[コラム]2017.3.29

穿いているのか穿いていないのか「ビヨンドザペール」―ビアレポート(139)

年度末で常軌を逸したバタバタ状態の私です。

今回ご紹介するのは、アメリカのフィッシュブリューイング「ビヨンドザペール」。

Beyond the pale

Beyond the pale

お察しの通りジャケ買いです。このラベルで注目すべきは、やはり穿いているのか穿いていないのか、ですよね。見事に標識で隠されていて、お盆で局部を隠す芸人を思い浮かべてしまいます。芸人と違うのは、靴下をしっかり穿いているところでしょうか。

さて、果たして穿いているのか穿いていないのか。それを紐解くために、まずはビールの名前を分析したいと思います。

このビールのスタイルはアメリカンペールエール。「Beyond the pale」ということで、そのペールなのかと思いますが、違います(それに引っ掛けたんだとは思いますが)。

ペールエールのpaleは形容詞。「(色が)薄い」とか「(顔が)青白い」といった意味です。beyondは前置詞ですので、その後ろに形容詞は続きません。となるとpaleは名詞としての意味もあるのかもしれないと想像できます。

調べてみると、paleは名詞として「(さくを作るためのとがった)くい」という意味もありました。さらに、「beyond the pale」でひとつの言い回しとして「常軌を逸した」とか「社会の常識を外れて」といった意味があるようです。

直訳すると「杭(柵)の向こう側」という意味になりますが、これがなぜ「常軌を逸した」という表現になるのか。これは、12世紀にイギリスがアイルランドに侵攻した際、支配した地域とそうでない地域の境目に杭を打って柵を作り、その向こう側は「野蛮な人たちの土地」としたからです。つまり、野蛮だから常軌を逸している、と。

今の時代からすれば問題のある表現とも言えますが、現在の英語としては一般的に使われているようですね。

味も確認してみましょう。メロン、マンゴー、ハチミツ、オレンジ、カラメルなどが複雑に混じり合いながらもバランスの取れたアロマ。飲めば口の中にもマンゴーやオレンジのフレーバーが。軽い酸味がジューシーさを出し、しっかりしたホップの苦味でまとめています。非常にクオリティの高いペールエールだと思います。ワールドビアアワードでも受賞しているビールですし、味としては常軌を逸しているということはありません。

で、穿いているのか穿いていないのかということですが、醸造所のウェブサイトを見ても答えは書いてありません。答えは自分の中にある、ということです。つまり、このラベルは芸術なのです。

さて、ここで岡倉天心の言葉を紹介しておきましょう。

作品のうちのなんらかを表現せず、空白のまま残しておくことによって、鑑賞者はその空白を自分流に補い、最終的に作品内容を仕上げる機会をあたえられる
(岡倉天心『茶の本』より)

ということで、作品内容を仕上げる機会をいただきました。そして、「beyond the pale」の持つ意味も勘案して、自分流に補った結果、

「穿いていない」

と認定しました。私からは以上です。

【BEER DATA】
ビヨンドザペール
生産地:アメリカ
醸造所:フィッシュブリューイング
スタイル:ペールエール
アルコール度数:5%

 

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01004富江弘幸

この記事を書いたひと

富江 弘幸

ビアライター

1975年東京生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。卒業後は出版社・編集プロダクションでライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学を経て、新聞社勤務。現在は日本ビアジャーナリスト協会ウェブサイトや『ビール王国』などで記事を執筆するほか、ビアジャーナリストアカデミーの講師も務める。
著書:BEER CALENDAR』(ワイン王国)
連載:あなたのしらない、おいしいビール』(cakes)
執筆:ビール王国』(ワイン王国)、『日本のクラフトビール図鑑』『ビールの図鑑』(マイナビ)、『東京人』(都市出版)など

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