのですから、一本のビールから広がる世界は本当に奥深いものです。

なお、醸造所の歴史的建築を記録したベルギーの公的資料では、この壁飾りそのものについてハプスブルク家の紋章であるとの説明までは確認できませんでした。
ここでは、現地を訪問した際に受けた説明として紹介しておきます。

さて、このおじさんを誰とペアリングする?

そして本題のおじさんペアリングです。

Barbe Xのラベルを眺めながら、日本史上の人物をいろいろ思い浮かべてみました。伊藤博文もなかなかのヒゲ。
でも、この髪とヒゲの自由奔放さ。

左:板垣退助、右:伊藤博文。1883年、二人はベルギーで会っている。出典:Wikimedia Commons(Public Domain)

今回はやっぱり――
板垣退助。

板垣退助伯に登場していただきましょう。
もちろん、顔が似ているかどうかについては異論を認めます。

でも、ちょっと似ているような。どうでしょう?

そして、この「板垣退助×ベルギービール」という組み合わせを調べ始めたら、思わぬところから本当にベルギーとの接点が出てきました。

伊藤博文と板垣退助、実はベルギーで会っていた

板垣退助(1882年頃) 出典:国立国会図書館/Wikimedia Commons(Public Domain)

伊藤博文(1883年5月、ベルリン) 出典:国立公文書館・文化遺産オンライン/Wikimedia Commons(Public Domain)

1883(明治16)年。

伊藤博文と板垣退助は、なんとベルギーで会っていたのです。

当時の伊藤博文は、日本の憲法制定に向けてヨーロッパ各国の制度を調査するため渡欧していました。
ベルリンやウィーンを中心に憲法・行政制度を研究していた伊藤は、1883年2月19日にベルリンを離れ、ベルギーへ向かいます。

伊藤の欧州憲法調査を研究した京都大学の論文には、その旅程の中に明確に、「ベルギーで板垣退助と会う」と記されています。

そして伊藤は3月3日にロンドンへ到着しています。つまり、2月19日のベルリン出発から3月3日のロンドン到着までの間に、ベルギーで板垣と面会したことになります。

一方の板垣退助も、この時期、後藤象二郎らとともにヨーロッパを外遊していました。

政府側で憲法制度を調査する伊藤博文。自由民権運動を率いる板垣退助。

まだ大日本帝国憲法も帝国議会も存在していない時代に、のちの日本政治に大きな足跡を残す二人が、遠く離れたベルギーで顔を合わせていたのです。

伊藤博文と板垣退助は、ベルギービールを飲んだのか?

ここまで来ると、ビール好きとしてどうしても気になります。

二人は、ベルギー滞在中にベルギービールを飲んだのでしょうか。

1883年のブリュッセルで二人はどんなビールを目にしていたのでしょうか。

残念ながら、板垣退助や伊藤博文がベルギーで何を飲んだのかを記した史料は見つかっていません。
ですが、二人がブリュッセルで会ったその年、街にはすでにビールを楽しむ店がありました。

グラン=プラス近くの「À La Bécasse」は1877年創業。現在もランビックやグーズで知られる歴史ある酒場です。
さらに、ブリュッセルではWielemans-Ceuppens(1862年創業、1868年に自家醸造開始、1988年閉鎖)があり、1881年にはForestの新醸造所を稼働させていました。

もちろん、板垣や伊藤がそこで一杯やった、という記録があるわけではないのですが、彼らが歩いた1883年のブリュッセルが、すでにこうしたビール文化の中にあったことは確かです。

残念ながら、どこで何を飲んだ、というところまで裏付ける記録は確認できませんでした。したがって、「板垣退助はベルギービールを飲んだ」とは書けません。

でも、1883年のベルギーを板垣退助が訪れ、そこで伊藤博文と会っていた。

そこまでは史料から確認できます。
二人がベルギービールを片手に日本の未来を語った――。

そんな場面が実際にあったかどうかは分かりません。
けれど、ベルギーの街に板垣退助がいたと知ってしまうと、ビール好きとしては、ついつい想像してしまいます。

ということで、今回のおじさんペアリング「Barbe X × 板垣退助」

(左)Barbe X (右)板垣退助(1882年頃) 出典:『憲政五十年史』/国立国会図書館、Wikimedia Commons(Public Domain)

ベルギー産ハチミツを使った、アルコール10%の力強いストロング・ブロンド。ラベルには、髪もヒゲもボウボウのおじさん。

そして、そのおじさんを眺めながら板垣退助を思い浮かべて調べてみたら、まさか本当にベルギーへ行っていたことが判明しました。

しかも伊藤博文と会っていた。

ビールという飲み物は、味や香りだけでも十分に楽しいものです。

でも、ラベルの絵、名前、醸造所の建物、歴史的人物――そんなところから寄り道していくと、一本のビールが思いがけない世界へ連れていってくれることがあります。
そんな寄り道も含めて、ビールを楽しんでみてはいかがでしょう。

今回の「おじさんペアリング」は、動画でも楽しくご紹介しています。

Barbe Xを飲む機会があったら、ぜひラベルのおじさんを眺めながら、「私は誰とペアリングしよう?」と考えてみてください。

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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MJ

ビアジャーナリスト/Youtube JBJA Channelプロデューサー

ビールと昆虫とリコーダーと天然石が大好きです。JBJAではイベントサポートやBJAチューターも楽しんで取り組んでおります。人に寄り添う記事作成を心がけ、JBJA公式動画サイトJBJAchannelではMCを担当しております。
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