[コラム,ブルワー]2018.11.3

苦い飲み物が生みだすFactory & Laboratoryの場【ブルワリーレポート ISANA BREWING編】

ISANA BREWINGブルワリーレポート千田恭弘氏東京都昭島市

2018年4月の酒税法改正から半年。同年1月から3月の期間には70を超えるブルワリーが交付を受けたが、4月以降は4社のみとなっている(※1)。その1つが8月16日に免許が交付された東京都昭島市にある「ISANA BREWING」だ。どのようなコンセプトでビールづくりをしているのか? 話を聞きたく醸造所を訪れることにした。

※1 2018年7月現在。ビール免許・発泡酒免許の合計のうち移転、試験醸造については除く。なお、両方申請し、交付された醸造所については、まとめて1つとして数えた。

2つの苦い飲みもので笑顔がたくさん集まる場所に

JR青梅線昭島駅から徒歩3分。周囲に住宅街や商業施設もある地に「ISANA BREWING」はある。醸造責任者であり代表を務める千田恭弘氏にコンセプトを聞いてみた。

「コンセプトは、『苦い飲み物でみんなを笑顔にするFactory & Laboratory』。ここはブリューパブですが、コーヒーも提供しています。どちらも苦味が特徴の飲みもの。苦味はマイナスのイメージがありますが、この2つは飲むと笑顔になる飲みものなんです」と話す。

白と木を基調とした外観。車や人通りも多く、見慣れない醸造タンクに「何のお店なの?」と不思議がる人も多いのだとか。

「ビールとコーヒーを通じてコミュニケーションが生まれる場にしたい」と考えている。

北の大地で目覚めたクラフトビール

大学時代は、周囲から就職すると思われていたくらい「スターバックスコーヒー」でバイトをし、「コーヒーと接客をすることが好きになりました」という。しかし、当時はものづくりへの関心の方が強く、卒業後は機械メーカーへ就職。その後、半導体製造装置メーカーの研究開発部や航空宇宙関連のセンサーをつくる会社で仕事に就いた。

自家焙煎して提供しているコーヒー。「ISANA BREWING」は、自家醸造と自家焙煎をしている珍しいブリューパブだ。

社会人となり金銭的に余裕も生まれカフェを巡るなか、「いつか自分でも店を開いてみたい」と、願望をもちながらも「起業する自信はありませんでした」という。そんななか転機が訪れる。「6年前くらいに『小樽ビール』で工場見学をさせてもらいました。たまたま私1人で、ブルワーさんが熱心にクラフトビールについて話をしてくれたこと、ヴァイスビールの美味しさに、この世界が好きになってしまいました」。

さらに友人に借りたビールの本にイギリスのビール文化に興味をもった。「イギリスに古くからビール文化があることは知らず、ビールは、ドイツかアメリカ、それとチェコくらいの認識でした。それまでイギリスに全然興味がなかったのですが、『パブ文化は面白そうだ』と思って現地を訪れて様々なパブを巡りました」。帰国後、調べてみると小規模でもビールがつくれることがわかり、「自分もやってみたい」と思うようになった。

ブリューパブを選んだのは、「スターバックスは、『コーヒーはコミュニケーションのツールでしかない』という考えがあり、私もその考え方が好きでした。クラフトビールの良いところは、つくり手と飲み手の距離が近いことだと思います。ビールを通じて、つくり手と飲み手、飲み手同士のコミュニティを広げるにはブリューパブが1番良いと思いました」と話す。

店内は木を基調とし、大きな窓で明るく落ち着いた空間になっている。カウンター席もあるので、1人でも気軽に訪れる。

昭島に決めたのは「水」と「クジラ」

数年前に昭島の地に移ってきた千田氏。この地にブルワリーを構えたのは「水」だという。「昭島市は都内で唯一、深層地下水のみを水源として供給しています。飲んでみて『とても美味しい』と感じ、ここを拠点にしようと決めました。ミネラル分が多く、薬品も法律で決められた必要最低限の塩素のみなんです」と教えてくれた。

店内には、地下水を飲むことができるタップがあるので、訪れた際にはその美味しさを体感してほしい。

ブルワリー名にある「ISANA」には、どのような意味があるのだろうか。

「漢字で書くと『勇魚』。昭島はクジラが有名で、昭和36年に多摩川の河川敷から全身骨格がでてきました。それにちなみ色々なところでクジラの名前が付いたお店や通りがあります。私もクジラが好きで、この地に由来する名前を付けたいと思いました。ただ、『昭島クジラ醸造所』とか『クジラブルワリー』は、ピンとこなくて他に探していると『万葉集』にクジラの古語である『勇魚』という言葉をみつけました。これは格好いいなと思い使うことにしました。

「ISANA BREWING」のロゴ。クジラとコニカルタンクが合わさっている。色はFACTORY & LABORATORYのテーマに合わせ、製造の現場を思わせる黄色と黒を用いている。【画像提供:ISANA BREWING】

ビールづくりに重要な良質な水と好きなクジラ。千田氏が昭島の地でビールをつくることは必然だったのかもしれない。

特に変わらなかった改定後の動き

冒頭に書いた通り、改定後の8月に交付を受けた。改定にあたり、手続きに変更はあったのだろうか?

「免許の申請は大変なところはありましたが、法改定の影響はありませんでした。強いていうならば、発泡酒の副原料を何にするかという打ち合わせが大変でした。時間を要したのは、スロベニア製の設備を使うことになり、現地で日本仕様に変更してもらったからです」。

千田氏自身は、改定によって手続きが難しくなった印象は受けないという。

醸造所の様子。「Roto Brewery」からアドバイスを受け、導入した。

ナイトロバージョンも楽しめる!

オリジナルビールは、9月22日から提供がはじまったばかり。

「特徴は、1つ目が地下水を使っていること。2つ目は窒素ビールでの提供です。オリジナルビールの半分は、ナイトロバージョンにして提供しようと考えています。あとは、優しい感じで飲みやすいビールに仕上げることを心がけています」と、ビールの特徴を問うには早いのかもしれないが、聞いてみるとこのように答えてくれた。

左はサンダーバード(イングリッシュIPA)。右がハーフボイルド ナイトロバージョン(ミルクスタウト)。ノーマルとナイトロで飲み比べ、違いを感じるのも楽しい。

取材時の時点で仕込みは5回。「まだ仕込むスケジュールが安定しなくて、ビールをつくるタイミングがつかめないですね。こればかりは、繰り返し行って経験を積むしかありません。それとホップや酵母といった原料の使い方も、もっと勉強していかないといけないですね」と、試行錯誤を重ねて品質の安定供給と向上を目指している。

まだまだだからこそ夢もある。

「自家焙煎しているくらいコーヒーも大好きなので、美味しいコーヒービールはチャレンジしたいです。それと昭島の水が利用できる場所で、今よりも一回り大きい設備でビールをつくりたい思いはあります。そのときはここをラボバッチ(※2)を提供する場にして、色々なビールをつくってみたいですね」。

※2 試験醸造的なビール

真面目に遊ぶ大人のためのFactory & Laboratory(ものづくりと実験の場)として、深層地下水、素材、人の出会いによる化学反応を研究し、感動と驚きで笑顔になれる「苦い飲み物」をつくる「ISANA BREWING」。これからどんなビールで私たちを驚かし、笑顔にしてくれるのか?

定期的に訪れたいブルワリーがまた1つ増えた。

◆ISANA BREWING Data

住所:〒196-0015 東京都昭島市昭和町2-7-15 エクセレンス昭島 1F-B

電話:050-5327-9884 (お客様専用)

Homepage:https://www.isana-brewing.com

Facebook:https://www.facebook.com/isanabrewing/

営業時間:営業時間:平日17:30~22:00 土日祝 12:30~22:00 (ラストオーダー 21:30)

休業日:水曜日,祝翌日+不定休(醸造のため不定休)

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05007木暮 亮

この記事を書いたひと

木暮 亮

ビアジャーナリスト

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは2000種類以上。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

【メディア出演】
テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」

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